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継ぐもの
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バスルームから出てきたみちるは濡れた髪の毛を小さめのバスタオルで軽く拭き、そのまま頭に巻き付けた。次に傍にあった篭から大判のバスタオルを取り白い身体に巻いた。
洗面台の鏡の前で顔を暫し眺めた。泣き腫らし、腫れぼったかった目がやっと元に戻ってきていた。
棺で眠る、白く美しい麗子の顔がみちるの脳裏から離れない。
生前の麗子との間に、いつの間にか出来ていた厚い氷壁。みちるの中で最大のショックは、自分は麗子に嫌われていた、という事実だった。
けれど、麗子が最期に話した相手は自分だったのだ。
〝大好きよ〟。
言い残してくれた言葉は氷壁を溶解してくれた。
〝でもちょっと嫌いかな〟は麗子の素直な心だったのだろう。
麗子がみちるに残してくれた優しい記憶の数々を思い出して涙が溢れそうになる。込み上げてきそうな涙をみちるは目を閉じ両手で頬をパンパンッと叩いて堪えた。
もう泣かない。
『幸せを掴みなさい。それが貴女と私の約束よ』
麗子の澄んだ優しい声が、今でもはっきりと耳に残っていた。
〝幸せ〟が何かはまだ分からないけれど、みちるは自立の一歩を踏み出そうと前を向く。
脱衣室の中は換気扇の微かな音のみ。家の中は静まり返っていた。みちるはゴクリと固唾を呑んだ。
星児はこの家にいつ戻るかは分からない。保は仕事に追われいつ帰れるかは未定。みちるは今夜、一人で過ごす事になりそうだった。
思えば、いつも星児、保のどちらかが必ずいてくれた。一人の夜は初めての事だった。
『星児と保に守られて、ぬくぬくと過ごしてきた貴女には』
麗子が言った言葉は蘇り、みちるはフルフルと首を振った。
私は、どんな女性になりたい? 麗子さん。麗子さんみたいな女性になりたい。
美しくて賢くて、優しくて。周りに頼ってばかりだった自分から卒業するの!
鏡の中の自分の顔はまだ不安の色に染まってる。
『ごめんな、今夜はまだなかなか帰れそうにない』
心配して電話をしてきた保に、みちるは気丈に答えた。
『私はもう、星児さんや保さんの手は焼かせません! 大丈夫です! 心配しないで!』
『そっか。じゃぁ、みちるにはがんばって堪えてもらうか。んー、なんなら徹夜してていいぞ』
保がクスクスと笑っている気配を感じ、みちるは気丈な反応をした。
『お肌に悪いから徹夜なんてしませんっ!』
アハハハハッと笑った保は『明け方には帰るよ』と優しく言い、電話を切った。
タンカ(?)切ってしまったからには乗り切らないと。
鏡の中の自分にみちるはキッと睨む。
しっかりしなさい、みちる!
とりあえず自分の部屋へ、とみちるが脱衣室のドアに手をかけた時だった。玄関のドアが開く音がしたような気がした。
え?
サーッと血の気が引いていく頭で、鍵はかけた筈、と必死に思考を巡らせる。
うん、絶対にかけた、はず、だよね?
急に自信がなくなった。ドアノブを握る手が震え、限界を超しそうな早さで鼓動が脈打ち始めた。
どうしよう、泥棒?
みちるは辺りを見回した。ちょうど、短い室内用の物干し竿があった。震える手で物干し竿を握り締めた。
これで、たたかう!
