ねぇ、大好きっていって

友秋

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思わぬお邪魔? side遼太

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 最初で最後の男になりたい、なんて思ったのは、初めてだった。

「俺は、ひよの事が本気なんだよ」

 本当はもっと鮮烈な口説き文句がありそうなもんだけど、今はこれだけ。今はね。散々すれ違って、ちょっと悔しいから今はこれしか言わない。けど、本気なのは譲れない真実。

 ひよが目を見開いて俺を見ていた。誰にも渡さない。沢山キスを――。



 ひよりが可愛い声で何度も鳴いて。捩る身体を抱き締めた。

 ダメだ、顔が緩む。

「遼ちゃん、さっきからすっごく楽しそうだよ!?」

 戸惑いながら俺を見上げるひよりが少し剥れてる。

 とーぜんでしょう。どんだけ我慢してきたと思ってんの。戸惑う顔も可愛いけどね。

「ンん……ァん……」

 ギュッと目を閉じて顔を反らして。

「遼ちゃ……」

 俺の腕にすがりつく。少しずつ擦るだけでひよりのソコが、もっともっとって言ってるのが、わかる。

「遼ちゃん……」

 溶け合う吐息と喘ぎ、微かに紅潮する頬。ひよりは初めてだから。

「ゆっくりしていこうな」

 大事に。キスをした時、家の固定電話が鳴った。

「遼ちゃん、電話……」
「ん……大丈夫だよ。留守電になってる」

 イエ電なんてどうせ親宛てか、セールス。応答の音声がドアが開けっ放しだったから下のリビングから聞こえ。

『りょうたあぁぁ――――!!!』

 聞き慣れた声に、ビックリしてひよと顔を見合わせた。

『なんで電話に出ねーんだ!?』

 お、おじさん!?

「あ、今日パパお休みで……」

 ひよがオロオロ。

『遼太! ひよりと何かおっぱじめてんじゃないだろうな!?』

 おっぱじめ……まぁそんなとこだけど。

『パパったら。2人お風呂に入ってるのかもしれないわ』
『ふろだぁ!?』
『昔から仲良く一緒に入ってたじゃない』
『……ママぁ? ひよりと遼太、いくつだと思ってんのぉ!?』

 ひよの天然はひまりさん譲りだ。絶対にそんな筈はないんだけど、ひまりさんはもしかしてヴァージンなんじゃないかと思う事がたまにある。

 ダメだ。この勢いだとおじさん今にも乗り込んできそうだ。俺は肩を竦めながらひよりの頭をくしゃくしゃっと撫で、枕元のコードレスフォンを取った。

「もしもし、おじさん。ごめん、今ちょっと手が離せなかったから……」

 ひよとヤろうとしてたので、なんて言ったら俺確実にこの先死ぬまで宮部家出禁だろうな。

『なんだ心配させるな。もう遅いから早くひよりを帰しなさい』
「もう少ししたらひよ送ってくよ」

 ひよりの心配そうな顔を見ながら思わず苦笑いしてしまう。思わぬとこに、障壁が。

 ひよりの父親、通称、賢さん。実は俺、頭が上がらない。

 大学の研究所に勤める研究者で学者肌の親父は、実験とかが入れば何日も泊まり込みで帰って来なかった。

 父親が家にいなくて寂しい思いをしていた俺におじさんはボールを握るところから野球を教えてくれた。

 小、中学生の頃の野球チームの練習も遠征も全て付き添ってくれた。

 俺のもう1人の父親みたいなもんで凄くいい関係を築いていた。と思っていたんだけど、ひよりの事となると話は別らしい。



 宮部家にひよりを送り届けると、おじさんがニコニコと出迎えた。

「遼太、飲んでけよ」

 今日は休みで家にいた、という賢さん。まるで若者みたいにダンガリーシャツにブラックジーンズを見事に着こなし、おじさんまだ三十代そこsこだっけ、状態。

 これがまた、背が高くて足が長いから憎たらしいくらい似合うんだけどさ。

 休みの日は確実にヨレヨレのスウェット上下に不精ヒゲの俺の親父と中学時代からの親友、とか今もって理解できない。

 当人たちにしか分からない何か通じ合えるものがあるのかもしれないが。

「ありがとう、おじさん。今日はまだ月曜日だからまた今度誘ってよ」

 正直、今夜おじさんと飲んだらかなりヤバい。色んな意味で。

 ひよがおじさんの背後で小さく手を振って2階に上がって行った。

 ひよ……。

 ひよとヤりたくて仕方なかったはずなのに、何処かホッとしている自分がいた。

 感情で突っ走ってまだ何も知らない無垢なひよりを傷つけるんじゃないか、と心の何処かで恐れてる。

 それに――自分は〝教師〟でした。その事実、浮かれて吹っ飛んでたよ。

「また来てね」と優雅に微笑んだひまりさんに頭を下げ、ひよの家のドアを閉めた。

 ひよにはゆっくり気持ち、伝えていこう――。




 学内で足を止めてまで生徒達を見た事はなかったな。気付けば、1年生だな、という女子生徒の集団を見るとひよを探してしまう。

 3階の廊下の窓から体操着に着替えた1年生達がグランドに走っていく。ハタからみたら、女子生徒を下心丸出しで眺める変態さんか。

あ、ひよ……転んだ。
あーもう! 前を見てないから転ぶんだよ。マジで危なっかしい。ひよの元に飛んで行きたい衝動を堪えるのは大変なんだよ。

 学内でひよを探すのはやめよう。ロクな事ない。

「お前がロリコンとは知らなかったな」

 振り返らなくても相手はわかる。

「年的にいったらロリコンというカテゴリに収めるには微妙だろ。東矢」
「いやー、生徒って時点でアウトでしょう」

 保健室の先生、東矢が俺の隣に立った。今日はパステルカラーのジャージかよ。相変わらず、チャラい。

「俺は仕事柄〝余計なお世話〟大好きなんでね。ちゃんと忠告しとくよ。彼女にもね」
「!?」

 俺が東矢の方を振り返った時には、ヤツはもう背中を向けて手を振りながら歩き出していた。

「余計な事ひよ……アイツに言ったら許さねーぞ!」
「だから〝余計なお世話〟大好きって言ったろー」

 訳のわからない捨て台詞を残して、東矢は廊下の角を曲がって行った。
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