この夏をキミと【完結】

友秋

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『勝つぞ』

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 終盤の二回は貴史が圧巻のピッチングできっちり締めた。

「エンジンかかるのが遅いんだよ、お前は」

 帰りの電車の中で篤が貴史を小突く。

「いいじゃん。勝ったんだからよ」

 室橋が掴まったつり革にぶら下がるように体を預けながら言う。夕方の、オレンジ色の日差しが差し込む車内は少し混み始めていた。野球部の一番打者から四番打者と投手。帰る方向が一緒だった。

「それよりさ……去年と同じところまで来たぞ」
「ああ」

 五人は流れゆく車窓の景色を黙って見ていた。赤い空が明日の快晴も予感させた。

「そういや、期末はどうだったよ」
「そんなのは知らねぇ」
「問題は次の相手だろ」

 倉元が呟いた。

 準々決勝の対戦相手校は、春の甲子園、選抜で準優勝した強豪校だった。

「スゲーぞー。打線はどっからでもホームラン。投手もさ、エース以外になんだか色々いそうだったぞ」

 先日、偵察がてら試合を観に行ってきた、という室橋が言った。

「層の厚さがハナから違うよー。こっちはしがない公立校。ハンデ欲しいくらいだよな」

 泣き言混じりに権田が言った。彼の頭を篤が軽く叩く。

「ばかやろ。戦う前から言うんじゃねぇ。向こうはきっとこっちなんてノーマークだよ。それならまだ付け入る隙はあるさ」

 篤は続けた。

「俺はまだみんなと野球がしたい」

 そこにいた全員が……権田も倉元も室橋も、そして貴史も黙って頷いていた。

 ふう、とため息混じりに篤が言った。

「にしてもな……せめてもう一つ先で当たりたかった相手だよな。誰だよ、抽選に行ったのは」
「お前だよ」

 その場にいた全員が突っ込んだ。
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