ギュッと竿を握り締め、覚悟を決めたみちるはドアを開けた。
「みちる!?」
みちるの心臓が、一瞬壊れてしまったかと思う程の勢いで、跳ねた。
何日ぶり、いや、ひと月以上、その甘やかな、痺れさせる響きを持つ声に名を呼ばれていなかった。
目の前にいたのは、星児だった。
「なんて格好してんだよ」
「星児さん!」
握っていた物干し竿が、カランと音を立てて床に落ちる。みちるの身体は逞しい身体に抱き締められていた。
あ、この、感覚。息が詰まるくらい、胸が苦しい。
スパイシーなフレグランスがみちるの鼻先をくすぐり身体を包み込んだ。
ワイシャツ越し星児の胸を感じながら目を閉じる。星児は力強くみちるを抱き締めたまま、何も言わず動かなかった。みちるは僅かに違う星児を感じ取る。
「星児さん?」
泣いてるの?
「暫く、このままでいさせてくれ」
絞り出すように苦しそうな声だった。みちるの胸に締め付けられるような痛みが走った。
こんな星児さん、初めて。星児さん。
みちるは腕を伸ばし星児の背中に回し、抱き締めた。
髪に巻いていたバスタオルがゆるりと外れ、床に落ちみちるの長い黒髪がパラリと解れた。
床に小さな雫が落ちる。みちるの濡れた髪から落ちた雫か、それとも。
「星児さん、私、傍にいるから」
細腕で星児の身体を抱き締めるみちるの声は柔らかで、辺りの空気を潤す優しさに満ちていた。
二人の体がずるずると床に崩れる。気づくと、みちるはバスタオルがすっかりはだけて露わになった胸に星児の頭を抱いていた。胸に顔を埋める星児を優しく抱き締める。
「このまま、ずっと」
ピクリと微かに星児の身体が反応した。
「……ばかやろ」
小さく呟いた星児の甘い声に、みちるの心が痺れる。
「私は」
「何も言うな」
胸に触れる感触と鼻孔に拡がる香りに躰の芯を熱くする。
星児さん、初めて。泣いたのね。
みちるは星児の髪に顔を寄せ、目を閉じた。
星児が麗子と過ごした最期の夜。
『今夜は、こうしていてね。ずっと』
麗子は星児の首に腕を絡め、肩に顔を埋めた。
その夜、麗子は繋がる事を、拒んだ。肌の触れ合いだけを望んでいた。優しい愛撫だけの、夜だった。
翌朝、星児を玄関で見送った麗子の笑顔が、星児の見た麗子の最期の笑顔となった。
麗子からの星児への遺書は、カセットに録音した音声だった。
『星児。私はね、貴方が自分に嘘をついて生きる姿なんてみたくないのよ』
聞こえてきたのは、迷いの無い凛とした澄んだ声だった。
『星児。やっと見つけてくれたわね。
ちょっぴり悔しいから貴方を少し悩ませてあげる為に、直ぐに見つけられないところにしまう事にしたの。
私の為に、少しでも悩んでくれた?
ごめんね、最期のワガママだったの。許してね。
これが私からの遺言だから、よく聞いてね』
深呼吸した気配があり、美しい声が再び話し始める。
『貴方は、たった今この瞬間から私の恋人ではなくて、保と同じ私の弟よ。
そうね、言ってしまえば』
麗子はフフッと笑った。
『格下げ? なんて。
星児、貴方が自分に嘘をつきながら生きる姿なんて、私見たくないわ。
らしくないもの。
自分に嘘をついて、感情ねじ曲げて生きる事は周りをも苦しめるんだって事、憶えておいて。
私の為に、なんて持っての他よ。
甚だ迷惑だわ。
というのは言い過ぎだけど。
とにかくね、私は、これまでと変わらずブレたりしない強い芯を持ち続けて生きる貴方の背中を押したいの、姉としてね』
少しの沈黙があった。今度は穏やかに、ゆっくりと。
『貴方は自由人なの。
今、愛したい人をちゃんと愛してあげなさい。
そうしてくれないと、私の〝する事〟の意味がなくなっちゃう。
約束して。指切り』
