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盈月
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「どういう意味?」
あくまで瑠璃は変わらない。そんな態度が恐かった。 おれは乾いた口を唾で濡らして一気に言葉を声にする。
「たまにある行き先も告げずに出かける時があるだろ。何をやっているんだ? 危ないことはしてるのか? もしかして、蛇目教を調べてるんじゃないか? 瑠璃は一体何を考えてる? 『蛇目教から解放されて良かった』ってだけじゃないだろ? お前は、おれの見えない所で何をやってるんだ?」
ずっと聞きたかった。だけど、蛇目教のことを思い出させたくなくて黙っていた。おれが首を突っ込みすぎるべきではないと思っていた。
でもそれは、瑠璃が傷ついてと、苦しんでもいない場合だ。知ってしまったからには、放っておく訳にいかない。
「…………それ、答える必要ある?」
それが彼女の返答だった。
「ある。おれは親だ。お前を守る義務がある」
「親に子供の全てを知る権利は無いよ」
瑠璃は一歩も引かない。こういう時の彼女はテコでも動かない。
「おれを頼れ、もっと。倒れるまで苦しむ必要は無いんだ。お前はまだ高校生なんだから、大人に助けを乞えよ。心配なんだよ」
多分、瑠璃は見た目以上にいっぱいいっぱいだ。吐き出すことが苦手だから、溜め込んでしまう。もうきっと爆発寸前。
「わたしは弘さんには教団に関わって欲しくない。それに…………貴方の前では西山瑠璃でいたい」
責め立てるような言葉が詰まった。おれの中に迷いが生じる。何が瑠璃のためになるのか。
そして、答えを出す。
「おれは、お前をおれの娘でいさせたい。だから、過去に苦しんで欲しくない。過去から解放してあげたい。そのために答えてくれ、お前の過去と今のことを」
蛇目教が完全に消滅しなければ、瑠璃は安心して暮らせない。だから、おれが捕まえてやる。
今、質問をすることで瑠璃に嫌な思いをさせるかもしれない。でも、それで彼女がずっと安心していられるなら、おれはそっちの方がいいと思う。
「勝手だね、弘さんは」
どこまで見透かしているのか、瑠璃の瞳はブレずにおれの方を見つめる。そして、そのまま彼女は動かなかった。静寂は息苦しく絡みつく。でも、この根比べに負ける気は無い。
「ほんと勝手……」
意外にも、瑠璃はすぐに空気を破った。
「わたしは弘さんに全てを話す気が無い。それは変わらない。だけど、弘さんはわたしを助けてくれた人、恩がある。だから、一つだけなら質問に答える」
彼女の口から初めて聞いた"恩"という言葉。瑠璃も少しは変わったのかもしれない。
「分かった」
一つだけ。少ないけれど、それが彼女の最大の譲歩なのだろう。なら今はそれを受け入れなくては。
問題は何を尋ねるか。頭のなかで出会ってから今までの全てを見返す。何が、瑠璃を知る手がかりになるか。
空は既に夜に落ちている。少し肌寒い風に吹かれる中でおれの考えはまとまった。
「質問が決まったよ」
宙を見ていた彼女がこちらを向く。 そこには、ある一種の恐怖が見て取れた。
「瑠璃ーーお前の探し物ってなんだ?」
ゆっくりと発した問い。息を飲む音が聞こえた。そこに、おれはまくし立てるように続ける。
「言ってたよな? 最初に学校に行かないかって誘った時、『探してる物があるから』って。それは蛇目教絡みのものなのか?」
だいぶ前に思える記憶。質問を考えた時、何故だか思い出した。ふらりと居なくなる彼女の姿はそれが理由かもしれない。瑠璃の行動原理はそこが中心かもしれない。そんな期待を込めての問いだった。
「覚えてたんだね、そんな言葉」
吐き捨てる。そんな物言いを見たのは何度目か。こういう時、瑠璃は何かを覚悟している時が多い。最近気づいた。
「言ったよ、探し物があるって。でも、それは教団絡みじゃない。いや絡みなのかな? 分かんないや」
そして彼女は、真っ直ぐにおれを見てこう言った。
「わたしの探し物は"わたし自身"だよ」
あくまで瑠璃は変わらない。そんな態度が恐かった。 おれは乾いた口を唾で濡らして一気に言葉を声にする。
「たまにある行き先も告げずに出かける時があるだろ。何をやっているんだ? 危ないことはしてるのか? もしかして、蛇目教を調べてるんじゃないか? 瑠璃は一体何を考えてる? 『蛇目教から解放されて良かった』ってだけじゃないだろ? お前は、おれの見えない所で何をやってるんだ?」
ずっと聞きたかった。だけど、蛇目教のことを思い出させたくなくて黙っていた。おれが首を突っ込みすぎるべきではないと思っていた。
でもそれは、瑠璃が傷ついてと、苦しんでもいない場合だ。知ってしまったからには、放っておく訳にいかない。
「…………それ、答える必要ある?」
それが彼女の返答だった。
「ある。おれは親だ。お前を守る義務がある」
「親に子供の全てを知る権利は無いよ」
瑠璃は一歩も引かない。こういう時の彼女はテコでも動かない。
「おれを頼れ、もっと。倒れるまで苦しむ必要は無いんだ。お前はまだ高校生なんだから、大人に助けを乞えよ。心配なんだよ」
多分、瑠璃は見た目以上にいっぱいいっぱいだ。吐き出すことが苦手だから、溜め込んでしまう。もうきっと爆発寸前。
「わたしは弘さんには教団に関わって欲しくない。それに…………貴方の前では西山瑠璃でいたい」
責め立てるような言葉が詰まった。おれの中に迷いが生じる。何が瑠璃のためになるのか。
そして、答えを出す。
「おれは、お前をおれの娘でいさせたい。だから、過去に苦しんで欲しくない。過去から解放してあげたい。そのために答えてくれ、お前の過去と今のことを」
蛇目教が完全に消滅しなければ、瑠璃は安心して暮らせない。だから、おれが捕まえてやる。
今、質問をすることで瑠璃に嫌な思いをさせるかもしれない。でも、それで彼女がずっと安心していられるなら、おれはそっちの方がいいと思う。
「勝手だね、弘さんは」
どこまで見透かしているのか、瑠璃の瞳はブレずにおれの方を見つめる。そして、そのまま彼女は動かなかった。静寂は息苦しく絡みつく。でも、この根比べに負ける気は無い。
「ほんと勝手……」
意外にも、瑠璃はすぐに空気を破った。
「わたしは弘さんに全てを話す気が無い。それは変わらない。だけど、弘さんはわたしを助けてくれた人、恩がある。だから、一つだけなら質問に答える」
彼女の口から初めて聞いた"恩"という言葉。瑠璃も少しは変わったのかもしれない。
「分かった」
一つだけ。少ないけれど、それが彼女の最大の譲歩なのだろう。なら今はそれを受け入れなくては。
問題は何を尋ねるか。頭のなかで出会ってから今までの全てを見返す。何が、瑠璃を知る手がかりになるか。
空は既に夜に落ちている。少し肌寒い風に吹かれる中でおれの考えはまとまった。
「質問が決まったよ」
宙を見ていた彼女がこちらを向く。 そこには、ある一種の恐怖が見て取れた。
「瑠璃ーーお前の探し物ってなんだ?」
ゆっくりと発した問い。息を飲む音が聞こえた。そこに、おれはまくし立てるように続ける。
「言ってたよな? 最初に学校に行かないかって誘った時、『探してる物があるから』って。それは蛇目教絡みのものなのか?」
だいぶ前に思える記憶。質問を考えた時、何故だか思い出した。ふらりと居なくなる彼女の姿はそれが理由かもしれない。瑠璃の行動原理はそこが中心かもしれない。そんな期待を込めての問いだった。
「覚えてたんだね、そんな言葉」
吐き捨てる。そんな物言いを見たのは何度目か。こういう時、瑠璃は何かを覚悟している時が多い。最近気づいた。
「言ったよ、探し物があるって。でも、それは教団絡みじゃない。いや絡みなのかな? 分かんないや」
そして彼女は、真っ直ぐにおれを見てこう言った。
「わたしの探し物は"わたし自身"だよ」
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