上 下
10 / 45
第一章

Episode 9

しおりを挟む

そんなこんなで。
私達はとりあえず仮称『憑依コンテンツ』を試すため、森の中の少し開けた場所へと移動した。

私とサーちゃんはそんな場所の中心に向かい合うように立っていた。
近くには何が起きても、そして何が襲ってきてもいいようにとアーちゃんとスーちゃんが待機してくれている。

「まぁさっきは流れであんな感じに言ってたけど、別に反対ってわけじゃあないんだろう?」
『そうだけど……出来るかどうかわからないし!』
「そりゃそうだよねぇ。私も事前情報調べてないから、ホントに出来るのか知らないし。……ホントに出来るの?アーちゃん」
『出来る、というか舎弟ゆうじんはやってるって話をしていたわよ』
「成程ねぇ……」

アーちゃんが言うには、ここから互いの身体のどこかに触れている状態でこう……グワーッと勢いでやれば憑依できるらしい。
実に感覚派な方法だが、まぁ実際そういうものなのだろう。
私も頭で考えるよりかは体で、感覚で覚えてしまった方が楽だから。

一方、サーちゃんはそんな感覚派な考えについてこれないのかハテナマークを頭の上に無数に浮かべているように見えた。
というかよく見てみればスーちゃんもよくわかっていないように見える。
だが、確か彼女も彼女で憑依に関して知識として知っている節があった。
聞くならば彼女の方がよかったかもしれないな、と苦笑しつつ問いかけた。

「スーちゃん、説明頼める?」
『いいですよ。……少しオカルト的な話にはなりますが、この世界における憑依というのはマスター……『紡手』の魂の上に私達童話の登場人物たちの魂を被せ、強化と防護を図るものです』
「成程?」
『この被せる、という所が重要で。一体化をしてしまうわけではなく、憑依する側、される側の意識は残ったまま1つの身体に収納されるわけなんです。で、ダメージなど外的要因によって影響されるのは』
「あー、被さっている上の存在……つまりはこの場合だと君たちになるって事か」
『そうなります。それ以外にも被さっている側の技能なんかも扱えるようになるため出来るようになっておいた方がいいとは思いますよ』

イメージとしては、大きな布を頭から被っているような形だろうか。
確かに便利だ、と思いつつ。しかし当然リスクもあるんでしょう、と半ば確信めいたようにスーちゃんに聞けば、首を縦に振って肯定した。

『当然リスクは存在します。穴の開き過ぎた布は使えなくなるのと同じように、この状態でダメージを受けすぎた場合……例えば、死んでしまった場合マスターは生き返りますが、その代わりに憑依していた登場人物は死ぬ……つまりは、永遠に戻ってこないものとなります』
「二度目の死、ってことかな?」
『そうなりますね。メタ的な話をすれば、一緒に行動していた記憶が無くなって元居た場所へと戻るだけなのですが……それも、結局死となんらかわりません。私達の知っていた誰かはもう二度と帰ってこないのですから』
「成程……中々なリスクだ。いや、元々は戦わない『紡手』が一時的にでも戦えるようになるんだから、仕方ないことではあるのかな」

私は……まぁ、あまり使わないかもしれない要素だ。
そもそも元々前線を切って戦うような性質ではないし、他のゲームでもあまりそういった役割ロールはしてこなかった。

ただ、彼女らの技能を使えるという点はかなり魅力的だろう。
アーちゃんのような戦闘特化の子とするかどうかは分からないものの、サーちゃんやスーちゃんのように後方支援型の子とすれば、私という弱点をカバーしながら支援を行う事ができるのだから。
今はしなくてもいいかもしれないが、今後レイド戦などが行われるときには必須となる要素だろうなぁと少し思った。

「ん、じゃあやり方は?」
『体の一部、どこでもいいので触れあいながら、憑依!って言ってくれればいいですよ。こちらとしては何もなくても出来るはずなんですが、所謂システム上の制限って奴です』
「成程ね。そっちの意思とかは関係あるの?」
『ありますよ。双方同意している状態じゃないと憑依を行う事は出来ませんから』
「……よし、じゃあ改めて聞こう。サーちゃん、憑依しようぜ」