麗子は、それから、と言う。
『保をお願い。
貴方達の関係は、絶対で、永遠よ、きっと。
男の子ってちょっぴり羨ましいわね。
じゃあね。一足お先に』
最後まで『さよなら』を言わなかった。気遣いのセリフも感謝の言葉も無しにアッサリと締めた。これを聞き終えた星児の中に、麗子という存在の余韻を残さない為。
『愛したい人を愛して』
そう言いつつ、みちるの名を一度も出さなかったのは麗子の中に残されていた意地とプライドだったのかもしれない。
言わなくなって、星児は分かるでしょう。
そんな言葉が聞こえてきそうだった。
†††
くしゅんっ、とみちるがクシャミをした。星児が顔を上げる。
星児の顔にはもう涙の跡もなく、彫りの深い端正な顔にはいつもの不敵な笑みが浮かんでいた。
「ありがとな」
星児は、みちるの白い豊かな胸の谷間にキスをした。痺れと甘い感触に、みちるはフルッと震える。
「湯冷めさせちまうな」
「あっ」
星児の言葉にみちるは我に返り、慌ててはだけたバスタオルを身体に当てた。ククッと笑った星児は身を起こし、みちるをフワリと胸に抱き締めた。
みちるに緊張と痺れと、甘い記憶を与える。目を閉じたみちるは、僅かに首を振った。
「星児さん、私」
「ん?」
静かに囁くみちるの声に、星児は耳を傾ける。
「私、強くなるから。麗子さんみたいな強い女性に。星児さんや保さんに頼ってばっかりの私から卒業するから」
〝麗子さんみたいな〟
星児の中に生まれた違和感。
みちる、それは違う。麗子は強くなかったんだよ。
星児はその言葉を呑み込んだ。
自分は守ってやれなかったのだ、という事実が、重い碇となって星児の心に投げ込まれていた。
『愛したい人を愛してあげて』
〝愛したい〟と〝愛すべき〟は違う。
自分が愛すべき女性は麗子だけだった。
みちるは押し黙ってしまった星児の背に腕を回した。
互いに、込み上げるもどかしさ、胸が締め付けられるような切なさと求めて止まない恋しさを必死に閉じ込めた。
自分達の向かう先は、何処なのか?
洗面台の鏡の前で顔を暫し眺めた。泣き腫らし、腫れぼったかった目がやっと元に戻ってきていた。
棺で眠る、白く美しい麗子の顔がみちるの脳裏から離れない。
生前の麗子との間に、いつの間にか出来ていた厚い氷壁。みちるの中で最大のショックは、自分は麗子に嫌われていた、という事実だった。
けれど、麗子が最期に話した相手は自分だったのだ。
〝大好きよ〟。
言い残してくれた言葉は氷壁を溶解してくれた。
〝でもちょっと嫌いかな〟は麗子の素直な心だったのだろう。
麗子がみちるに残してくれた優しい記憶の数々を思い出して涙が溢れそうになる。込み上げてきそうな涙をみちるは目を閉じ両手で頬をパンパンッと叩いて堪えた。
もう泣かない。
『幸せを掴みなさい。それが貴女と私の約束よ』
麗子の澄んだ優しい声が、今でもはっきりと耳に残っていた。
〝幸せ〟が何かはまだ分からないけれど、みちるは自立の一歩を踏み出そうと前を向く。
脱衣室の中は換気扇の微かな音のみ。家の中は静まり返っていた。みちるはゴクリと固唾を呑んだ。
星児はこの家にいつ戻るかは分からない。保は仕事に追われいつ帰れるかは未定。みちるは今夜、一人で過ごす事になりそうだった。
思えば、いつも星児、保のどちらかが必ずいてくれた。一人の夜は初めての事だった。
『星児と保に守られて、ぬくぬくと過ごしてきた貴女には』
麗子が言った言葉は蘇り、みちるはフルフルと首を振った。
私は、どんな女性になりたい? 麗子さん。麗子さんみたいな女性になりたい。
美しくて賢くて、優しくて。周りに頼ってばかりだった自分から卒業するの!
