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第十話

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殺された委員長、本田愛莉は有馬裕也の提案によって地面に穴を掘られ、埋葬された。

その後、裕也はみんなの前にでて、誰にも相談することなく決めたこれからの方針を決定事項のように話し始めた。

恵美は非常に違和感を覚えたのだが、やはりどこか様子のおかしいクラスメイトたちは一切の異論を唱えることなく、裕也の言い分を全肯定するのだった。

「俺たちはまずカテリーナの言ったように、王都に向かわなくてはいけない…!」

裕也は身振り手振りを使って訴えかけるように言った。

「俺たちにはこの世界の知識が乏しすぎる。現状、日本へ帰る方法を探すのはほぼ不可能に近い…!だから、悔しいけどしばらくはカテリーナの指示に従って行動する他にない…!」

裕也は話の途中で時折クラスメイトの反応を伺うように周囲をぐるりと見渡す。

クラスメイトたちは同意を示すように頷いたりして、裕也の話を熱心に聞いている。

「カテリーナは突然俺たちの前に現れて突然消えた。またいつ現れるかもわからない…そして、今カテリーナと戦って俺たちに勝てるような力はないと思う…けど、時間が経てばどうだろうか。俺たちは勇者だ…!この世界の住人にはないスキルという力を持っていて、カテリーナ曰くこの世界を救えるような力があるという…力を使いこなせるようになればカテリーナも倒せるかもしれない…!」

「そ、そうだ…!」

「その通り…!」

「すごいよ裕也くん…!そんなことまで考えているなんて…!」

外野の恵美にとって裕也の思考は単に勝てなそうなカテリーナに逆らわずに服従するといういたってシンプルで誰だっておもいつくようなものだったが、クラスメイトたちはそれが裕也にしか思いつかない名案であるかのごとき反応を見せ、裕也を絶賛する。

「だから、今は耐えるんだ…!耐える時だ…!カテリーナに反抗し、日本に探す方法を模索するのは、もっと俺たちがこの世界について詳しく知って、スキルの力を使いこなせるようになるまで待つべきなんだ…!だから、今は全員で王都を目指そう…!いいかな?」

「賛成だ!」

「異議なし…!」

「さすが裕也だ…!」

「名案だな…!」

パチパチパチという拍手が起こった。

全員が裕也を称賛し、褒め称え、担ぎ上げている。

「な、なんなのこれ…」

ここまでくるとほとんど宗教に近い。

遠巻きに眺めていた恵美はそう思った。

「ありがとうみんな…!それじゃあ、王都に向かって早速出発したいんだけど…その前に一つやり残したことがある」

皆の拍手が収まった後、裕也が唐突にそう言って、恵美の方を見た。

「え、私…?」

全員が恵美の方を見て、恵美はとっさに後ずさる。

「新田さん。君は確か、俺たちと違ってスキルがないんだったよね?」

裕也が棘のある声で聞いてくる。

「う、うん…そうだけど…」

多くの生徒が恵美のスキル鑑定を見ていたために誤魔化すことはできない。

恵美は正直に頷いた。

すると裕也の顔に影がさす。

「スキルは勇者としての条件だ…それがない君は役立たずということになり、俺たちの仲間に加わる資格はない」

「へ…?」

恵美は一瞬何を言われたのかわからなかった。

呆然としていると、裕也がこちらへと歩いてきて、真正面から言い放つ。

「はっきりいうよ、新田さん。君はこの世界ではお荷物だ…俺たちは日本に帰る可能性を少しでもあげるために、今後足を引っ張りそうな君をここで切り捨てようと思う」

「はぁ!?」

ようやく恵美にも状況が飲み込めた。

どうやら自分は見捨てられそうになっているらしい。

当然看過できるはずもなく、恵美は反論する。

「い、いきなりなんで…?お荷物って…まだ、自分に何ができるのかとかもわからない段階で…」

「これは英断だ…!新田さん。俺たちは自分のことだけで精一杯なんだ…!本田さんが殺されてしまったように、この世界では簡単に命が失われてしまう…!だから、皆で団結して戦っていかなくてはならない…そんな時に、君みたいに一人だけスキルを持たないものがいたら輪が乱れるんだよ」

「いや、え…ちょ…」

さすがに暴論すぎる。

恵美はこんなの、自分が言い返すまでもなくクラスメイトたちから異論が出るだろうとそう思った。

だが、クラスメイトたちは何も言わない。

むしろ、裕也に追従するように、恵美に対して恨むような視線を向けてきた。

「み、みんな…?おかしいよね、いきなり見捨てるなんて…嘘だよね?冗談だよね…?」

恵美は必死にクラスメイトたちの良心に訴えかけるが、誰一人として耳を貸そうとするものはいなかった。

「ごめんね新田さん」

「すまん新田。俺は裕也に従うよ」

「ごめんね、恵美ちゃん…でも仕方がないことなの…」

仲のいい女子生徒も、恵美に明らかに好意を持っていて、よく話しかけてきていた男子生徒も誰一人として恵美の見方をするものはいなかった。

恵美は完全に孤立していた。

「ごめんね、新田さん。俺たちを助けると思って、一人で頑張ってくれ…、あ、一人ではないか」

裕也が背後を指差しながらいった。

そこでは、いまだにすやすやと寝ている快斗の姿があった。

「彼も一緒だね…この状況になっても寝ている無神経なやつも、俺たちの仲間としては扱えないから、ここに置いていくことにする。よかったね、新田さん。仲間ができて」

ニヤッと裕也がどす黒い笑みを浮かべた。

徐に、恵美に歩み寄り、耳元でこう囁いた。

「ねぇ?今どんな気持ち?」

「へ…?」

それは思わず背筋がぞくりとなるような、粘着質な声色だった。

「ずっとこうして君に仕返しがしたいと思っていたんだよ…俺の告白を断って恥をかかせた君にね…」

「…っ」

そう言われて恵美の仲の違和感が解消される。

おかしいと思ったのだ。

なぜそうまでして恵美を排斥しようと思うのか。

確かに恵美にはスキルがないことが確かだが、しかし、最初に人としての尊厳とかモラルとか言っておいて恵美を切り捨てる判断はあまりに脈絡がなく、矛盾していると思っていたのだ。

どうやら裕也は、支援で恵美を追放したがっているらしかった。

「気づいていると思うけど…クラスメイトたちは今、俺のスキルによって従わせている…僕のスキルの名前は『カリスマ』。人を従わせて意のままにすることのできるスキルだよ…ちょっとでも俺に対して好感を抱いている人物を簡単に懐柔させられるんだ…」

「…っ」

やはり恵美の予想は正しく、クラスメイトの異変は裕也のスキルによるものだったらしい。

恵美はぐっと唇を噛む。

「嬉しいなぁ…公衆の面前で俺は君に告白して振られた…あの瞬間が俺にとってどれだけの屈辱だったか…想像できる?」

「…」

恵美の脳裏にその時の光景が蘇る。

数ヶ月前、教室のど真ん中で恵美は裕也に告白を受けていた。

『君のことが好きだ。俺と付き合ってくれないかな?』

断られることなんて念頭にない、自信満々の裕也の告白を、恵美は即断った。

恵美は恋愛に興味がなかったし、裕也のように笑顔を振りまきながらも内心他人をバカにしているのが透けて見えるような人物は嫌いだった。

恵美が告白を断った瞬間、教室内に響めきが走り、裕也はゆでたこのように赤くなっていたことを思い出す。

後から考えると、友人などに、付き合ったも同然だ、などと触れ回っていたのかもしれない。

が、そんなこと恵美の知ったことではなかった。

そんな一幕を、裕也がまさかここまで引きずっていたなんて想像だにしなかった。

あまりの狭量さに、恵美は完全に言葉を失ってしまった。

「あの時断らずに素直に付き合っていればこんなことにはならなかったんだよ…?」

「…っ」

「まあ、もし、君があの時のことを誠心誠意謝って、俺の性奴隷になるっていうなら助けてあげないこともないけど…どうする?」

「お断りです」

恵美は即決した。

こんなゲス男に身を売るのは、恵美のプライドが許さなかった。

「…っ、あっそ…じゃあ、勝手に死ねよ」

裕也は額に青筋を浮かべ、憤慨した様子で踵を返した。

「それじゃあ、みんな!王都に向かおうか…!」

そう言って先頭になって歩き出す。

クラスメイトたちもぞろぞろとそれに続いた。

仲の良かった何人かの女子生徒がこちらを振り向いたが、結局足を止めることも言葉をかけることもなく、恵美を置き去りにして去っていってしまった。

後に残されたのは、恵美といまだに寝ている快斗のみとなった。

「はぁ…なんだかんだプライド高いよね…私」

クラスメイトたちの姿が見えなくなったと恵美はため息を吐く。

そしてとりあえず寝ている快斗を起こそうと近づいていく。

「ねぇ、起きて、快斗くん…!ねえ、ったら」

若干鼓動が高鳴るのを自覚しながら、恵美はなかなか起きない快斗の体を揺さぶる。

そうこうしているうちに、オオカミを数倍にでかくしたような獣が接近してくるのが見えて、恵美は慌てて快斗を起こした。

これが、快斗が恵美に起こされるまでに起こった出来事の全てだった。


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