ねぇ、大好きっていって

友秋

文字の大きさ
上 下
52 / 73

大晦日

しおりを挟む
 今夜は、お家で年越し宴会、ということで、ママとおばさんがキッチンでお料理してます。これはこうして、こうやって、と作り方を相談していたと思ったら、冗談言って大笑いしたり。とっても賑やか。

 あたしがいるリビングからカウンターになってるキッチンはよく見えるんだけど、ママもおばさんもすごく楽しそう。

 おばさんとママは、よくしゃべって、よく笑って、まるで姉妹。そうだよね、生まれた時からずっと一緒って言ってたもんね。

 あたしは、歩くのもびっこ引いてるからママもおばさんも「ひよちゃんは座ってなさい」って。だから今はこうしてリビングのソファに座ってテレビ観てる。

 なんだか、さびしいです。賑やかなのに、さびしいなんて言ったら神さまに怒られちゃうかな。

 でも。あたしの胸の中にずっとモヤモヤした雲があって晴れなくて。そのせいかな。

 外は、ゆっくりと暮れ始めてる。遼ちゃんの予定は――、今夜は大学時代のお友達と呑み会の予定が入っているみたいです。

 しょんぼり。

 あたし、こんな足じゃ、どこにも行けないもん。このまま、紅白観て、お蕎麦食べて、年越しちゃうのかな。

 遼ちゃん。心が、離れちゃうーー。



 夜になって、ママとおばさんが呑み始めた頃、年末ぎりぎりまでお仕事していたおじさんがやって来た。

 すでに仕事のお仲間さんと呑んでて、少し酔っぱらってるおじさんがあたしに四角い包みをくれた。

 クリスマスの包装紙です。ちょっと大きいですよ?

「ひよりちゃんにクリスマスプレゼントだよー」

 え? くりすます?

「あなた、なーに? 今さらー?」
「仕事場のロッカーに、入ってた。職場のクリスマス会だったかで、ビンゴで当てたの忘れてたー」

 そう言って、おじさんワハハと笑った。酔っぱらってご機嫌で、いつもの物静かなおじさんが別人みたいになってます。

「ゲーム機らしいんだけど、遼太にやっても仕方ないからひよりちゃんにあげようと思ってね。でもロッカーの奥に入れて忘れてしまってたんだな」

 そうなんだー。

 おばさんが「あなたったらー」と文句言って、ママは「まぁ、すみません」と言っていた。

 あたしは、というと。やっぱりプレゼント貰えるのは嬉しいな。

「おじさん、ありがとう! あたし、足がこんなだから、どこにもいけないし、いいものもらっちゃった」

 おじさん、嬉しそうな笑顔であたしの頭を撫でてくれた。

「ひよりちゃんに喜んでもらえるのが、おじさん一番嬉しいなあ」

 おばさんが、お酒のグラス片手にフフフと笑った。

「うちは娘いないから、この人、ひよりちゃんかわいがることで娘持つ父親の疑似体験してるの」

 おじさんは、そうそう、と言いながらおばさんの隣に座って、渡されたグラスにママからお酒注いでもらう。

「晃太も健太も一向に嫁さん連れて来ないしなぁ」
「アハハ、そうね」

 おじさんの言葉に、ママもおばさんも笑ってた。

 晃太さん、健太さん、というのは、遼ちゃんのお兄ちゃん。あたしとはあんまりにもお年が離れているので、一緒に遊んでもらったりした記憶はほとんどないのです。

 もうお家にもいないし遠くに住んているので、お顔もあまり覚えてません。パパもママも、よく知ってるみたいだけど。

 そっか、まだ結婚はしてないよね、そういえば。

 けっこん。

 その言葉、思い浮べてちょっとドキッとしちゃった。

 遼ちゃん。あたしは、遼ちゃんのお嫁さんになれるのかなぁ。

 小さい頃はいつも、遼ちゃんのお嫁さんになるの、って言ってた。あの頃の気持ちと、今の気持ちじゃ、言葉の重さが違うけど、やっぱりあたしは遼ちゃんのお嫁さんになりたいです。

