愛の言葉を添えて

友秋

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 小学生の時から出場していた大きなコンクールの全国大会で、毎年会う少年がいた。

 レオン時任。

 咲希とレオンはいつも優勝と準優勝を競い、いつしか大切なライバルとなり、毎年会うのが楽しみとなっていた。

『僕らは織姫と彦星』

 中学生になった頃、笑いながら話したレオンにドキンとしたのは、今思えば初恋の始まりだったのかもしれない。

 イタリア人と日本人のハーフだったから、幼い頃からドキドキさせるセリフを呼吸をするように言えたのだろう、と咲希は思い出す。

「織姫と彦星、か」

 ピアノの前に座り、譜面台の楽譜を眺めてフフと笑ってしまった。

 シューマン作曲。
 歌曲集『ミルテの花』。

 レオンの中には、陽気な情熱家イタリア人の血と、堅実控えめ、シャイな日本人の血が上手くバランスを取って流れているらしい。

 高校1年生で国内最高峰の日本音楽コンクールで優勝したレオンは、その後ピアノ界から姿を消した。

 再会したのは十年後。

 札幌で色々あった後の失意のウィーン。

 レオンはなんと、テノール歌手になっていた。

 オペラ歌手だ。

 どんな転身⁈

 抜群のスタイルを誇る長身に、舞台映えする目鼻立ち。

 立居姿だけで絵になる容姿に加えて聴衆を虜にする甘い歌声と圧倒的な歌唱力。

 初めて観たウィーン歌劇場での『ラ・ボエーム』で痛いほど納得させられた。

 既に、一流の売れっ子歌手として引く手数多だった。

 驚く咲希にレオンは言った。

『僕の織姫。僕はいつか会えると信じて頑張ってきたよ。いつか必ず、一緒に音楽をしよう』

〝音楽〟。

 私達は、音楽で繋がってきたんだ。

 ひと月前に、ウィーンでのジョイントコンサートとレコーディングのオファーがレオンから直接来た。

 やっと、レオンと同じ舞台に立てるところまで来たんだ、私。

 一瞬の迷いも無く引き受けた咲希は、舞い上がる感情そのままに愛する夫に報告したが、反応はイマイチだった。

「なんで、玲君? もっと喜んでくれると思ったのに」

 鍵盤に手を置いた時、そばに置いてあったスマートフォンが着信を知らせた。
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