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第二十四話
しおりを挟む「……っ……ん?何かな?西川くん」
その男子生徒の顔を見たとき、裕也の顔が僅かに歪む。
声をかけてきたのは、西川幸雄という男子生徒で、日本にいた頃は『根暗』『陰キャ』というあだ名で呼ばれ、バカにされていた生徒だった。
容姿に優れ、勉学にもスポーツにも秀で、女子人気があり、クラスの中心だった裕也とは真反対の人間であり、それゆえに裕也は幸雄を相容れない存在として毛嫌いしていた。
「力をかせないかなと思って。僕も有馬くんの役に立ちたいんだよ」
笑顔でそんなことを言ってくる幸雄。
お前如きに何ができる。
内心そう思いながらも、裕也は丁寧に対応する。
「そう?でもどうするんだい?」
「僕のスキルが役に立つんじゃないかって思って…、僕の説得スキルが」
他人を説得し、話し合いを有利に進めることのできるスキル。
それが西川幸雄のスキルだと、裕也は聞かされていた。
スキルを申告させた当初は、使える場面の限られたハズレのスキルだと馬鹿にしていたが、なるほど、今が説得スキルが役にたつ絶好の機会かもしれない。
裕也は一度幸雄に任せてみることにした。
「なるほど…!確かに君のスキルならこの状況を打破できるかもしれないね…!よろしく頼むよ…!」
「わかった!任せて…!」
他の生徒同様、裕也の役に立てるのが嬉しくて仕方がないと言った様子で幸雄は頷き、門番たちの元へ向かって歩いていく。
どうせ無駄に終わるに決まっている。
単なる説得が上手くなる程度のスキルで、現状を打破できるはずがない。
そう小馬鹿にしながら、裕也は幸雄の様子を見守った。
が、裕也の予想に反して、事態はあっさりカタがついた。
「ありがとうございます…!裕也くん通してくれるって…!」
たった10秒程度、門番と話した幸雄が嬉しげな表情でこちらへと駆け寄ってきた。
「え…?は…?」
冗談だろう?
そう思って裕也は門番の方を見たが、なんとあれだけ裕也たちを怪しんでいた門番が、道を譲るように傍へずれた。
そして、どうぞお入りくださいというように街の中へ手を示している。
「説得…したのかい…?」
かなり驚いた裕也が幸雄に尋ねると、幸雄は頷いた。
「ああ…!話したらすぐにわかってくれたよ…!街に入ってもいいって!有馬くんの役に立てて、僕嬉しいな」
「ははは…ありがとう、幸雄くん…助かったよ…」
裕也は乾いた笑みを漏らす。
幸雄は嬉しげに頷いて、背後の集団へと戻っていく。
その際に一瞬だけ、幸雄の顔から表情が消えて暗い笑いがその口元に浮かんだのだが、裕也にはそれが見えなかった。
「結構使えるじゃないか…ま、俺のカリスマスキルほどじゃないがな…」
自分が解決できなかった問題を、下に見ていた幸雄にあっさりと解消されて少しムカついた裕也だったが、所詮自分のカリスマスキルで操られてる奴隷のしたことにすぎないと気を取り直して、クラスメイトたちに向き直る。
「みんな…!西川くんのおかげで通れるようになった…!街の中へ入ろうか…!!」
「「おおーーー!!」」
そうして裕也はクラスメイトたちを率い、異世界の街カナンへと足を踏み入れたのだった。
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