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四十二話
しおりを挟むふと目が覚めると外は少し暗くなって
いつものようにカラスの鳴き声がしていた
コンコンと扉を叩く音がしたが、
まだ体が重くて起き上がれなかった私は
中にどうぞと伝え
入ってきてもらうことにした
「よっ」
入ってきたのはナロンだった
さっきは起き上がれなかったのに
顔を見たらスッと起き上がれたので
ベッドから降りようとするが制された
なのでそのままベッドに腰掛け
話をすることになり、
ナロンにも前と同じ
ベッドの横の椅子にかけてもらった
「今見回りから帰ってきた
デイスから聞いて、
ちょっと様子見にきたんだ」
「すまない、迷惑かけたな」
言葉が出てきた
「迷惑なんて思ってねぇよ
逆に休んでくれて安心した」
「‥‥」
「お前はあんまり休まないからなぁ
いつでも静かに全力だから」
少し悲しそうに見えた
この表情は見たことがある
前に相談にのると言ってくれた時に
私が言葉を詰まらせた、
その時の表情と同じだ
「倒れてしまっては元も子もないから
しっかり休んでくれ
しかしナツの休むところなんて
初めて見た気がするなぁ」
腕を組みながらしみじみと言う姿を見て、
こっちのナツは寝不足で仕事が
出来ないなんてことがないこと、
休むことになった理由が
ただの寝不足でも心配してくれる
仲間がいること、
1つ、また1つとこっちのナツを知るたびに
戻らなければと言う気持ちと
ここにいたいと言う気持ちがぶつかる
胸がなんだか重い
「明日は出て来れそうなのか?」
「今日1日、何も出来なかったから
明日は必ず出るつもりをしている」
「無理はするなよ
今日は盗賊は街に来ていないし
こっちのことは心配しなくて
いいんだからな」
じゃ、と帰ろうと椅子から
立ち上がったナロンの袖を掴み
ナツは引き止めた
「どうした?」
私ではなく、ナツの意思だ
だから何で引き止めたのか分からなかった
ナツは話し出さない
ナロンは椅子に座り直して、
ナツの言葉を黙って待ってくれていた
「‥言いたいことがあるんだが‥」
ゆっくりと小さく呟く
「何でも言ってくれていいぞ」
「‥‥」
しかしナツはそのまま黙ってしまい、
また沈黙が訪れた
コンコン
その沈黙を破るように扉を叩く音が
部屋の中に響く
「ナツさん、シオンです」
見回りが終わったら見に来ると
言ってたから、来てくれたのだろう
「‥また今度、話す」
ナツは静かな声で伝えた
ナロンは分かったと答え
いつものように頭をポンポンとして
扉へ向かって行った
ガチャ
扉を開けたのがナロンだったので
シオンは驚いたようだが、
ペコっと頭を下げているのが見えた
ナロンが歩いて行くのを見送った後、
入っていいですか?と聞かれたので
いいよと答えると、部屋に入ってきた
シオンの手にはトレーに乗ったご飯があった
「ナツさん、大丈夫ですか?
お腹空いてないかと思って
ご飯持ってきたんですけど、
食べられそうですか?」
机の上にトレーを乗せ、
立ったまま心配そうに聞いてくれた
「ありがとう
そんなに心配してくれなくても大丈夫だよ
ご飯、頂くね」
これはナツの言葉ではなく
私の言葉だ
トレーの乗った机を運んでくれたので
ベッドに腰掛けたまま頂くことにし、
シオンには先程までナロンが座っていた
椅子に座ってもらった
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