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第五十七話

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「どこか痛いところはないか?一応傷は治ったはずだが…」

「ええ、問題ないわ。私一人でもなんとかなったけれど、一応お礼を言っておくわね」

「お、おう…?」

プライドの高いミシェルの横柄な態度に、とあるAランクパーティーのリーダーである男は戸惑う。

また、他の二人のメンバーも、命の恩人に対して感謝も碌にしないミシェルに目を細める。

「あの御者…次あったら絶対にタダじゃおかないわ…」

また、そんな彼らの視線に気づかないミシェルは、自分を馬車から蹴り落とした御者に対して怨嗟の言葉を吐く。

あれから。

一度は囮として馬車から蹴落とされ、ハイウルフに囲まれて死にそうになっていたミシェルだったが、偶然近くを通りかかったAランクパーティーに助けられ、なんとか一命を取り留めていた。

一時は右腕を食いちぎられ、ほとんど死にかけていたのだが…現在は優秀な魔法使いのおかげで傷は全快している。

「どうする?街まで送って行こうか?一人じゃ危険だろう?」

ミシェルの横柄な態度に若干苛つきながらも、しかし根が優しいリーダーの男は、ミシェルに対してそんな提案をする。

ここでミシェルを放逐して、またハイウルフに襲われるようなことがあれば目覚めが悪いと、そんな優しさからだった。

しかし、ミシェルはこの提案に対して感謝するわけでもなく、値踏みするような視線を男に向けた。

そして…

「ねぇ、あんたたち冒険者よね?」

「あ、あぁ、そうだが…?」

「ランクは?」

「ら、ランク…?」

「そうよ。ランクよ。早く答えなさい」

「…っ」

偉そうな態度に、仲間の一人が口を開きかける。

だが、リーダーの男が手で制した。

そして、怒りを抑えた口調で答える。

「俺たちは一応、Aランクだ」

「そう。まぁ、その程度よね…」

ミシェルが鼻を鳴らす。

リーダーの男は、ミシェルの意図が読めず、首を傾げる。

そんな中、ミシェルが口を開いた。

「決めたわ。あんたたちのパーティーに入ってあげる」

「「「は…?」」」

思わず三人はそんな声を漏らした。

ミシェルの言葉を理解するのに数秒の時間を要した。

「不必要だったとはいえ、一応手助けしてもらったのは事実だし、仕方がないからあなたたちのパーティーに入ってあげるわ。取り分も等分でいい。どう?破格の提案でしょ
う?」

「「「…」」」

三人はあまりの図々しさに閉口してしまった。

この女は、助けてもらった例も言わずに、あろうことか、偉そうな態度で自分をパーティーに加えろという。

一体どういう神経をしていたらこういう口の聞き方になるのだろう。

三人はすっかりミシェルに対して呆れてしまっていた。

だが、そのことにミシェルは気づかない。

「何?固まっちゃって。そんなに嬉しいの?ま、それもそうか。元Sランクパーティーのメンバーが直々に仲間になってあげるって言ってるんだものね。その反応も頷けるわ」

「え、Sランク…?」

「こいつが…?」

「ハイウルフもロクに倒せないのに…?」

三人は呆れるのを通り越して、逆にミシェルを心配そうな目で眺めた。

今確かにSランクと口にした。

ハイウルフを1匹も倒せないほどの実力の女が。

バカも休み休み言ってほしい。

ひょっとしてこの女は、薬物でもやっているのだろうか。

「何?嘘だと思ってるの?はぁ…まぁ、あんたたち程度だと、Sランクとそうでない冒険者の区別もつかないか。仕方のないことね」

反応があまり芳しくなかったため、ミシェルはため息と共にそういった。

彼女は、目の前の彼らがまだ冒険者として未熟で、強者である自分の存在感を感じ取れなかったのだろうとそう認識したのだった。

見当違いも甚だしいが、プライドの高すぎる彼女は気づかない。

「じゃあ、私の実力をあんたたちにわからせるために、一度クエストに出ましょう。そうすればいやでも分かるはずよ」

「く、クエストに…?」

リーダーの男がミシェルに問い返した。

「ええ。そうよ。私の魔法使いとしての実力をあんたたちに思い知らせてあげるわ」

「「「…」」」

ハイウルフ1匹倒せない冒険者の実力など高が知れている、というのが三人の本音だった
が、ここまでくると逆に面白くなってきたために、三人はミシェルの提案を飲むことにしたのだった。

「わかった。じゃあ、せっかくだし、今からでもクエストを手伝ってもらおうかな。ちょうど今、俺たちはクエストに向かう途中だったんだ」

リーダーの男がそんなことを言う。

こうしてミシェルは、命を救われたAランクパーティーの冒険者三人と共にクエストへ赴くことになったのだった。

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