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第一章
Episode 14
しおりを挟む「はぁー……突然ボスが出てくるとか流石にマジかよって感じではあるんだけど……」
【人狼王】という名のついた、明らかに巡回兵やそれに準ずるものではない、ユニークネーム持ちに倒された私はこの世界に最初に降り立った広場へと帰ってきていた。
インベントリなどを確認しても、パッと見失った物やデメリットのような何かが発生している様子はないため、ゲーム内で死んでも直前のセーフゾーン……安全な場所へと戻されるだけなのだろう。
こうなってくると、どこか拠点のような場所が欲しくなってくるのだが……それはまた後々でいい。
問題はやはり、私を倒したアレだろう。
「【人狼王】コート―ド……王だもんねぇ。なんであんな所に居たんだか……」
私達が歩いていたのは中層。
つまりはまだ森の奥までは辿り着いていなかったのだ。
それなのに、明らかにボスらしき個体が中層まで出張ってきていた。
……何かしらの前触れ、イベント系かな。
イベント、それこそゲームでよくある所謂負けイベというものならばまだわかる。
しかし大抵そういったイベントはストーリーに組み込まれているもので……言ってしまえば、今回のように唐突に、突発的に起こるものではないだろう。
無論、ボスも生物だ。
ゲーム内、仮想空間と言えど、この世界では生きている。
自身の獲物を狩っていた所、私達を発見した……というのはありえなくはないだろう。
私はまだ、この世界に対する知識が足りていない。
そう思い、契約の書から赤ずきんたちの誰かを呼ぼうと腰に伸ばした手を途中で止めた。
「うん、ここは交流と行こうか」
私はそのままメニューを開き、丁度知り合いとなっていた彼へと連絡を取ることにした。
いつまでもソロでいるつもりは、毛頭ないのだ。
「よぅ、嬢ちゃん」
「どうもスキニットくん、ごめんね突然呼び出しちゃって」
「大丈夫だ。で?なんだ話って」
私がステータスを確認したり、サーちゃんに怒られたりした公園に初日に色々と教えてくれたプレイヤー……スキニットを呼び出した。
理由は簡単。掲示板をさらーっと確認していると、大抵有名なプレイヤーとして名前が挙がるのが彼。
つまりはその分、このゲームに詳しく……私の知りたいことも知っている可能性があると踏んだわけだ。
「いや、簡単な話でね。どこの掲示板にも載ってなかったから聴きたいんだけど、このゲームってボスはフィールド上を徘徊してたりするのかなっと思ってね」
「ボスが徘徊……?いや、俺はそんな話聞いたことも、見た覚えもないが……」
「成程、じゃあ徘徊しないって考えた方が良さそうか……ちなみに、普通のボスってどんな所にいるとかあるのかい?」
「あぁ、一応はそのフィールドの最奥に、ボス戦用のフィールドに繋がる入り口が存在するんだ」
「おーけぃ、ありがとう。……よし、じゃあそっちから聞きたい事もあるんだろう?聞いてもらって構わないぜ?」
どうもソワソワした様子で周りを気にしている素振りを見せているスキニットに対し、私はその辺のベンチに腰掛け足を組んで適当にだらけだした。
スキニットにも座るよう促すと、苦笑しながら遠慮された。
流石に女と一緒にベンチに横並びで座るのは誰かに見られた時に色々と言われそうだという理由で。
「あー……いいのか?そっちも出したくない情報とか……」
「んー、いや。そもそもベータテストすらやってない私が持っている情報なんてたかが知れてるだろう?もしかしたらこうやって勿体ぶってるだけで、スキニットくんなら知ってる情報かもしれないし?」
実際、そう思っているのは嘘ではない。
聞いてくる内容にもよるものの、実際私が他のプレイヤーよりも情報を持っていそうなのは【憑依】に関する事くらいなのだ。
それに関しても、後々を考えれば秘匿している意味は薄い。
「……成程な。じゃあ遠慮なく。……赤ずきんの嬢ちゃんは、どうやってあの森を探索してるんだ?さっきのボスの話もそれに纏わる話だろう?」
「あは、その話か。いやはや単純だよ。私の【契約】してる子の中に素早い相手に対して有利をとれる子がいるんだ」
これも嘘は言っていない。
アーちゃんの持っている銃火器という武器を考えるに、撃てれば先手をとれるし有利も取れる。
問題はそれによって周りのこちらにまだ気づいていない敵までおびき寄せてしまう事だが……それもスーちゃんの索敵によって、数の少ない方へと動くことで何とか被害なく撃退する事が可能だ。
「速さにはその上をいく速さを、ということか」
「そういうこと。簡単だろう?」
「まぁな。……次の質問なんだが」
「なんだい?スリーサイズ以外なら答えようじゃないか。体重は――」
「体重なんか聞くか馬鹿!……嬢ちゃん、【憑依】システムについてどれくらいまで知ってやがる?」
……やっぱりきた。
ある程度聞かれるとは思っていた質問だ。
「最近開放されたアレだね?しかしなんでまた私に?」
「まぁ知人には聞いて回ってるんだがこれといった情報もなくてな。……手あたり次第ってわけでもないんだが、話した方がいいか?」
「んー……出来れば。あぁ、口外したくない内容だったら言わなくてもいいぜ?」
「いや、大丈夫だ。……俺の【契約】の中に、1人そういったのを探るのに長けてるやつがいてな。システムが開放された時に、そいつが森の方で色々と感じるとか言ってたんだよ」
そう語るスキニットの目は真剣そのものだった。
軽く息を吐き、そんな彼に対して笑いかける。
「あは、成程ねぇ。もしかしたら私以外にも森に入ってる人がいるかもしれないけれど?」
「そっちについては――」
『――えぇ、良いわ坊や。彼女で確定よ。感じたのはこの子の魔力だわ』
「おっと?」
突然、彼の腰に下がっている契約の書が光ったかと思いきや、突然目の前に女性が出現した。
三角帽を被り、箒をもって、髑髏のランタンを持つその姿はまごう事なき魔女の姿で、
「貴女は……もしかしてバーバ・ヤーガかな?」
『あら、貴女私を知っているのね』
彼女の名前も、魔女としては有名なものだった。
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