25 / 73
張り合い side遼太
しおりを挟む
結局、ひよを不本意ながら泣かせてしまったあの日から、行事の準備、雑務、残業が続いて、〝なかよし〟どころか会ってもいない。
たまに校内で見かけた時に、おでこの絆創膏がなくなっていて少しホッとしたりする。
東矢の野郎。アイツが変な事言うから余計なこと色々考えてしまった。と言いたいところだが、悪いのは自分だ。
それにしても、アイツ、ひよにはあの日何も話さなかったのか?
日にちが経てば経つほど、忘れるどころか膨らむ疑念。
考えていても仕方ねぇな。
土曜日の夕方、近所の小さなバッティングセンターに久々顔を出した。古ぼけたココは、俺が小学生の頃通いつめた場所だった。野球好きなおじさんが趣味でやっている。
土曜の夕方だというのに、親子連れ1組かよ。
「ココは相変わらずシケてんな、おやっさん」
カウンターでテレビを見ていたおじさんに話しかけた。
「なんだ遼太。久々顔出したと思ったら憎たらしいクチをききやがる」
その言葉とは裏腹に、おじさん相好を崩す。
「東矢は?」
「奥にいるぞ」
おじさんが指差した。ああ、やってるやってる。
高速ケージでガンガン打ちまくってる東矢が見えた。東矢を見ていた俺におじさんが笑う。
「待ち合わせ場所にここ使うなんて、ガキの時から変わんねーな、お前らは」
「ココが一番素直に話が出来んの。ハイ両替よろしく」
カウンターに片頬ついてニコニコのおじさんは、俺が渡した千円札を2枚受け取り、ジャラッと小銭を渡してくれながら言った。
旧式のマシンは大量の小銭がいる。イマドキこんなマシン使ってるとこないよな、と苦笑いしながら東矢の方へと行った。
140キロのマシンを据えたケージで東矢はホームラン級の当たりを連発していた。バッティングフォーム、昔とちっとも変わらない。
左打ち。打つ瞬間、右足を少し上げてから踏み込んで――……振り切る。キィン! と打球が上方の的に当たる。
「ぜんぜん鈍ってないんだな」
東矢のケージのネットに手を掛けて外から声を掛けた。
学校で見るヤツとは違う。シックな色のシャツとジーンズ。
「ストレス解消にしょっちゅうやってんだ……よっ!」
快音が響く。小気味いいな。
「お前がストレス溜まる事なんてあんのかよ」
「下半身はないねぇ――――!」
答えと同時に一際大きな快音が響き渡った。
……ああそうかい。
隣の同じ球速のマシンが入っているケージに入った。備え付けの金属バットを持ち、小銭を大量投入。バットを握って、構える。
マシン打ちは久々だった。鈍い打球音ばかりで湿気た打球ばかりが前に転がる。
「甲子園のヒーローも形なし、だね――――!」
隣から派手な打球が飛んで行った。
「るせ――――!」
続くキィ――ン! という快音に俺はガッツポーズ。
よっしゃ、手応えあり!
そこからは2人でガンガン。さっきからいた親子連れも。その後から来た中学生らしき少年達も、呆然と俺達を見ていた。
前方のマシンから白球が放たれる。グッとバットを握りしめ、踏み込んで、腰を半回転。粘れば右へ。引っ張れば左へ。
やっと感覚が戻ってきた。最近は指導ばかりで、せいぜいノックでバットを握るくらいだった。考えてみたら打てなきゃバッティング指導もできねぇな。
待ち合わせ場所にココを指定したのは、東矢だった。憎い程、気が回るヤツだったな、そういや。コイツのする事は全て何かに繋がっていたりする。
東矢は、野球は中学までしかやっていない。俺の行った学校よりも偏差値の高い学校、いわゆる御三家とか言われている学校の出身だ。
医者か弁護士にでもなるのかと思ったら、高校の養護教員。親御さんはさぞかしガッカリしてるだろう。まぁ俺も、アニキ2人に比べたら人の事は言えないか。
マシンから放たれる速球を、キン!と軽快な音を立てて無心に打ち返しながら、聞いた。
「東矢――っ! お前、アイツに何か言っただろ――――!?」
振り切った瞬間。
キィ――……ン!
一番の当たり!
「アイツってぇ!?」
隣からも快音。くっそ、まけねー!
「とぼけんな―――!」
缶コーヒーを手に、タバコをくわえた東矢が言った。
「周りにも目を向けてみなって言ったんだ、彼女に」
「何余計な事話してんだよ」
冗談じゃないぞ。やっとひよりの気持ちを確認できたばかりなんだぞ。
「なんだ、まだ……なのか?」
もの言いたげにクククッと東矢が心底可笑しそうに笑い出した。
むか。
「しっかし、女もバッティングも俺の方が上だったなぁ、昔から」
畳み掛ける東矢に、キレた。
「おやっさん! 150キロは出ねーの!?」
「俺はスライダーが打ってみてーな」
「ばかやろぉ! うちみてぇなカワイイバッティングセンターにそんなえげつない球投げられるマシンはねぇ!」
☆
たまに校内で見かけた時に、おでこの絆創膏がなくなっていて少しホッとしたりする。
東矢の野郎。アイツが変な事言うから余計なこと色々考えてしまった。と言いたいところだが、悪いのは自分だ。
それにしても、アイツ、ひよにはあの日何も話さなかったのか?
