21 / 32
Day by day
保健室(1)
しおりを挟む
真っ白い。それだけが分かった。
――なんだろう、すごく重い。
身体がピクリとも動かなかった。大変な事なのに、頭がぼんやりとしていてどうでもよく感じられた。
「目覚めたらしいね」
――目覚めた?
サクは言葉を反芻する。
ピントが合ってくる。白が天井だったと分かった。そして、そこに金髪の眼鏡の男が入り込んでいた。
“Drルート”
呼んだつもりだったが、口からは空気しか漏れなかった。
「飲み物をあげようか。喉が渇いているだろう」
口の中にストローを差し込まれる。サクはおとなしくそこから水をすすった。
喉を冷たさが伝って行き、全身にそれが染みこんでいく。
貪るように水を飲む。飲めば飲む程意識がはっきりとして、身体が軽くなる気がした。
「落ち着いたかな。じゃあ状況を説明しようか。君は全身に大火傷を負っていて動く事もままならない。このままだと壊死して身体は使い物にならなくなるだろう」
「そぅ」
サクはそれを聞き流す。
彼の生徒間での呼び名は“変態”。腕自体は破格な程に優秀なのに、行動が異常者のそれなのである。今更この程度で取り乱したりはしない。
「あれ、驚かないね。僕としてはもっと泣き叫んで欲しいんだけどな……。まぁいいや、今はそんな趣味よりも君への興味の方が強いからね」
「私への興味?」
気持ち悪い程に笑みを浮かべた変態医者は、勿体つけるようにサクの頭に手を置くと、そこから身体をなぞるように胸の辺りまでそれを滑らせた。
「君の、この異常な程の魔力量」
「!?」
咄嗟に身体を起こそうとするが、それはぴくりとも動かない。それをいい事に、Drはゆっくりと彼女の身体を撫で回す。
「僕は特異な能力を持っていてね、こうしているとその人の魔力を感じられるんだ。でも初めてだよ、こんな魔力は」
楽しそうな彼とは裏腹に、サクからは表情が消えていく。瞳が色を無くしていき、普段の彼女を知る人が見たら、別人だと思う程、何も映さなくなる。
「最初に不思議に思ったのは、傷が少なすぎた事。僕も試合を見てたけど、普通なら最初に撃ち落とされた時に君は瀕死だったはずなんだよ。その手ごたえがあったから対戦相手の彼女も隙を見せたのだろうしね。そんな状態であんな大技を打つ事なんて、本来ならあり得ない」
「なんとか逃げのびたの。ラキの攻撃は狙いが散漫だったから避けられない事は無かった」
「僕は君の傷を診た医者だよ。言い逃れできると思う?」
「…………」
「でもまぁ、そういう事にしておこうか。他のみんなはそう思ってるだろうしね。最後の炎上で君が生きていた事も深く追求しないでいてあげる」
低くなっていく少女の声。それに気づいているのかいないのか、彼は饒舌に語り続ける。
「だからね――」
「なんのつもりなの。私の魔力が多いからなに? 私をどうしたいの?」
それに、サクのダムが崩壊した。荒い口調は冷静でいられない事をはっきりと示している。
「そんな焦ってどうしたんだい? ……あぁなんだ、そっか、気になっているのか」
Drは芝居かかった仕草でそう言うと、今までで一番いい笑顔になる。そして、宝箱を開くようにその言葉を口にした。
「君が“聖なる民”である事を知っているかどうか」
サクは反射的に魔力に手をかけた。おぞましい殺気の中、男を抹殺する呪文を口にする。
――なんだろう、すごく重い。
身体がピクリとも動かなかった。大変な事なのに、頭がぼんやりとしていてどうでもよく感じられた。
「目覚めたらしいね」
――目覚めた?
