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仲直り2
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土曜日の朝、練習の為、夜明け前の薄暗い時間に家を出た。ひよりの部屋は、まだカーテンが閉まったまま。
当たり前か、こんなに朝早いから。今日は、謝りたい。
「監督、おはようございます」
後ろから呼ばれて振り向いて、たまげた。高橋が帽子を手にして刈り上げた頭を下げた。
「どうしたんだ!?」
コイツは、何度注意しても頭を刈らなかった。なのに、どうした。
そうか、なるほど。
「その気持ち、忘れんな。今日はお前はスローでキャッチボール、ランニングでいいぞ」
「はい! ……あれ」
グラウンドに走っていこうとした高橋が、止まる。
「監督、その手は?」
テーピングした俺の左手を見ていた。
「ああ、これか。俺だってムリしたんだよ。あんな球数、久々受けたんだ」
情けない事に実は50球目くらいで左手は悲鳴をあげてた。そこからは意地だった。
高橋の顔色が変わる。
「監督、だってあの時は最後まで顔色一つ変えず……」
「ばっか。お前に投げさせといて俺がイテーとか言えるかっつーの。さあ、練習始めろ」
俺が歩き始めると、背後から凄い声で高橋が言った。
「俺、ぜってーアンタを越えてみせるからなーっ!」
タメ口かよ。
「はい、その時を楽しみに待ってますよー」
振り返らずに返事をした。野球にマジになってくれるのは、嬉しい。
が。
ひよりにはマジになってくれるな。
練習後は職員室で自分のパソコンに採点した成績を入力して、家に着いた頃にはもう、辺りは真っ暗だった。家に入る前に、朝と同様ひよりの部屋を見上げた。
――あれ、この時間ならいつも電気ついてるんだけどな。
「あらっ! 遼太いい所に帰ってきたわっ!」
ムダに元気がいい人間って、相手を癒すどころか疲労を倍増させるよな、っていつも思う。
「なんだよ、母さん。アレ買ってきて、コレをして、はやめてくれよ」
靴を脱ぎながら言った俺の言葉にガハハと笑う声。ホントに疲れる。
「違うわよ~。ひまりのお母さんが倒れて、宮部さんとこ夫婦で慌てて群馬に行っちゃったのよ」
ちょっと待て、じゃあひより、留守番?
「だからね、遼太ちょっとひよちゃんみてきてあげて。晩御飯もまだだったみたいだから、これ持っていってあげて」
「ああ……」
母さんの手にはおかずが入った保存容器。
「遼太」
なんだよ。母さんの顔を見ると、ニヤニヤしてやがる。
「アンタ昨日ケンカしたでしょ、ひよちゃんと」
「だからなんだよ」
「仲直りのチャンスじゃなぁい?」
ぷくくと笑う母さんの顔は色んな妄想が渦巻いている事が一目瞭然。
「……妖怪・妄想お節介」
「なんかよーかい?」
ころしてぇぇ――――!
ひよりが一晩1人で留守番、って、この上なく危なっかしいよな。あの夫婦、呑気すぎるだろ。
ひよりの家の前に立った。まさか、ひより1人しかいないのに、鍵開いてたりとかしないよな、と、玄関のドアを開けてみると……開いた。
ひよ、頼むから、鍵くらい掛けておけよ……。
「ひよ――」
玄関で声を掛けてみたが、返事がなかった。
ひよ、寝ちゃったのか? だとしたらますますヤバいだろ。
リビングに明かりがついてる。
「あがるぞー」
うちとは違う、甘いいい香りがする華やかに飾られた玄関。お邪魔します、とつぶやき、あがるとその先のリビングのドアを開けけど、いない。
どこだ? ひよりの部屋に灯りはついてなかったぞ。背中が冷たくなる感触と胸騒ぎ。
ひよ!
我を忘れ、血相変えて家中を探す。最悪の想像が脳裏を過り、ひよりの家の一番奥、風呂場の灯りが点いている事に最後に気付いた。
まさか。
「ひよ?」
そっとドアを開けると、バスタブの縁にもたれかかってぐったりとするひよりの姿が。
「ひよ」
安堵で込み上げる涙を堪えた。それと同時にかわいさ余って。
「なにやってんだよ! もうっ」
ひより――――!
