24 / 42
『勝つぞ』
しおりを挟む
終盤の二回は貴史が圧巻のピッチングできっちり締めた。
「エンジンかかるのが遅いんだよ、お前は」
帰りの電車の中で篤が貴史を小突く。
「いいじゃん。勝ったんだからよ」
室橋が掴まったつり革にぶら下がるように体を預けながら言う。夕方の、オレンジ色の日差しが差し込む車内は少し混み始めていた。野球部の一番打者から四番打者と投手。帰る方向が一緒だった。
「それよりさ……去年と同じところまで来たぞ」
「ああ」
五人は流れゆく車窓の景色を黙って見ていた。赤い空が明日の快晴も予感させた。
「そういや、期末はどうだったよ」
「そんなのは知らねぇ」
「問題は次の相手だろ」
倉元が呟いた。
準々決勝の対戦相手校は、春の甲子園、選抜で準優勝した強豪校だった。
「スゲーぞー。打線はどっからでもホームラン。投手もさ、エース以外になんだか色々いそうだったぞ」
先日、偵察がてら試合を観に行ってきた、という室橋が言った。
「層の厚さがハナから違うよー。こっちはしがない公立校。ハンデ欲しいくらいだよな」
泣き言混じりに権田が言った。彼の頭を篤が軽く叩く。
「ばかやろ。戦う前から言うんじゃねぇ。向こうはきっとこっちなんてノーマークだよ。それならまだ付け入る隙はあるさ」
篤は続けた。
「俺はまだみんなと野球がしたい」
そこにいた全員が……権田も倉元も室橋も、そして貴史も黙って頷いていた。
ふう、とため息混じりに篤が言った。
「にしてもな……せめてもう一つ先で当たりたかった相手だよな。誰だよ、抽選に行ったのは」
「お前だよ」
その場にいた全員が突っ込んだ。
「エンジンかかるのが遅いんだよ、お前は」
帰りの電車の中で篤が貴史を小突く。
「いいじゃん。勝ったんだからよ」
室橋が掴まったつり革にぶら下がるように体を預けながら言う。夕方の、オレンジ色の日差しが差し込む車内は少し混み始めていた。野球部の一番打者から四番打者と投手。帰る方向が一緒だった。
「それよりさ……去年と同じところまで来たぞ」
「ああ」
五人は流れゆく車窓の景色を黙って見ていた。赤い空が明日の快晴も予感させた。
「そういや、期末はどうだったよ」
「そんなのは知らねぇ」
「問題は次の相手だろ」
倉元が呟いた。
準々決勝の対戦相手校は、春の甲子園、選抜で準優勝した強豪校だった。
「スゲーぞー。打線はどっからでもホームラン。投手もさ、エース以外になんだか色々いそうだったぞ」
先日、偵察がてら試合を観に行ってきた、という室橋が言った。
「層の厚さがハナから違うよー。こっちはしがない公立校。ハンデ欲しいくらいだよな」
泣き言混じりに権田が言った。彼の頭を篤が軽く叩く。
「ばかやろ。戦う前から言うんじゃねぇ。向こうはきっとこっちなんてノーマークだよ。それならまだ付け入る隙はあるさ」
篤は続けた。
「俺はまだみんなと野球がしたい」
そこにいた全員が……権田も倉元も室橋も、そして貴史も黙って頷いていた。
ふう、とため息混じりに篤が言った。
「にしてもな……せめてもう一つ先で当たりたかった相手だよな。誰だよ、抽選に行ったのは」
「お前だよ」
その場にいた全員が突っ込んだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
月曜日の方違さんは、たどりつけない
猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」
寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。
クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。
第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、
かれん
青木ぬかり
ミステリー
「これ……いったい何が目的なの?」
18歳の女の子が大学の危機に立ち向かう物語です。
※とても長いため、本編とは別に前半のあらすじ「忙しい人のためのかれん」を公開してますので、ぜひ。
ユメ/うつつ
hana4
ライト文芸
例えばここからが本編だったとしたら、プロローグにも満たない俺らはきっと短く纏められて、誰かの些細な回想シーンの一部でしかないのかもしれない。
もし俺の人生が誰かの創作物だったなら、この記憶も全部、比喩表現なのだろう。
それかこれが夢であるのならば、いつまでも醒めないままでいたかった。
話花【咲く花舞う花巡る季節】-桜の咲く頃舞う頃に-
葵冬弥(あおいとうや)
ライト文芸
オリジナル小説「咲く花舞う花巡る季節」のプロローグです。
サクヤとマイの百合物語の始まりの物語となります。
この話は他の小説投稿サイトにも投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる