パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

96

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「ただいま」

返事の返らない空間に癖で挨拶をしてしまう。

「…………」

わたしは無言のまま床にリュックを下ろし、ソファーに座り込んだ。付けたばかりのウサギverうなぴょんが地面とぶつかり、やけに大きく音を立てる。

無音の空間。静寂が質量を持ってそこには満ちている。

「…………」

耳に馴染んだはずのその静けさがなんだか今日はやけに耳ざわりだった。

わたしは、仰ぐように天井を見る。独りには慣れている。ずっと独りだった。 それが当たり前だった。なのになんで、今日はこんなに一人が虚しいんだろう。

「……楽しかったのかな」

先程まで隣にあった姿。それが無いことに違和感があるのかもしれない。


いつからだろう。

篠崎巴。

特別が一人増えたのは。


最初は、弘さんを喜ばすためだけに友達になった。

友達になったからそう振る舞った。物語の中でそうであるように、一緒に下校して、会話をして、彼女の我が儘に付き合ってみる。

彼女に興味なんか無かった。一緒に居るのに都合が良かっただけ。

弘さんを悲しませないように。そんな理由だけで面倒くさいことを我慢して巴の隣に居るように努めた。ただ、それだけだった。


いつ義務が消えたんだろう。

いつ面倒くさい行為が心地よい空間に変わったんだろう。

いつーーーー。


目の上に腕を置く。暗闇が更に思考を内面へと進ませていった。

わたしは認めなければいけない。巴と友達でいたい願ってしまう自分を、もっと関わりたいと思ってしまう感情を。

「なんでみんな入ってくるの」

わたしは独りで良かったのに。それを望んでいたはずなのに。

"鳥籠を抜け出しても、まだ君は夜を飛んでいるんだね"

校務員に告げられた言葉。今なら意味が分かる。

鳥籠に閉じ込められていた雛は外を知らなかった。夜しか教えられてこなかった鳥はそこを飛ぶことしか出来なかった。目の前に青い空が広がっているのに、それを無視して黒い空を飛び続けた。それて良かった。

そんな闇の鳥が最近、青空を無視しきれなくなってきた。お節介達のせいで夜の空に綻びが生じ始めた。

「わたし、どうなるんだろう」

空っぽに何かが満ちていく。それは恐怖でそれは喜び。拒否したいのに拒否できない。拒否したいのにしたくない。自分が変わってしまう。

「わたしはーー」

言葉はうまく続けられない。自分の考えが分からない。

わたしは一体どうしたいんだろう?







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