日にちが経てば経つほど、忘れるどころか膨らむ疑念。
考えていても仕方ねぇな。
土曜日の夕方、近所の小さなバッティングセンターに久々顔を出した。古ぼけたココは、俺が小学生の頃通いつめた場所だった。野球好きなおじさんが趣味でやっている。
土曜の夕方だというのに、親子連れ1組かよ。
「ココは相変わらずシケてんな、おやっさん」
カウンターでテレビを見ていたおじさんに話しかけた。
「なんだ遼太。久々顔出したと思ったら憎たらしいクチをききやがる」
その言葉とは裏腹に、おじさん相好を崩す。
「東矢は?」
「奥にいるぞ」
おじさんが指差した。ああ、やってるやってる。
高速ケージでガンガン打ちまくってる東矢が見えた。東矢を見ていた俺におじさんが笑う。
「待ち合わせ場所にここ使うなんて、ガキの時から変わんねーな、お前らは」
「ココが一番素直に話が出来んの。ハイ両替よろしく」
カウンターに片頬ついてニコニコのおじさんは、俺が渡した千円札を2枚受け取り、ジャラッと小銭を渡してくれながら言った。
旧式のマシンは大量の小銭がいる。イマドキこんなマシン使ってるとこないよな、と苦笑いしながら東矢の方へと行った。
140キロのマシンを据えたケージで東矢はホームラン級の当たりを連発していた。バッティングフォーム、昔とちっとも変わらない。
左打ち。打つ瞬間、右足を少し上げてから踏み込んで――……振り切る。キィン! と打球が上方の的に当たる。
「ぜんぜん鈍ってないんだな」
東矢のケージのネットに手を掛けて外から声を掛けた。
学校で見るヤツとは違う。シックな色のシャツとジーンズ。
「ストレス解消にしょっちゅうやってんだ……よっ!」
快音が響く。小気味いいな。
「お前がストレス溜まる事なんてあんのかよ」
「下半身はないねぇ――――!」
答えと同時に一際大きな快音が響き渡った。
……ああそうかい。
隣の同じ球速のマシンが入っているケージに入った。備え付けの金属バットを持ち、小銭を大量投入。バットを握って、構える。
マシン打ちは久々だった。鈍い打球音ばかりで湿気た打球ばかりが前に転がる。
「甲子園のヒーローも形なし、だね――――!」
隣から派手な打球が飛んで行った。
「るせ――――!」
続くキィ――ン! という快音に俺はガッツポーズ。
よっしゃ、手応えあり!
そこからは2人でガンガン。さっきからいた親子連れも。その後から来た中学生らしき少年達も、呆然と俺達を見ていた。
前方のマシンから白球が放たれる。グッとバットを握りしめ、踏み込んで、腰を半回転。粘れば右へ。引っ張れば左へ。
やっと感覚が戻ってきた。最近は指導ばかりで、せいぜいノックでバットを握るくらいだった。考えてみたら打てなきゃバッティング指導もできねぇな。
待ち合わせ場所にココを指定したのは、東矢だった。憎い程、気が回るヤツだったな、そういや。コイツのする事は全て何かに繋がっていたりする。
東矢は、野球は中学までしかやっていない。俺の行った学校よりも偏差値の高い学校、いわゆる御三家とか言われている学校の出身だ。
医者か弁護士にでもなるのかと思ったら、高校の養護教員。親御さんはさぞかしガッカリしてるだろう。まぁ俺も、アニキ2人に比べたら人の事は言えないか。
マシンから放たれる速球を、キン!と軽快な音を立てて無心に打ち返しながら、聞いた。
「東矢――っ! お前、アイツに何か言っただろ――――!?」
振り切った瞬間。
キィ――……ン!
一番の当たり!
「アイツってぇ!?」
隣からも快音。くっそ、まけねー!
「とぼけんな―――!」
缶コーヒーを手に、タバコをくわえた東矢が言った。
「周りにも目を向けてみなって言ったんだ、彼女に」
「何余計な事話してんだよ」
冗談じゃないぞ。やっとひよりの気持ちを確認できたばかりなんだぞ。
「なんだ、まだ……なのか?」
もの言いたげにクククッと東矢が心底可笑しそうに笑い出した。
むか。
「しっかし、女もバッティングも俺の方が上だったなぁ、昔から」
畳み掛ける東矢に、キレた。
「おやっさん! 150キロは出ねーの!?」
「俺はスライダーが打ってみてーな」
「ばかやろぉ! うちみてぇなカワイイバッティングセンターにそんなえげつない球投げられるマシンはねぇ!」
☆
0
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
最初に好きになったのは…声
高宮碧稀
恋愛
やわらかな声と、やさしい笑み。ぷにぷにしたそこかしこ。
結構モテるオレと、図書室のマル。こんなはずじゃなかったのに…
この気持ちに名前をつけて、逃げずに向き合ったら、以外とライバルも多くて苛立ちがとまらない。
責任を取ってもらうべく、今日も図書室に足を向ける。
いつか、絶対名前を呼んでもらうために。
他サイトで2010年から公開していたものを加筆修正しています。
完結までこぎつけますように。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる