ねぇ、大好きっていって

友秋

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お灸を

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 月曜日。さすがに週の始めっから呑もうという輩はそういないらしい。

 居酒屋は週末ほどの活気は無く、かえって静かに酒を酌み交わせていいのかもしれない。

 最近は俺から誘うことが多かったんだけど、今夜は誠から誘ってきた。

ーーのだが。

「お前、機嫌、悪くねーか?」
「別に」

……充分ご機嫌斜めじゃねーか。

 ビールを手酌する誠の表情筋が、会った時からまったく動かない。

 ムスッとした綺麗な顔はかなり感じ悪いぞ。

 つーか、おい。お前から誘ってきたんだろうが。

「言いたいことあるなら言えよ。気分悪いぜ」

 低い声で言ったが、心当たりは一切ない。

 それより、この間、喫煙室から思いがけず見かけた誠の車からひよが出てきた一件。

 その話も聞いてねーぞ。

 この不機嫌マコちゃんに釣られて俺も不機嫌になる。

 せっかくの久しぶりの呑みが最悪の空気から始まるってどういう事よ?

「遼太、先週の月曜日翠川さんと池袋にいた?」

 唐突に、意表を突かれた。

「なんでそれを、お前が?」

 誠が、軽く睨んでる。

 最近の誠で、こんなに不快の感情を露わにするのはかなり珍しい。

 それにしたって、咎められる理由が一切分からない。

 ため息を吐いた俺はグイとグラスのビールを飲み干して説明。

「三年時の担任だった松本先生が還暦だから同窓会に招待しようってことになった話は前にしたよな?
その時に記念品渡そうってことになったんだよ。
その品選びを一緒にしただけだ。
それをなんでお前に睨まれなきゃなんねーんだよ」
「まあ、だいたいそんなことだろうな、とは思ったんだけどね。ただ、腕組んで歩く必要はあったのかな、って思ったんだよ」

 は?!

 俺は、ガタンと立ち上がりかけて、周りを見て慌てて座り直した。

「な、なに言って」
「ひよりちゃんが目撃したんだって。その衝撃的な光景を」

 一瞬、空気が凍ったように感じた。

 なんか、すげー耳鳴りがする。

「ひよが?」

 言葉にできたのは、それだけだった。後は出てこない。

 グラスに口を付けたまま黙って頷いた誠の顔は、能面のように無表情で冷たくて、綺麗すぎる分だけすげー迫力だった。

 いや、そんなこと冷静に分析している場合じゃない!

「なんでひよが――」
「なにか、言い訳は?」

 俺の言葉を、キツイ口調の誠の言葉が覆い被せた。

「言い訳って……。菊乃は友達だからよ、腕絡めてくることに特別な意味はねーよ。無下に振り払ったりしたら、返って意識してるみたいになるだろーが。それに、実際、直ぐに解いて普通に歩いて……」

 そこまで話して、ああ、腕組んだのは確か会って直ぐで、その後は一度もそんなことしていない、と思い出した。

 ということは、あの池袋の混雑した駅の構内でよりによってものすごい確率でひよはそんな場面に出くわしてしまったというわけで。

 ああっ、くっそ!!

 クシャクシャッと頭を掻いた俺は、ちょっと待てよ、と思う。

 なんで、ひよがそんなのを見た、ってこと誠が知ってるんだ?

「おい、誠。なんで、こんなことお前が知ってんだよ」
「ひよりちゃんから直接聞いた」
「なんでだよっ!」

 思わず声を荒げてしまって首を竦めた。

 店に、客が少なくてよかった。近くいいた店員に軽く頭を下げてビール瓶をかざし、もう一本、と注文してごまかす。

 声を落として改めて誠を睨み、言った。

「なんで、そんなことひよりがお前に話すんだよ。いつの間に、そんなこと話す関係になってんだよ」

 誠は、しれっとしたもので。表情を変えずに答えた。

「この前、病院で偶然会って学校まで送った話し、ひよりちゃんから聞いた?」
「ああ?」

 ちょっと待て、聞いてない。

 場合によっちゃ、誠でもただじゃおかねぇ。

 誠、ため息を吐いた。

「そっか、ひよりちゃん、遼太にまだ話してなかったんだ」

 睨む俺に誠は少しも曇りない表情で言う。

「研修でお世話になってる整形にひよりちゃんが偶然来たってとこまで聞いた?」

……聞いてない。

 俺の様子に誠は眉間に縦じわを寄せた。

「駄目じゃん、全然」

 ため息混じりに誠は首を振った。

「遼太が全然分かってないって事が今分かった」
「は?」

 誠が、ニッコリ笑う。

「ひよりちゃんと、今度出かけてみようかな」
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