 あたしは、ソファの上で膝をだくように座って、その上に顔をのせた。そのまま、おじさんがくれた包みを開ける。

 あー、任天堂スイッチ! すごーい、カセット付き? スーパーマリオ、かな。

 これ、おじさん、ほんとにビンゴの賞品かなぁ。

 おじさん交えてママたちはますます楽しそうに盛り上がる。

 ママもおばさんもおじさんも、あたしがひとりぼっちにならないように時々色んなことを聞いたり話し掛けたりしてくれたけど、次第に大盛り上がりの大宴会になって、三人でわいわい飲んだり歌ったりが始まった。

 楽しそう、と思いながら、あたしはもらったゲームを始めてみた。

 ピーチ姫がかわいくて、楽しい。

 普段、ほとんどゲームなんてしないあたしが時間も忘れて夢中でピコピコやっていると。


「なんだ、ひよ、珍しいな、ゲーム?」

 あたしの耳に馴染んだ、あたしを蕩けさせてしまう、大好きなお声が、頭の上から降ってきた。

 パッと振り返って見上げると。

「よっ、なんか久しぶりだよな、ひよ」

 頭を、撫でる大きな手。

 遼ちゃん、遼ちゃん、遼ちゃん!

「いったぁっ!」
「あ、こら、ひよっ、立つな!」

 あたし、遼ちゃんに飛びつこうとして、思わず立ち上がってケガをしていた足を思いきり床に着いちゃった。

 激痛が走って膝が折れて、崩れそうになったところを、遼ちゃんの腕に支えられた。

 あ……遼ちゃん。

 たくましくて、強い腕が、あたしのカラダを抱いてくれる。

 遼ちゃんだ。見上げると、遼ちゃんの優しい大きな目があたしを見て笑ってる。

 今まで、会いたくて会いたくて、遼ちゃん求めて胸に詰まっていた想いが、出口に殺到して大渋滞してます。

 せっかく久しぶりに、遼ちゃんに触れているのに。あんなにあんなに触れたくて触れたくて仕方なかった遼ちゃんに触れているのに。

「あ、あ、あのね、」

 言葉が、出てこないの。

 金魚みたいにお口パクパクしているあたしに、遼ちゃん、プッと吹き出した。

「なに? 餌ほしい?」

 ひっ、ひど――――――いっ!

「遼ちゃんのばかっ!」

 ちがうちがう、こんな言葉が言いたかったんじゃないのに!

 りょ、遼ちゃんが変なこと言うから!

 頬を膨らませて睨んだあたしに、遼ちゃん。

「冗談だよ、ごめんごめん」

 笑いながらあたしを両手で抱き上げてソファに座らせてくれた。

「遼太―、遅かったじゃないの。ほら、駆けつけ一杯よー」

 まだなにも注がれていないワイングラスをこちらにむけるおばさんと、ボトルを持って注ぐ準備ばっちりのママ。

「駆けつけ一杯って、今俺ワイン一気したら死ぬぞ」

 呆れ半分で言う遼ちゃんのお顔を、ソファに座っているあたしは見上げた。

 遼ちゃん、呑んで来たみたいだけど。ほとんど酔ってはいないみたい。

 帰ってきてくれたの?

 死にゃぁしないわよぉ、というおばさんと、遼ちゃん軽く言い合いが始まった。

 おじさんはもう酔い潰れて寝ちゃってます。ママは、ニコニコしながらおばさんと遼ちゃんのやり取り見てる。あたしは、遼ちゃんが来てくれただけで嬉しくて嬉しくて。

 遼ちゃんは、ママたちのところに座って、お話し始めたけど、ほとんどお酒に手をつけない。

 遼ちゃん、呑まないのかな?