サクは言葉を反芻する。
ピントが合ってくる。白が天井だったと分かった。そして、そこに金髪の眼鏡の男が入り込んでいた。
“Drルート”
呼んだつもりだったが、口からは空気しか漏れなかった。
「飲み物をあげようか。喉が渇いているだろう」
口の中にストローを差し込まれる。サクはおとなしくそこから水をすすった。
喉を冷たさが伝って行き、全身にそれが染みこんでいく。
貪るように水を飲む。飲めば飲む程意識がはっきりとして、身体が軽くなる気がした。
「落ち着いたかな。じゃあ状況を説明しようか。君は全身に大火傷を負っていて動く事もままならない。このままだと壊死して身体は使い物にならなくなるだろう」
「そぅ」
サクはそれを聞き流す。
彼の生徒間での呼び名は“変態”。腕自体は破格な程に優秀なのに、行動が異常者のそれなのである。今更この程度で取り乱したりはしない。
「あれ、驚かないね。僕としてはもっと泣き叫んで欲しいんだけどな……。まぁいいや、今はそんな趣味よりも君への興味の方が強いからね」
「私への興味?」
気持ち悪い程に笑みを浮かべた変態医者は、勿体つけるようにサクの頭に手を置くと、そこから身体をなぞるように胸の辺りまでそれを滑らせた。
「君の、この異常な程の魔力量」
「!?」
咄嗟に身体を起こそうとするが、それはぴくりとも動かない。それをいい事に、Drはゆっくりと彼女の身体を撫で回す。
「僕は特異な能力を持っていてね、こうしているとその人の魔力を感じられるんだ。でも初めてだよ、こんな魔力は」
楽しそうな彼とは裏腹に、サクからは表情が消えていく。瞳が色を無くしていき、普段の彼女を知る人が見たら、別人だと思う程、何も映さなくなる。
「最初に不思議に思ったのは、傷が少なすぎた事。僕も試合を見てたけど、普通なら最初に撃ち落とされた時に君は瀕死だったはずなんだよ。その手ごたえがあったから対戦相手の彼女も隙を見せたのだろうしね。そんな状態であんな大技を打つ事なんて、本来ならあり得ない」
「なんとか逃げのびたの。ラキの攻撃は狙いが散漫だったから避けられない事は無かった」
「僕は君の傷を診た医者だよ。言い逃れできると思う?」
「…………」
「でもまぁ、そういう事にしておこうか。他のみんなはそう思ってるだろうしね。最後の炎上で君が生きていた事も深く追求しないでいてあげる」
低くなっていく少女の声。それに気づいているのかいないのか、彼は饒舌に語り続ける。
「だからね――」
「なんのつもりなの。私の魔力が多いからなに? 私をどうしたいの?」
それに、サクのダムが崩壊した。荒い口調は冷静でいられない事をはっきりと示している。
「そんな焦ってどうしたんだい? ……あぁなんだ、そっか、気になっているのか」
Drは芝居かかった仕草でそう言うと、今までで一番いい笑顔になる。そして、宝箱を開くようにその言葉を口にした。
「君が“聖なる民”である事を知っているかどうか」
サクは反射的に魔力に手をかけた。おぞましい殺気の中、男を抹殺する呪文を口にする。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
GM8 Garden Manage 8 Narrative
RHone
ファンタジー
少し作業の隙間が出来たので手直し更新再開
この世の悪が集う庭には大魔王から正義厨まで何でも御座れ。困った厄介者達の説話集。
比較的短編の説話集ですが、内容がかなり際どい事があるのでご了承ください。
八精霊大陸シリーズの8期後半想定、トビラ後の話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
黒崎天斗!伝説へのプロローグ
CPM
青春
伝説の男と謳われた高校生の黒崎天斗(くろさきたかと)が突如姿を消した伝説のレディース矢崎薫(やざきかおり)との初めての出会いから別れまでを描くもう一つのエピソード!
なぜ二人は伝説とまで言われたのか。黒崎天斗はどういう人物だったのか。本編ではあまり触れられることの無かった二人の歴史…そして矢崎透(やざきとおる)の強さがここに明かされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる