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第四十四話

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「な、何の話かな…?」

幸雄に水を向けられた裕也は、平静を装ってとぼける。

しかし声は震え、目線は下を向いていた。

幸雄はそんな裕也を見下ろしながら、いやらしく口元を歪めている。

「惚けてもダメだよ、有馬くん。君がクラスメイトたちに何をしたのか…僕はようく知ってるんだからね」

「…っ」

裕也が顔を上げた。

縋るように幸雄を見つめる。

頼む、言わないでくれ。

その瞳は、そう訴えかけているようにも見えた。

だが、次の瞬間、幸雄が決定的な一言を口にする。

「有馬くん。君はスキルを使ってクラスメイトたちを操っているよね?」

「…っ!!」

裕也の体がビクッと震えた。

ごくりと喉が動く。

「い、意味がわからないな…一体何を言い出すんだ…?げ、現在進行形で俺たちを操っているのは君だろ…?せ、責任転嫁は良くないと思う…」

消え入りそうな声で裕也はそう言った。

「この後に及んでまだ誤魔化すの?嘘をつくなんて、最低だね、有馬くん」

「…っ」

ぐっと裕也が唇を噛む。

裕也の態度は側から見れば、明らかにおかしいものだった。

心当たりがないのなら、裕也は幸雄の言葉をもっと強く否定すべきだった。

だが、実際には裕也の声音は弱々しく、体も小刻みに震えていた。

側から見れば、裕也の態度はほとんど幸雄の言葉を肯定しているようなものだった。

だが、未だカリスマのスキルの支配下にあるクラスメイトたちは、裕也の態度のおかしさに気づかない。

何人もの生徒が、裕也に同情し、幸雄に対して責めるような視線を向ける。

だが、幸雄は意に返さない。

相変わらずニヤニヤしながら、生徒たちに語りかける。

「君たちもおかしいと思わないのかい?どうして有馬くんをこうも盲信しているの?黒崎さんが裏切ったという有馬くんの言葉を簡単に信じるわけ?」

「「「…」」」

「あ、そっか。うん、喋っていいよ」

生徒たちが誰一人喋らないのを見て、幸雄は思い出したかのように、生徒たちに口を開く許可を出す。

すると、クラスメイトたちから次々裕也を庇い、幸雄を責める声が上がる。

「ふざけんなよ、西川。いきなり意味不明なこと言い出してんじゃねーよ!!」

「私たちを操る…?有馬くんがそんなことするわけないじゃん!!」

「責任転嫁してんじゃねーぞ!!俺たちをこんな目に合わせて…!これがスキルの力なら、さっさと拘束を解きやがれ…!」

カリスマスキルの支配下にあるクラスメイトたちは、有馬のことを信じて疑わない。

「はぁ…ダメだこりゃ。有馬くん。君のスキルもなかなかだね」

スキルのかかった状態での説得を諦めた幸雄はため息を吐いて、裕也に命令する。

「有馬裕也。命令だ。生徒たちにかけているスキルの力を解除しろ」

「…っ」

裕也の目が大きく見開かれる。

「す、スキル…解除…」

幸雄のスキル、ドミネーターによって裕也は強制的にカリスマスキル解除に追い込まれる。

「へ…?」

「あれ…?」

「嘘…?」

スキルが解除された瞬間、あちこちで生徒たちの戸惑いの声が上がった。

彼らはたった今、カリスマの支配から脱した。

彼らの中の裕也に対する妄信が、今完全に取り払われた。

生徒たちは、自分たちが特に理由もなく裕也の言葉に言い諾々としたがい、命まで完全に預けていたことの異常性にようやく気づいた。

裕也の言葉を完全に信じ、麗子をリンチすることに疑問を抱かなかった自分たちのおかしさに、今ようやく気がついたのだ。

「まじかよ…有馬…お前…」

「ほ、本当に私たちを操ってたの…?」

「信じられない…有馬くんがそんなことするなんて…」

「な、なんで私たち、特に理由もなくこんなに有馬くんのこと信じてたの…?これが有馬くんのスキルの力なの…?」

生徒たちが裕也に疑念の目を向ける。

「ち、違う…!みんな…!俺は決して操ったりなんかして…」

必死に取り繕うとする裕也だったが、すぐさま幸雄が口を挟んだ。

「命令だ。本当のことを、洗いざらい話せ、有馬裕也」

「…っ」

裕也が即座に言い訳をやめる。

そして、自らがクラスメイトに何をしたのか、洗いざらい告白する。

「そうだ。俺はみんなを操っていた。スキルの名前はカリスマ。俺にちょっとでも好意を持っている人間を操ることができる。みんなが俺を無条件に信じたのは全部俺のスキルのせいだ。黒崎さんは俺たちを裏切っていない。
俺が皆に信じこませた。黒崎さんを追い詰めて、自分のものにするために」

「「「「…っ!?」」」」

他ならぬ裕也の口から、真実が語られた。

クラスメイトたちは驚愕に目を見開く。

「はっ…あ…」

強制的に全てを言わされた裕也は、慌てて口をつぐむがもう遅い。

彼をみる生徒たちの視線は今や完全に軽蔑のそれに代わっていた。

「さ、最低…」

ポツリと誰かがそう漏らした。

それを皮切りにして、次々と非難の声が裕也に浴びせられた。



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