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第五話

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Sランクパーティー『緋色の剣士』を追放されたその翌日、俺はDランクの駆け出しパーティー『英雄の原石』とともに冒険に出ることになった。

『英雄の原石』のメンバーは、三人。

リーダーであり両手剣使いのユート。

細剣使いのカンナ。

魔法使いのエミリ。

この三人で構成されている。

全員15にも満たない、若者たちだ。

そして現在。

俺たちは受けたクエストのために森へと向かっていた。

クエストの内容はゴブリンを七体倒すと言うもの。

いかにも駆け出しらしい、俺にとっては容易なクエストだ。

しかし、駆け出しの彼らにとっては違う。

聞くところによれば、『英雄の原石』はつい昨日、ゴブリン討伐のクエストに失敗したそうだ。

「うわーっ、うわーっ…あの憧れのアルトさんと、俺クエストに出られるんだっ…うわーっ」

歩きながら、ユートが嬉しげにそんなことを言っている。

「ごめんなさいアルトさん。うちのメンバーがうるさくて」

そんなユートを嗜めるのが、細剣使いのカンナ。

「ははは。別にいいんだよ。それに、俺なんかとパーティー組めるだけで喜んでもらえるなんて…嬉しいよ」

「なんかって…そんな、謙遜しないでください…って、エミリ。ほら、ちょっと遅れてるよ」

「…」

そして、そんなやり取りをする俺たちの後ろをついてきているのが、魔法使いのエミリだ。

帽子を深く被り、決して顔を見せようとしない。

出会ってすでに半時間は経過しているが、ここまで一言も会話していない。

ユートやカンナ曰く、人見知りなんだそうだ。

「ユート!あんたは早く歩きすぎ!エミリが遅れるじゃない!」

「仕方ないだろ!だってアルトがモンスターと戦うところを早く見たいんだっ!」

興奮気味にそんなことをいうユート。

「ごめんなさい、アルトさん」

前のめりのリーダーに、しっかり者のカンナが申し訳なさそうに頭を下げる。

「ははは。別にいいんだよ」

俺は笑いながら言った。

いかにも駆け出しと言う感じの、三人の微笑ましいやりとりは、追放され深く傷ついた俺の心を、少しではあるが癒してくれた。


やがて『英雄の原石』+俺は、ゴブリンの出現する森へと辿り着いた。

「い、いよいよですね…」

さっきまで興奮していたユートも、流石にうわついていられなくなったのか、剣を抜いて緊張した面持ちとなっている。

他の二人もそれぞれの武器を手にして、いつでも戦えるよう備えている。

「よし、じゃあ行くぞ」

この場はベテランである俺が先導するべきだと思い、俺は先頭に立って森の中へと入っていった。

「まずはモンスターを見つけるか…」

森の中に入った俺はまず、探知魔法を使ってモンスターの気配を探る。

半径五キロ以内にいるモンスターの位置が、正確に俺に伝わってくる。

「ふむ…一番近くだと…こっちだな」

俺は右斜め前方にモンスターの気配を感じ取り、歩き出す。

「えっ、アルトさん?どこに行くんですか?」

俺の背後でユートが戸惑った声をあげる。

「こっちにモンスターがいるんだ。おそらくゴブリンだな」

「ど、どうしてわかるんです?」

「探知魔法だ」

そう言うと、ユートが瞳を輝かせた。

「す、すごいっ…これが一流の冒険者…っ」

いや、このぐらい普通の冒険者にだって出来る…

そう言いたかったが、ユートの感動に水を刺すのもな、と思い言わなかった。

「こいつのことは放っておいてください、アルトさん」

カンナがすかさず口を挟む。

「あはは…じゃ、行こっか」

俺は笑いながら進み始める。

やがて草木をかき分けて進む俺たちの前に、1匹のゴブリンが現れた。

『グゲゲッ!』

「すごいっ、本当にいたっ!」

ユートが剣を構えるのも忘れて、興奮した声をあげる。

「馬鹿ユート!ちゃんと剣を構えなさいっ」

カンナが、モンスターと相対していることをすっかり忘れているユートの頭を叩く。

「はっ、そうだったっ!」 

慌てて剣を構えるユート。

そうこうしているうちに、ゴブリンが襲いかかってきた。

『グゲゲッ!』

「うわっ、アルトさんの方にっ!!」

ゴブリンが標的としたのは、一番前にいた俺だった。

俺はギルドから貸し出してもらった剣を使って、ゴブリンを切り刻む。

『グゲッ!?』

一瞬のうちに、手足と胴体と頭部をバラバラにされたゴブリンが地面に転がった。

「えええええっ!?」

それを見て一際大きな声をあげたのがユートだ。

「す、すげえええええええ!!!全然見えなかったっ!!全然見えなかったっ!!」

興奮したようにぴょんぴょん飛び跳ねるユート。

「ヒュババババっって!今ヒュババババっって!!」

「ははは…ほ、ほら、ユートくん落ち着いて…」

そんなに興奮しているとそろそろカンナちゃんから咎められるぞ。

そう思ったのだが…

「うそ…」

「え」

見れば、カンナまでもが口をぽかんと開けて呆然としていた。

「早すぎ…一瞬で…全然見えなかった…これがSランクパーティーメンバーの実力…」

「いや、ちょっと、あの…」

俺は助けを求めるように、もう一人の『英雄の原石』のメンバー、エミリを見る。

「つよ…すぎ…」

ボソッとそんな呟きが聞こえてきたのだった。

まぁ、彼らにとっては上級冒険者と冒険に出るのは始めただから無理もないか…

その後、俺たちの歩みが再開されるのに、たっぷり5分以上はかかったのだった。


「本当にすごかったですアルトさん!御伽噺の勇者かと思いましたっ!!」

「いや、そこまでじゃないだろ…」

あれから。

相変わらず興奮状態にあるユート。

すっかりクエスト中であることを忘れて、先程の俺の動きを真似ている。

「どうやったんですか!?あんなに早い動き…やっぱり魔法ですか!?僕にも出来るようになりますか!?」

「おう、あれくらいなら誰にだって…」

「ほ、本当ですか!?すごいっ!!やっぱり冒険者になってよかっ…あだっ!?」

バシンとカナンに叩かれるユート。

「こら。アルトさんに迷惑かけるな」

「す、すみません…」

「あはは…迷惑じゃないからいいよ別に。それより、次のゴブリンは君たちが倒すんだぞ?いつまでも俺が戦っていたら、君たちの力にならない」

俺がそういうと、三人が表情を強張らせた。

俺はそんな彼らに安心させるように言う。

「大丈夫だ。俺は回復魔法も使えるから、怪我しても治せるし、弱点もちゃんと教える。心配ない。君たちになら必ず出来る」

実際、三人は、資質という点ではかなりの逸材だ。

十二歳の頃に冒険者になり、もう10年以上も冒険者家業を続けている俺には、一眼見ただけで大体そいつの才能の有無がわかる。

この三人は…少なくともそれぞれが冒険者百人のうちの一人ぐらいの逸材だ。 

数年本気で修行すれば、俺なんて簡単に超える存在になるだろう。

「そうですかね…?僕たちにも、ゴブリン、倒せますか…?」

ユートが不安げに聞いてくる。

「ああ。もちろんだ。将来はSランク冒険者になるんだろ?このぐらいで尻込みしててどうする?」

「は、はい!僕、頑張りますっ!!いつかアルトさんみたいな冒険者になるために!」

「いや、別に俺を目指さなくとも…って、ほら、話しているうちにお出ましだぞ!」

『グギギ』

草むらからゴブリンが2匹、飛び出てきた。

「うわっ」

ユートが慌てて剣を構える。

「落ち着け。ゴブリンは攻撃力も防御力も高くない。慎重に立ち回れば、無傷で勝てるはずだ。やってみろ」

「わ、わかりました…!」

俺は後ろに下がって、三人の戦いを見守る。

「僕はアルトさんみたいになるんだっ!うおおおおっ」

ユートがゴブリンに向かって正面から突っ込んでいく。

だが、力みすぎたのか…

スカッ

ユートの握る両手剣は空を切る。

『グギギッ!』

「うわああっ!?」

体制を崩したユートに攻撃を加えようとするゴブリン。

「させないっ!」

そこへ飛び込んだのがカンナだ。

細剣を突き出し、ユートに向かうゴブリンの攻撃を防ぐ。

「おお、いい動きだ」

とても駆け出しとは思えない、味方のカバーに回るいい動きだった。

「あ、ありがとうカンナ」

「気をつけなさいユート。がむしゃらに突っ込んじゃダメっ」

「わ、わかった…!」

剣を構え直すユート。

仕切り直しだ。

…ふむ。

この辺で一つアドバイスをしてやるか。

「ユート。ゴブリンは知能が低い。それを踏まえて、戦ってみろ!」

俺はユートの将来性を試す意味も込めて、ちょっとしたヒントを与えてみる。

「ち、知能が低い…それを戦いに生かす方法…そ、そうだっ!」

俺のヒントで何かを思いついたのか、もう一度少年から突っ込んでいくユート。

「うおおおおっ…と見せかけて、こうだっ!」

だが、今回は馬鹿正直に剣を振るのではなく、フェイントを混ぜた一撃だった。

ザクッ! 

『グゲッ!?』

知能の低いゴブリンは、見事にフェイントに引っかかり、ユートの本命の攻撃をモロに喰らうことになる。

「よっしっ!」

ユートの両手剣がゴブリンの脇腹を捕らえた。

ゴブリンがよろよろとよろめいて、尻餅をついた。

「そこよっ!!」

カンナが飛び出て、トドメをさす。

喉を串刺しにされたゴブリンは、断末魔の悲鳴をあげることなく息絶えた。

「どうですか!?アルトさん!」

「油断するな!まだ残ってるぞ!」

「は、はいっ!」

褒めて欲しそうにこちらを向いたユートを注意する。

しかし、先程のフェイントは見事だった。

後でたっぷり褒めてやるとしよう。

『グギ…グゲ…』

残り1匹のゴブリンは、仲間を倒されたことで警戒しているのか、ジリジリと後ろに交代し始めた。

「エミリ。次はお前が戦ってみろ」

俺はここまで一度も戦闘に参加してないエミリに指示を出した。

アドバイスをする上で、エミリの実力も見ておきたいと思ったのだ。

「…っ」

エミリがきゅっと唇を噛むのが見えた。

恐る恐る杖を構えて、前に出る。

次の瞬間。

ボッ!

『グギッ!?』

炎の玉が現れてゴブリンの顔面を捕らえた。

炎系の初級魔法、ファイア・ボールだ。

『グギ…?』

「…っ」

狙いはよかった。

だが、威力が足りなかったために、エミリの放ったファイア・ボールはすぐに消えてしまい、ゴブリンを仕留めるには至らない。

「やっぱり…ダメ…」

エミリが自身を亡くしたようにへたり込んだ。

「いいや、見事だったぞ。エミリ」

スパン!

俺はゴブリンの首を飛ばしながらエミリにそう言った。

「え?」

エミリが俺を見上げて、ぽかんと口をあげる。

俺はへたり込んだ彼女に手を差し伸べながら。

「お前は間違いなく魔法の逸材だ。鍛えれば、国一の魔法使いになれるはずだ」

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