52 / 158
盈月
44
しおりを挟む
そんな私をジト目で見つめてから、彼女は自身の白くて簡素な筆箱を押し付けてきた。
「これ」
西山さんはそれについたストラップを手のひらに載せ、私に見せてくれる。
「可愛いでしょ」
淡々と言われ、顔を近づけてそれを観察してみる。それは、鰻をモチーフにしたらしいキャラクターだった。
身体は黒光りしていて、触ったらいかにもヌメヌメしそうで、顔は、単純なのに妙にリアル。キモカワと言うには少しエグすぎて、気持ち悪いと言うにはゆるすぎる……。
「本当に可愛いの? これ……」
言ってしまってから、慌てて口を押さえる。可愛いと言っておけば話が弾んだかもしれなかったのに。
「理解できないならそれはそれでいいよ、弘さんもこれ見て微妙な顔してたし」
そんな私から、西山さんはふてくされるというように視線を外す。その動作はいつもより人間じみていてなんだか可愛い。でも、私の意識はその態度よりも印象的だった物に向いた。
彼女の口から他人の名前が出てきた事。
「ねぇ、その弘さんってーー」
「言ったから返して」
誰? と尋ねるよりも先に起伏のない声が被せられる。
ーーあぁ、小説か。
「はい」
持っていた本を彼女に手渡す。そんな事より早く"弘さん"が何者なのかを知りたい。
「ねぇ、弘さんって誰なの?」
そして、食いつくように尋ねたが、答えは返ってこなかった。聞こえていないのか、無視しているのか、彼女の意識は本の中だけに向いている。
ーーまずったなぁ、これは。
頭をかく。約束だったとはいえ明らかな失策だった。小説を返したらこうなるって分かっていたはずなのに……。
ーー今日、本調子じゃないかも。
予想に反して呑まれた要求。西山さんとゆるキャラ(?)のギャップ。うなぴょんの衝撃と彼女から初めて聞いた他人の名前。思っていた以上に頭は混乱しているのかもしれなかった。
「はぁ~」
ため息をつく。なんだか、これ以上何をやっても、墓穴を掘っていく気しかしなかった。
「……じゃ、自主研の計画立てちゃうね」
声をかけて私は計画に向き合う。今日はもう諦めた。調子が悪いなら、ひどいミスをする前に手を引いた方がいい。
「は~ぁ」
そして、もう一つため息をつき、遊びまくりながらも真面目に見えるように計画を練りはじめた。
「さぁて、こんなもんかな。西山さん、見る?」
一つ伸びをする。なかなか会心の出来。
「いい」
返ってきたのは生返事。私は、彼女を一瞥し、計画表を持って立ち上がる。
ーー焦んなくてもいいや。まだ時間はあるんだから。
宿泊学習までの時間。自主研修での二人きり。上手くやれば部屋だって一緒になれる。焦る必要はない。ゆっくりと関わっていけばいい。
「先生、計画、立て終わりました」
私は、今日の自分に見切りをつけて、彼女のそばを後にした。
「これ」
西山さんはそれについたストラップを手のひらに載せ、私に見せてくれる。
「可愛いでしょ」
淡々と言われ、顔を近づけてそれを観察してみる。それは、鰻をモチーフにしたらしいキャラクターだった。
身体は黒光りしていて、触ったらいかにもヌメヌメしそうで、顔は、単純なのに妙にリアル。キモカワと言うには少しエグすぎて、気持ち悪いと言うにはゆるすぎる……。
「本当に可愛いの? これ……」
言ってしまってから、慌てて口を押さえる。可愛いと言っておけば話が弾んだかもしれなかったのに。
「理解できないならそれはそれでいいよ、弘さんもこれ見て微妙な顔してたし」
そんな私から、西山さんはふてくされるというように視線を外す。その動作はいつもより人間じみていてなんだか可愛い。でも、私の意識はその態度よりも印象的だった物に向いた。
彼女の口から他人の名前が出てきた事。
「ねぇ、その弘さんってーー」
「言ったから返して」
誰? と尋ねるよりも先に起伏のない声が被せられる。
ーーあぁ、小説か。
「はい」
持っていた本を彼女に手渡す。そんな事より早く"弘さん"が何者なのかを知りたい。
「ねぇ、弘さんって誰なの?」
そして、食いつくように尋ねたが、答えは返ってこなかった。聞こえていないのか、無視しているのか、彼女の意識は本の中だけに向いている。
ーーまずったなぁ、これは。
頭をかく。約束だったとはいえ明らかな失策だった。小説を返したらこうなるって分かっていたはずなのに……。
ーー今日、本調子じゃないかも。
予想に反して呑まれた要求。西山さんとゆるキャラ(?)のギャップ。うなぴょんの衝撃と彼女から初めて聞いた他人の名前。思っていた以上に頭は混乱しているのかもしれなかった。
「はぁ~」
ため息をつく。なんだか、これ以上何をやっても、墓穴を掘っていく気しかしなかった。
「……じゃ、自主研の計画立てちゃうね」
声をかけて私は計画に向き合う。今日はもう諦めた。調子が悪いなら、ひどいミスをする前に手を引いた方がいい。
「は~ぁ」
そして、もう一つため息をつき、遊びまくりながらも真面目に見えるように計画を練りはじめた。
「さぁて、こんなもんかな。西山さん、見る?」
一つ伸びをする。なかなか会心の出来。
「いい」
返ってきたのは生返事。私は、彼女を一瞥し、計画表を持って立ち上がる。
ーー焦んなくてもいいや。まだ時間はあるんだから。
宿泊学習までの時間。自主研修での二人きり。上手くやれば部屋だって一緒になれる。焦る必要はない。ゆっくりと関わっていけばいい。
「先生、計画、立て終わりました」
私は、今日の自分に見切りをつけて、彼女のそばを後にした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
金色の庭を越えて。
碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。
人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。
親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。
軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが…
親が与える子への影響、思春期の歪み。
汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
甘々顔総長様と地味顔女子
三三
恋愛
地味顔の中学3年、山西まゆの平凡な日常がある事がきっかけで一変、非日常な人達と関わってしまう。
甘々な顔を持つ暴走族の総長、黒園亜弥との出会い。その妹、これまた美少女、さくらにもなつかれる。だが、この美しい非日常の人達には平凡が日常のまゆにはわからない大きな闇を抱えていた。
◆作中に『この恋は狂暴です』のキャストが登場します。族繋がりがあるのでご了承下さい(><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる