巡り合い、

アミノ

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六十二話

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「ナツさん!?」

ナツの頭がダランと前に垂れ
身体から力がなくなったのが分かり、
シオンはライハにタックルし転かして
ナツに駆け寄った

「て、めぇ、またやりやがって!」

ライハは尻もちをつき、
座ったまま怒りに任せ拳を上げたが
2人は振り向いてはくれなかったので
上げた手をゆっくりと下ろした

キトはナツの両腕に入れた力を少し解き、
ゆっくり平原に寝かせる

「ナツさん、大丈夫ですか?」
シオンがナツの横で慌てて肩を揺らす

「‥息はしてるし、大丈夫、
そのうち起きる」

ナツを寝かした後、キトは立ち上がり
2人を見下ろしている

「ナツさんとシギって人は
何か関係あるのか?」

シオンはナツを心配そうに見つめたまま
問いかける

「‥さぁね」

「じゃあ、目が光るのは関係あるのか?」

「‥知ってるんだ」

「‥‥」
シオンは答えなかったが
顔を上げキトを睨みつけた

目が合ったキトはフッと微笑する
その目は哀れんでいるようにも見える

「‥目が光る時は、人が変わる時だよ」

「人が、変わる?」

睨みつけていた目の力は抜けても
視線は外せなかったシオンは
訳が分からないという顔をして
ただ聞き返す事しかできなかった
少しの沈黙の間に、3人の近くまで歩き
ナツの頭の横にしゃがんだライハは
静かにキトを見ると唇を軽く噛み
すぐにナツの顔に視線を落とした

「‥シギが、そうだったから」

「えっ?」

「‥シギは、盗賊として生きてるシギと、
別のところで生きているシキの
2人が1人の身体の中で
少しの間、生活していたんだ」

シオンは唖然としていた

「シギがシキと変わるタイミングは
いつも右目が光るんだよ
ナツちゃんの右目も光ったから
おんなじだなって言ったんだよ」

ライハはしゃがんだままの姿勢で
ナツの目を指差した
シオンはゆっくりとライハを見て
またゆっくりとキトに視線を戻す

「何言ってるか分からないんだけど‥」

なんとか声として出たのは
とても小さく、風にかき消されそうだった
キトは口を開くことなく
ただただその場には沈黙が流れる

ライハは不機嫌そうに唇を尖らせ
膝を曲げ座り直し、
ナツの目を指差していた人差し指で
こめかみ辺りを小突いた

するとナツの目が勢いよくカッと開く

「うわっ!」

驚いたライハは叫び、また尻もちをつく
その声に反応し2人がライハを見ると
ナツは上半身を勢いよく起こした

「ナツさん、大丈夫‥なんですか?」

心配そうに聞くシオンを尻目に
ナツは立ち上がりキトと向き合う

「シギについて調べたい
どの区域でいつ頃働いていたか
分からないだろうか?」

「‥討伐隊のナツ、だね?」

「そう、この身体の持ち主のナツだ
奴隷のように働かされて、と言っていたな?
盗賊だった者が街で働いてくれる
タイミングで
ある程度の情報と写真を
討伐署に保管することになっているから
調べようと思うんたが」
 
「‥どこか、知らないんだ」

「‥‥」

「‥街の中には簡単に入れるから、
週に1回程度決まった場所で会って、話してた
だから、その時にいつも聞いてた
シギのところにパンを買いに行くから
場所を教えてくれって
‥シギは、教えてくれなかった
また今度ね、とか、
俺のパンが並んだらね、とか、
いつも、はぐらかされてた」

短く息を吐きながら
自嘲気味に笑い、空を仰ぐ

「‥毎回同じ服を着てた事、
お気に入りなんだって言葉を信じた僕は、
本当にバカだったよ
どんどん痩せていってた事だって
ダイエットしてるんだって‥、
そのうち、決まった場所にも来なくなった」

手は握り締められて
力が入りすぎてるからか震えていた

「‥ひたすら探した
街中のパン屋を全部回った、
でも見つからなかった」

そこまで話すとフッと悲しそうに笑い
キトは馬に近づくとすぐに跨る

「‥話しすぎた」

誰とも目を合わさずに
そう一言呟くと馬を走らせ
ナツたちの前から去って行った

「あいつはシギのことになると
熱くなるんだよ‥
まぁ、俺が続き話してやるよ
調べてくれるみたいだし?
俺だってキトよりは少ないけど
シギとは会ってたし、探したからな」

座ったまま話し出すライハに合わせて
ナツとシオンも腰を下ろした

「パン屋で働いていたことしか
知らない俺たちは
パン屋を調べて探し回ったけど
シギは見つからなかった
ある日、パン屋の近くで小さい子どもが
シギのことを知ってると教えてくれたんだ

いっぱい遊んでたけど、
急にいなくなっちゃった
私のこと嫌いになったのかな?
もう戻ってこないのかな?って

他は何も知らなそうだったから
それ以上は聞かなかったけど、
シギは面倒見がいい奴だったから
その子もきっと
懐いてくれてたんだろうって思った

それからもシギを探したけど
それ以上の手がかりは何も無かった

街の決まりでは街で働いている盗賊は
討伐隊に情報が2年間全く入らないと
死亡したことになるだろう?

一応探すのは諦めてないんだけど‥な

そんな時にナツちゃんの目のことに
気づいたキトが、
何か分かるかもしれないと思って
街に行って接触したんだよ

ただ、シギと違って
ナツちゃんは結構頻繁に
入れ替わってるみたいだったのには
俺は驚いたけどね」

一頻り話したライハは腰につけている
ひょうたんの水入れを口に運んだ

ナツの眉がピクッと動いたが
誰も気づいていないようだ

「シギはシキとは
あまり入れ替わらなかったのか?」

水を飲み終え、口元を拭いながら
ナツの質問に頷く

「俺が知ってる限りでは2.3回かな?
目のこと教えてくれたのはキトだから
あいつは何回も見てるかもしれないけど」

「そうか、ありがとう
シギという名前の盗賊の記録を確認する
何人もいた場合、写真で顔を
確認してもらいたいのだが
また会えないだろうか?」

「俺はかまわねぇよ
見張り隊だから、基本うろうろしてるし
適当に見つけてくれや
‥それと、こっちの君の名前は
ナツちゃん?だよな?
もう1人の名前は?」

「もう1人もナツと言うらしい」

「呼び方一緒かぁ
まぁいいや」

そう言いながら馬に乗り
じゃあねーと手をヒラヒラと振りながら
ライハは去って行った

ライハが去った後、2人になった
ナツとシオンはしばらく黙っていた
ナツは太陽の位置を横目で確認し
少し目を瞑り、静かに息を吐く

「‥帰るぞ」

声を発したのはナツだ
そのまま馬へと歩き出すナツの右腕を掴み
一度唾を飲み込んだシオンは
ナツの横顔を見つめる

「‥俺が今まで接してきたナツさんは
どっちのナツさんなんですか?」

「どっちだって分かったところで
お前はどうするんだ?」

振り向きもしないまま答えたナツだったが
その表情は苦痛に歪んでいる

「‥あの‥」

シオンは口を開くが、言葉が出ない
なんとか開いた口の震えを止めようと
唇を噛み締めたところで
目の前のナツが倒れていくのが見えた
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