パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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空は少し薄暗い。鳥の声もまばらな中でわたしは巴の家へと向かっていた。右手の弘さんに持たされたゼリーを揺らしながら黙々と歩いていく。いつもよりもペースが速いかもしれない。初めて行く友達の家に、らしくもなく少し気分が高揚しているのかもしれない。

ーーわたしは……変わったんだな。

すとんと言葉が収まった。今まで、変化が怖かった。自分が自分じゃなくなるようで、見ない振りをしていた。

ーーもし、わたしが普通の高校生になれるなんて日が来たら……。

「幸せ……なのかな?」

弘さんが居て、巴が居て、アイス食べたりだとか、遊んだりだとかを純粋に楽しめる。もしも、そんな未来が 来るとしたら……。

「そのためにもーー」

ーー決着をつけなくてはいけない。

左手を見つめる。巴を振り払ってしまった手。わたしの中にはまだあの人の支配がある。

わたしが西山瑠璃で居るためには、あの人の存在を消し去らなければならない。

ピンポーン♪

チャイムを鳴らす。乾いた音が少し楽しげに響いた。 






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