自分の服が濡れるなんてまったく考えず、バスタブからひよりを抱き上げ、脱衣室にあったバスタオルをひよりの身体に巻いて、部屋まで連れて行った。
ベッドに横になり、無防備な姿のひよりは、火照った白い肌がピンク色にそまり、唇からはちょっと苦しそうな吐息を漏らす。
はぁーっとため息をついた俺は、手で顔を覆う。
襲うぞ、マジで。ぜってー、精神衛生上よくないよな、据え膳。でも。
ひよりの火照った頬にそっと触れた。
大事だから。嫌われたくないから。
「ひよ……」
俺の呼ぶ声に、微かに反応した。目が、静かに開いた。
「遼、ちゃん……?」
当たり前か、こんなに朝早いから。今日は、謝りたい。
「監督、おはようございます」
後ろから呼ばれて振り向いて、たまげた。高橋が帽子を手にして刈り上げた頭を下げた。
「どうしたんだ!?」
コイツは、何度注意しても頭を刈らなかった。なのに、どうした。
そうか、なるほど。
「その気持ち、忘れんな。今日はお前はスローでキャッチボール、ランニングでいいぞ」
「はい! ……あれ」
グラウンドに走っていこうとした高橋が、止まる。
「監督、その手は?」
テーピングした俺の左手を見ていた。
「ああ、これか。俺だってムリしたんだよ。あんな球数、久々受けたんだ」
情けない事に実は50球目くらいで左手は悲鳴をあげてた。そこからは意地だった。
高橋の顔色が変わる。
「監督、だってあの時は最後まで顔色一つ変えず……」
「ばっか。お前に投げさせといて俺がイテーとか言えるかっつーの。さあ、練習始めろ」
俺が歩き始めると、背後から凄い声で高橋が言った。
「俺、ぜってーアンタを越えてみせるからなーっ!」
タメ口かよ。
「はい、その時を楽しみに待ってますよー」
振り返らずに返事をした。野球にマジになってくれるのは、嬉しい。
が。
ひよりにはマジになってくれるな。
練習後は職員室で自分のパソコンに採点した成績を入力して、家に着いた頃にはもう、辺りは真っ暗だった。家に入る前に、朝と同様ひよりの部屋を見上げた。
――あれ、この時間ならいつも電気ついてるんだけどな。
「あらっ! 遼太いい所に帰ってきたわっ!」
ムダに元気がいい人間って、相手を癒すどころか疲労を倍増させるよな、っていつも思う。
「なんだよ、母さん。アレ買ってきて、コレをして、はやめてくれよ」
靴を脱ぎながら言った俺の言葉にガハハと笑う声。ホントに疲れる。
「違うわよ~。ひまりのお母さんが倒れて、宮部さんとこ夫婦で慌てて群馬に行っちゃったのよ」
ちょっと待て、じゃあひより、留守番?
「だからね、遼太ちょっとひよちゃんみてきてあげて。晩御飯もまだだったみたいだから、これ持っていってあげて」
「ああ……」
母さんの手にはおかずが入った保存容器。
「遼太」
なんだよ。母さんの顔を見ると、ニヤニヤしてやがる。
「アンタ昨日ケンカしたでしょ、ひよちゃんと」
「だからなんだよ」
「仲直りのチャンスじゃなぁい?」
ぷくくと笑う母さんの顔は色んな妄想が渦巻いている事が一目瞭然。
「……妖怪・妄想お節介」
「なんかよーかい?」
ころしてぇぇ――――!
ひよりが一晩1人で留守番、って、この上なく危なっかしいよな。あの夫婦、呑気すぎるだろ。
ひよりの家の前に立った。まさか、ひより1人しかいないのに、鍵開いてたりとかしないよな、と、玄関のドアを開けてみると……開いた。
ひよ、頼むから、鍵くらい掛けておけよ……。
「ひよ――」
玄関で声を掛けてみたが、返事がなかった。
ひよ、寝ちゃったのか? だとしたらますますヤバいだろ。
リビングに明かりがついてる。
「あがるぞー」
うちとは違う、甘いいい香りがする華やかに飾られた玄関。お邪魔します、とつぶやき、あがるとその先のリビングのドアを開けけど、いない。
どこだ? ひよりの部屋に灯りはついてなかったぞ。背中が冷たくなる感触と胸騒ぎ。
ひよ!
我を忘れ、血相変えて家中を探す。最悪の想像が脳裏を過り、ひよりの家の一番奥、風呂場の灯りが点いている事に最後に気付いた。
まさか。
「ひよ?」
そっとドアを開けると、バスタブの縁にもたれかかってぐったりとするひよりの姿が。
「ひよ」
安堵で込み上げる涙を堪えた。それと同時にかわいさ余って。
「なにやってんだよ! もうっ」
ひより――――!
自分の服が濡れるなんてまったく考えず、バスタブからひよりを抱き上げ、脱衣室にあったバスタオルをひよりの身体に巻いて、部屋まで連れて行った。
ベッドに横になり、無防備な姿のひよりは、火照った白い肌がピンク色にそまり、唇からはちょっと苦しそうな吐息を漏らす。
はぁーっとため息をついた俺は、手で顔を覆う。
襲うぞ、マジで。ぜってー、精神衛生上よくないよな、据え膳。でも。
ひよりの火照った頬にそっと触れた。
大事だから。嫌われたくないから。
「ひよ……」
俺の呼ぶ声に、微かに反応した。目が、静かに開いた。
「遼、ちゃん……?」
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