鏡の中の自分の顔はまだ不安の色に染まってる。
『ごめんな、今夜はまだなかなか帰れそうにない』
心配して電話をしてきた保に、みちるは気丈に答えた。
『私はもう、星児さんや保さんの手は焼かせません! 大丈夫です! 心配しないで!』
『そっか。じゃぁ、みちるにはがんばって堪えてもらうか。んー、なんなら徹夜してていいぞ』
保がクスクスと笑っている気配を感じ、みちるは気丈な反応をした。
『お肌に悪いから徹夜なんてしませんっ!』
アハハハハッと笑った保は『明け方には帰るよ』と優しく言い、電話を切った。
タンカ(?)切ってしまったからには乗り切らないと。
鏡の中の自分にみちるはキッと睨む。
しっかりしなさい、みちる!
とりあえず自分の部屋へ、とみちるが脱衣室のドアに手をかけた時だった。玄関のドアが開く音がしたような気がした。
え?
サーッと血の気が引いていく頭で、鍵はかけた筈、と必死に思考を巡らせる。
うん、絶対にかけた、はず、だよね?
急に自信がなくなった。ドアノブを握る手が震え、限界を超しそうな早さで鼓動が脈打ち始めた。
どうしよう、泥棒?
みちるは辺りを見回した。ちょうど、短い室内用の物干し竿があった。震える手で物干し竿を握り締めた。
これで、たたかう!
ギュッと竿を握り締め、覚悟を決めたみちるはドアを開けた。
「みちる!?」
みちるの心臓が、一瞬壊れてしまったかと思う程の勢いで、跳ねた。
何日ぶり、いや、ひと月以上、その甘やかな、痺れさせる響きを持つ声に名を呼ばれていなかった。
目の前にいたのは、星児だった。
「なんて格好してんだよ」
「星児さん!」
握っていた物干し竿が、カランと音を立てて床に落ちる。みちるの身体は逞しい身体に抱き締められていた。
あ、この、感覚。息が詰まるくらい、胸が苦しい。
スパイシーなフレグランスがみちるの鼻先をくすぐり身体を包み込んだ。
ワイシャツ越し星児の胸を感じながら目を閉じる。星児は力強くみちるを抱き締めたまま、何も言わず動かなかった。みちるは僅かに違う星児を感じ取る。
「星児さん?」
泣いてるの?
「暫く、このままでいさせてくれ」
絞り出すように苦しそうな声だった。みちるの胸に締め付けられるような痛みが走った。
こんな星児さん、初めて。星児さん。
みちるは腕を伸ばし星児の背中に回し、抱き締めた。
髪に巻いていたバスタオルがゆるりと外れ、床に落ちみちるの長い黒髪がパラリと解れた。
床に小さな雫が落ちる。みちるの濡れた髪から落ちた雫か、それとも。
「星児さん、私、傍にいるから」
細腕で星児の身体を抱き締めるみちるの声は柔らかで、辺りの空気を潤す優しさに満ちていた。
二人の体がずるずると床に崩れる。気づくと、みちるはバスタオルがすっかりはだけて露わになった胸に星児の頭を抱いていた。胸に顔を埋める星児を優しく抱き締める。
「このまま、ずっと」
ピクリと微かに星児の身体が反応した。
「……ばかやろ」
小さく呟いた星児の甘い声に、みちるの心が痺れる。
「私は」
「何も言うな」
胸に触れる感触と鼻孔に拡がる香りに躰の芯を熱くする。
星児さん、初めて。泣いたのね。
みちるは星児の髪に顔を寄せ、目を閉じた。
星児が麗子と過ごした最期の夜。
『今夜は、こうしていてね。ずっと』
麗子は星児の首に腕を絡め、肩に顔を埋めた。
その夜、麗子は繋がる事を、拒んだ。肌の触れ合いだけを望んでいた。優しい愛撫だけの、夜だった。
翌朝、星児を玄関で見送った麗子の笑顔が、星児の見た麗子の最期の笑顔となった。
麗子からの星児への遺書は、カセットに録音した音声だった。
『星児。私はね、貴方が自分に嘘をついて生きる姿なんてみたくないのよ』
聞こえてきたのは、迷いの無い凛とした澄んだ声だった。
『星児。やっと見つけてくれたわね。
ちょっぴり悔しいから貴方を少し悩ませてあげる為に、直ぐに見つけられないところにしまう事にしたの。
私の為に、少しでも悩んでくれた?