 そんな風に思いながらあたしはテレビを観た。

 紅白が、もう終わりに近づいてる。あ、遼ちゃん、日付が変わるよ? 新年は遼ちゃんと一番最初のご挨拶が出来るのね。

 あたしが、そわそわしていると。

「そうだ、俺、近所の神社にひよ連れて初詣行ってくるよ」

 え?

「あら、それはいいわね。でも、松葉杖のひよちゃん連れて行くのはたいへんよ?」

 ママが言うと、遼ちゃんは。

「おぶって行く。ひよは軽いから」

 ハハハと笑った遼ちゃんは「ほら、ひよ行くぞ」とあたしをソファからお姫様抱っこで抱き上げた。

 ふわっとカラダが浮いて、あたしはとっさに遼ちゃんに掴まった。

 遼ちゃん!?

 お酒が入ったママとおばさんは、遼ちゃんの思いつきと行動を深く追求することもなく。

「いってらっしゃーい」

 と、上機嫌で手を振って見送ってた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最初に好きになったのは…声

高宮碧稀
恋愛
やわらかな声と、やさしい笑み。ぷにぷにしたそこかしこ。 結構モテるオレと、図書室のマル。こんなはずじゃなかったのに… この気持ちに名前をつけて、逃げずに向き合ったら、以外とライバルも多くて苛立ちがとまらない。 責任を取ってもらうべく、今日も図書室に足を向ける。 いつか、絶対名前を呼んでもらうために。 他サイトで2010年から公開していたものを加筆修正しています。 完結までこぎつけますように。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺

NOV
恋愛
俺の名前は『五十鈴 隆』 四十九歳の独身だ。 俺は最近、リストラにあい、それが理由で新たな職も探すことなく引きこもり生活が続いていた。 そんなある日、家に客が来る。 その客は喪服を着ている女性で俺の小・中学校時代の大先輩の鎌田志保さんだった。 志保さんは若い頃、幼稚園の先生をしていたんだが…… その志保さんは今から『幼稚園の先生時代』の先輩だった人の『告別式』に行くということだった。 しかし告別式に行く前にその亡くなった先輩がもしかすると俺の知っている先生かもしれないと思い俺に確認しに来たそうだ。 でも亡くなった先生の名前は『山本香織』……俺は名前を聞いても覚えていなかった。 しかし志保さんが帰り際に先輩の旧姓を言った途端、俺の身体に衝撃が走る。 旧姓「常谷香織」…… 常谷……つ、つ、つねちゃん!! あの『つねちゃん』が…… 亡くなった先輩、その人こそ俺が大好きだった人、一番お世話になった人、『常谷香織』先生だったのだ。 その時から俺の頭のでは『つねちゃん』との思い出が次から次へと甦ってくる。 そして俺は気付いたんだ。『つねちゃん』は俺の初恋の人なんだと…… それに気付くと同時に俺は卒園してから一度も『つねちゃん』に会っていなかったことを後悔する。 何で俺はあれだけ好きだった『つねちゃん』に会わなかったんだ!? もし会っていたら……ずっと付き合いが続いていたら……俺がもっと大事にしていれば……俺が『つねちゃん』と結婚していたら……俺が『つねちゃん』を幸せにしてあげたかった…… あくる日、最近、頻繁に起こる頭痛に悩まされていた俺に今までで一番の激痛が起こった!! あまりの激痛に布団に潜り込み目を閉じていたが少しずつ痛みが和らいできたので俺はゆっくり目を開けたのだが…… 目を開けた瞬間、どこか懐かしい光景が目の前に現れる。 何で部屋にいるはずの俺が駅のプラットホームにいるんだ!? 母さんが俺よりも身長が高いうえに若く見えるぞ。 俺の手ってこんなにも小さかったか? そ、それに……な、なぜ俺の目の前に……あ、あの、つねちゃんがいるんだ!? これは夢なのか? それとも……

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

桜の木の下で

詩織
恋愛
桜の木の下で5年後恋人がいなかったらしてあげると、言ってくれた。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...