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Day by day
自主練
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「――全ては最初を照らす為」
強化された剣を振り上げて、左手に持つ鋼鉄に勢いよく叩きつける。強い衝撃があり、剣は甲高い音を立てながら軽く砕け散った。
「また駄目か」
何十回目かの失敗に、タルクは肩を落としてしゃがみ込む。いつもよりも短くした詠唱で鋼鉄を斬れる精度を出せなければ戦闘では使えない。
サクに課題を提示されて居残り練習を始めた。毎日せっせと続けてはいるが、思うような成果は出ていなかった。
「やっぱり、俺には才能がないんだろうな……」
「タルクが居るとは珍しいな」
予想外の声がして、大慌てで振り返る。黒髪ショートの鋭い目をした女性が彼を見ていた。
「マイヤ先生……」
知り合いであった事に肩をなでおろす。だが、同時に呟きが聞かれてしまった事が恥ずかしくなって、彼はさっと顔を伏せた。
彼女はタルク達の担任であり、生徒の間では“鉄の女”の愛称で親しまれている実力派の教師だ。
「サクに出力を上げられれば強くなれるって言われたので、最近始めたんですよ」
ごまかすように早口でまくし立てる。
「出力か……なるほど、一理あるな。ところで助言の主はどこに?」
鋭い眼光は微塵も揺るがず、訓練場内を彷徨う。
「サクは居ませんよ。これは俺の練習なので」
「そうか。だが出力の底上げが必要といったらサクもだろう。一緒にやらなくていいのか?」
「え……、サクって言う程低いですか?」
意外な言葉だった。補習などは一緒にくらうが、戦っていて彼がそれを感じた事は無かった。
「低いな。多分お前よりも低い。戦闘でそれを感じないのは、サクが小手先だけでなんとかするからだ。彼女は戦闘のセンスはある。だから通用してしまう。だが本当の強者に当たった時には小細工が効かずに敗れる。サクが戦闘で一定以上進めないのはそれが原因だろう」
言われてみればその通りかもしれなかった。彼女の戦い方は不意打ちめいたものが多く、大技を使っている印象はあまり無い。
「それに現状では、お前らは息が合っていない。あいつのトリッキーな戦い方にお前が着いていけていないんだ。息を合わせるという点でも二人でする必要はあるだろう」
先生は一時もタルクから視線を外す事なく語り終えた。
「ありがとうございます。参考にしてみます」
頭を下げる。タルクの身体には修行のものだけではない汗が伝っていた。オブラートに包む事無く言葉を告げる彼女との会話はいつも緊張する。
満足そうに頷き、踵を返すマイヤ先生。しかしその足はすぐに止まった。
「タルク、お前は自分で思っている以上に魔術が上手い。今揮わないのは空回りしてしまっているからだ。まずは出力からゆっくり鍛えてみろ。お前ももっと上に行けるぞ」
言う事だけを言って先生は去っていってしまった。
――不意打ちはずるいだろ。
顔が火照っている。嘘を言う事の無い堅物教師の賛辞は、誰のものよりも嬉しい。
「よし、やるぞ」
力強い手で鋼鉄を握り直す。続けざまに言われた二つの誉め言葉。少年はかつてない程やる気に満ち溢れていた。
強化された剣を振り上げて、左手に持つ鋼鉄に勢いよく叩きつける。強い衝撃があり、剣は甲高い音を立てながら軽く砕け散った。
「また駄目か」
何十回目かの失敗に、タルクは肩を落としてしゃがみ込む。いつもよりも短くした詠唱で鋼鉄を斬れる精度を出せなければ戦闘では使えない。
サクに課題を提示されて居残り練習を始めた。毎日せっせと続けてはいるが、思うような成果は出ていなかった。
「やっぱり、俺には才能がないんだろうな……」
「タルクが居るとは珍しいな」
予想外の声がして、大慌てで振り返る。黒髪ショートの鋭い目をした女性が彼を見ていた。
「マイヤ先生……」
知り合いであった事に肩をなでおろす。だが、同時に呟きが聞かれてしまった事が恥ずかしくなって、彼はさっと顔を伏せた。
彼女はタルク達の担任であり、生徒の間では“鉄の女”の愛称で親しまれている実力派の教師だ。
「サクに出力を上げられれば強くなれるって言われたので、最近始めたんですよ」
ごまかすように早口でまくし立てる。
「出力か……なるほど、一理あるな。ところで助言の主はどこに?」
鋭い眼光は微塵も揺るがず、訓練場内を彷徨う。
「サクは居ませんよ。これは俺の練習なので」
「そうか。だが出力の底上げが必要といったらサクもだろう。一緒にやらなくていいのか?」
「え……、サクって言う程低いですか?」
意外な言葉だった。補習などは一緒にくらうが、戦っていて彼がそれを感じた事は無かった。
「低いな。多分お前よりも低い。戦闘でそれを感じないのは、サクが小手先だけでなんとかするからだ。彼女は戦闘のセンスはある。だから通用してしまう。だが本当の強者に当たった時には小細工が効かずに敗れる。サクが戦闘で一定以上進めないのはそれが原因だろう」
言われてみればその通りかもしれなかった。彼女の戦い方は不意打ちめいたものが多く、大技を使っている印象はあまり無い。
「それに現状では、お前らは息が合っていない。あいつのトリッキーな戦い方にお前が着いていけていないんだ。息を合わせるという点でも二人でする必要はあるだろう」
先生は一時もタルクから視線を外す事なく語り終えた。
「ありがとうございます。参考にしてみます」
頭を下げる。タルクの身体には修行のものだけではない汗が伝っていた。オブラートに包む事無く言葉を告げる彼女との会話はいつも緊張する。
満足そうに頷き、踵を返すマイヤ先生。しかしその足はすぐに止まった。
「タルク、お前は自分で思っている以上に魔術が上手い。今揮わないのは空回りしてしまっているからだ。まずは出力からゆっくり鍛えてみろ。お前ももっと上に行けるぞ」
言う事だけを言って先生は去っていってしまった。
――不意打ちはずるいだろ。
顔が火照っている。嘘を言う事の無い堅物教師の賛辞は、誰のものよりも嬉しい。
「よし、やるぞ」
力強い手で鋼鉄を握り直す。続けざまに言われた二つの誉め言葉。少年はかつてない程やる気に満ち溢れていた。
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