ごめんね、最期のワガママだったの。許してね。
これが私からの遺言だから、よく聞いてね』
深呼吸した気配があり、美しい声が再び話し始める。
『貴方は、たった今この瞬間から私の恋人ではなくて、保と同じ私の弟よ。
そうね、言ってしまえば』
麗子はフフッと笑った。
『格下げ? なんて。
星児、貴方が自分に嘘をつきながら生きる姿なんて、私見たくないわ。
らしくないもの。
自分に嘘をついて、感情ねじ曲げて生きる事は周りをも苦しめるんだって事、憶えておいて。
私の為に、なんて持っての他よ。
甚だ迷惑だわ。
というのは言い過ぎだけど。
とにかくね、私は、これまでと変わらずブレたりしない強い芯を持ち続けて生きる貴方の背中を押したいの、姉としてね』
少しの沈黙があった。今度は穏やかに、ゆっくりと。
『貴方は自由人なの。
今、愛したい人をちゃんと愛してあげなさい。
そうしてくれないと、私の〝する事〟の意味がなくなっちゃう。
約束して。指切り』
麗子は、それから、と言う。
『保をお願い。
貴方達の関係は、絶対で、永遠よ、きっと。
男の子ってちょっぴり羨ましいわね。
じゃあね。一足お先に』
最後まで『さよなら』を言わなかった。気遣いのセリフも感謝の言葉も無しにアッサリと締めた。これを聞き終えた星児の中に、麗子という存在の余韻を残さない為。
『愛したい人を愛して』
そう言いつつ、みちるの名を一度も出さなかったのは麗子の中に残されていた意地とプライドだったのかもしれない。
言わなくなって、星児は分かるでしょう。
そんな言葉が聞こえてきそうだった。
†††
くしゅんっ、とみちるがクシャミをした。星児が顔を上げる。
星児の顔にはもう涙の跡もなく、彫りの深い端正な顔にはいつもの不敵な笑みが浮かんでいた。
「ありがとな」
星児は、みちるの白い豊かな胸の谷間にキスをした。痺れと甘い感触に、みちるはフルッと震える。
「湯冷めさせちまうな」
「あっ」
星児の言葉にみちるは我に返り、慌ててはだけたバスタオルを身体に当てた。ククッと笑った星児は身を起こし、みちるをフワリと胸に抱き締めた。
みちるに緊張と痺れと、甘い記憶を与える。目を閉じたみちるは、僅かに首を振った。
「星児さん、私」
「ん?」
静かに囁くみちるの声に、星児は耳を傾ける。
「私、強くなるから。麗子さんみたいな強い女性に。星児さんや保さんに頼ってばっかりの私から卒業するから」
〝麗子さんみたいな〟
星児の中に生まれた違和感。
みちる、それは違う。麗子は強くなかったんだよ。
星児はその言葉を呑み込んだ。
自分は守ってやれなかったのだ、という事実が、重い碇となって星児の心に投げ込まれていた。
『愛したい人を愛してあげて』
〝愛したい〟と〝愛すべき〟は違う。
自分が愛すべき女性は麗子だけだった。
みちるは押し黙ってしまった星児の背に腕を回した。
互いに、込み上げるもどかしさ、胸が締め付けられるような切なさと求めて止まない恋しさを必死に閉じ込めた。
自分達の向かう先は、何処なのか?
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