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絶望
絶望1
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喜んだのと同時に、ふと空良は考える。
もしもここに鈴がいなかったら、自分はこの先へ進むことができなかったのではないかと。
神様がわざわざ鍵をくれるとも思えない空良の心は、少しだけざわつく。
「どうしたの? お兄ちゃん?」
鈴に声を掛けられ、空良の意識は鈴の方に向いた。
(考えていても仕方ないか)
どこかご都合主義なのも、ゲームだからなのだろう。
そう自分に言い聞かせ、空良は微笑む。
「なんでもない、行こう」
優しく言うと、鈴は強く頷いた。
二人でカーブした長い廊下を進んでいくと、五分程で階段が見える。
その階段は下へと続いていて、空良の目が輝く。
この階段は、最後の階層に続く階段だと思うと、体が震えた。
嬉しいのか、恐れているのか。
理由は分からないが、期待の気持ちは間違いなくある。
「もうすぐだ……」
空良が呟くと、鈴は首を傾げた。
「もうすぐ?」
鈴に聞かれ、空良は頷いて見せる。
「そう、もうすぐ出口だ」
期待を含む空良の声は、跳ねるように明るい。
それを聞いた鈴は笑顔になって、嬉しそうに「やったぁ!」と声を上げた。
二人は階段を下り始める。
途中で鈴が空良の手を握ってきた。
その手は先ほどより硬くなっている気がして、空良は鈴の方を見る。
何も疑わず、ゴールが近いということに胸を踊らせている鈴の足取りは軽い。
(気のせい……かな)
鈴は空良と出会ってから、死んではいない。
桜は死ぬ度に化け物になっていく……というような事を言っていた。
だから、鈴が化け物に近付くはずはない。
空良は優しく鈴の手を握り返した。
階段を下りきると、目の前には薄暗い廊下がのびている。
横道もない、真っ直ぐな廊下だ。
狭くはないものの、なんとも言えない息苦しさを感じて、空良の表情は険しくなる。
(嫌な空気だな)
心の中の言葉が口からこぼれそうになるが、鈴を不安にさせないためにも空良は言葉を飲み込む。
「なんにもない」
鈴は少し怖いのか、空良の後ろがわに隠れ、空良の服の裾をきゅっと掴む。
「とにかく進んでみよう、シトリーのいる部屋もあるはずだしね」
できるだけ明るく空良が言うと、鈴は小さく頷く。
二人は長い廊下を歩く。
少し重い足音と、軽い小さな足音が静かな空間に響く。
薄暗いといっても、所々に窓があり、そこから光が入って来ているため、特に不自由感や恐怖心は無かった。
暫し歩くと、この階層で初めてのドアが見える。
ここまでの道でドアは見かけなかった。
どちらにしても一歩道である事は変わり無い。
空良は恐れもせずにドアを開けた。
開いたドアを抜けた先には、部屋があった。
部屋の中にはマネキンが何体も置かれている。
複数あるマネキンの一部は、床に転がっていたり、体の一部が欠損したりしていて、不気味だと空良は感じた。
「あ! シトリーの場所!」
鈴が声を上げて部屋の中心にある台座を指さす。
「本当だ」
マネキンが沢山あることに不安を感じていたが、シトリーに会えるという嬉しさが不安を掻き消す。
二人は乱雑に置かれたマネキンの間を抜け、台座の前に立つ。
すると台座の上にふわりと光が浮かび、その中心にシトリーが現れた。
シトリーは空良と鈴をみるなり「なーるほど」と緊張感の無い声で言う。
「シトリー」
空良が呼び掛けると、シトリーは空中でくるりと回る。
「先ずは一旦おめでとう、空良くん」
シトリーに言われ、空良はこくんと頷いた。
とうとう最後の階層に来たのだと思うと、涙が出そうになる。
しかし、鈴の前で泣くわけにはいかないと、空良は涙をこらえた。
「前の階層では、有難う。 シトリーがいてくれて、本当によかった」
そう空良が言ったのを聞き、シトリーは「どーいたしまして」とぶっきらぼうに返す。
もしもここに鈴がいなかったら、自分はこの先へ進むことができなかったのではないかと。
神様がわざわざ鍵をくれるとも思えない空良の心は、少しだけざわつく。
「どうしたの? お兄ちゃん?」
鈴に声を掛けられ、空良の意識は鈴の方に向いた。
(考えていても仕方ないか)
どこかご都合主義なのも、ゲームだからなのだろう。
そう自分に言い聞かせ、空良は微笑む。
「なんでもない、行こう」
優しく言うと、鈴は強く頷いた。
二人でカーブした長い廊下を進んでいくと、五分程で階段が見える。
その階段は下へと続いていて、空良の目が輝く。
この階段は、最後の階層に続く階段だと思うと、体が震えた。
嬉しいのか、恐れているのか。
理由は分からないが、期待の気持ちは間違いなくある。
「もうすぐだ……」
空良が呟くと、鈴は首を傾げた。
「もうすぐ?」
鈴に聞かれ、空良は頷いて見せる。
「そう、もうすぐ出口だ」
期待を含む空良の声は、跳ねるように明るい。
それを聞いた鈴は笑顔になって、嬉しそうに「やったぁ!」と声を上げた。
二人は階段を下り始める。
途中で鈴が空良の手を握ってきた。
その手は先ほどより硬くなっている気がして、空良は鈴の方を見る。
何も疑わず、ゴールが近いということに胸を踊らせている鈴の足取りは軽い。
(気のせい……かな)
鈴は空良と出会ってから、死んではいない。
桜は死ぬ度に化け物になっていく……というような事を言っていた。
だから、鈴が化け物に近付くはずはない。
空良は優しく鈴の手を握り返した。
階段を下りきると、目の前には薄暗い廊下がのびている。
横道もない、真っ直ぐな廊下だ。
狭くはないものの、なんとも言えない息苦しさを感じて、空良の表情は険しくなる。
(嫌な空気だな)
心の中の言葉が口からこぼれそうになるが、鈴を不安にさせないためにも空良は言葉を飲み込む。
「なんにもない」
鈴は少し怖いのか、空良の後ろがわに隠れ、空良の服の裾をきゅっと掴む。
「とにかく進んでみよう、シトリーのいる部屋もあるはずだしね」
できるだけ明るく空良が言うと、鈴は小さく頷く。
二人は長い廊下を歩く。
少し重い足音と、軽い小さな足音が静かな空間に響く。
薄暗いといっても、所々に窓があり、そこから光が入って来ているため、特に不自由感や恐怖心は無かった。
暫し歩くと、この階層で初めてのドアが見える。
ここまでの道でドアは見かけなかった。
どちらにしても一歩道である事は変わり無い。
空良は恐れもせずにドアを開けた。
開いたドアを抜けた先には、部屋があった。
部屋の中にはマネキンが何体も置かれている。
複数あるマネキンの一部は、床に転がっていたり、体の一部が欠損したりしていて、不気味だと空良は感じた。
「あ! シトリーの場所!」
鈴が声を上げて部屋の中心にある台座を指さす。
「本当だ」
マネキンが沢山あることに不安を感じていたが、シトリーに会えるという嬉しさが不安を掻き消す。
二人は乱雑に置かれたマネキンの間を抜け、台座の前に立つ。
すると台座の上にふわりと光が浮かび、その中心にシトリーが現れた。
シトリーは空良と鈴をみるなり「なーるほど」と緊張感の無い声で言う。
「シトリー」
空良が呼び掛けると、シトリーは空中でくるりと回る。
「先ずは一旦おめでとう、空良くん」
シトリーに言われ、空良はこくんと頷いた。
とうとう最後の階層に来たのだと思うと、涙が出そうになる。
しかし、鈴の前で泣くわけにはいかないと、空良は涙をこらえた。
「前の階層では、有難う。 シトリーがいてくれて、本当によかった」
そう空良が言ったのを聞き、シトリーは「どーいたしまして」とぶっきらぼうに返す。
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〈参考〉
「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」
https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf
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