あらかた、事前に知っておくべきだと思われる情報をスーちゃんから聞くことが出来たため、話を本題へと戻す。
元々はサーちゃんと憑依をするために今、こうやって色々と話してきたのだ。

サーちゃんは私の問いかけに対し、腕を組みうんうんと唸りながら難しい顔をしている。
分からなくはない。私でも、今の自分が消えるかもしれないけれど試してみようといわれたら絶対に悩む。
それがどんなに信用に足る人物であろうと、だ。

「まぁ、答えが出なくてもいいよ。アレだったらスーちゃんとやればいいし」
『私ですか?まぁいいですけど……』
『あらマスター。私は?』
「アーちゃんは、私がアーちゃんの銃とかを十全に扱える自信がないからダメ。1人で頑張ってね」
『残念。まぁ後で扱い方を教えてあげるわ』
「あは、お手柔らかに頼むよ」

ただまぁ、選択肢は別に1つではない。
私は3人の赤ずきんと【契約】を結んでいるのだから。
その上で、サーちゃんが答えを出さないならば他の答えを出した赤ずきんと共に力を振るうのみ。
元々彼女は戦闘向けの能力もしていないのだ。だからこそ、無理に戦場にあげるような行動をするよりも、彼女の意思を尊重したいとは思った。

『……いいよ、やる』
「おや、いいのかい?自分でいうのもなんだけど、別に嫌ならしなくてもいいんだぜ?」
『別に嫌じゃないよ。悩んでたのは戦闘能力がない私が憑依して大丈夫かなって所だけ』
「あー……どうなんだい2人とも」

実を言えば、私はサーちゃんのスキルだけは詳しい詳細を聞いていない。
いや、聞けていないというのが正しいだろう。
なんせ、サーちゃん自身が何故か恥ずかしぶって話してくれないからだ。
契約の書を使えば見ることも出来るのだろうが……私はとりあえず本人の口から聞くことが出来るまではそのままでもいいかな、と思っている。

『えぇ……?』
『いや、まぁ、えぇ。サーなら大丈夫でしょう。問題ないわ』
「だそうだよ?」
『2人とも何か私を勘違いしてない!?』

2人とも困惑、というよりかは言外に「何を言っているんだこいつは」という表情でそう答えてくれた。
つまりは戦闘能力の有無に関係なく、恐らく大丈夫なのだろう。
私は憤慨して2人に抗議をしているサーちゃんの手を取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種
SF
そのVRMMOは【犯罪者】ばかり――? 新作VRMMO「Festival in Crime」。 浮遊監獄都市を舞台に、【犯罪者】となったプレイヤー達がダンジョンに潜ったり、時にプレイヤー同士で争ったりしつつ、ゲームを楽しんでプレイしていく。 そんなお話。

呪いでお嬢様と結ばれるのは本当の縛りプレイなのか? ~VRMMO『Real Role Online』がリアルすぎる~

夜野半月(よるのはんげつ)
SF
ゲーム開始早々、出会ったお嬢様風の少女と共に「お互いの物理的距離が一定以上離れられない」スキルを取得し、文字通りの「縛りプレイ」を強要されてしまう! VRMMOの世界で、この呪いのスキルを解くため(そして少女にまつわるクエストを完了させるため)、出会った仲間達との冒険が始まる。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています

私たちだけ24時間オンライン生産生活

滝川 海老郎
SF
VR技術が一般化される直前の世界。予備校生だった女子の私は、友人2人と、軽い気持ちで応募した医療実験の2か月間24時間連続ダイブの被験者に当選していた。それは世界初のVRMMORPGのオープンベータ開始に合わせて行われ、ゲーム内で過ごすことだった。一般ユーザーは1日8時間制限があるため、睡眠時間を除けば私たちは2倍以上プレイできる。運動があまり得意でない私は戦闘もしつつ生産中心で生活する予定だ。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで

@midorimame
SF
ゾンビだらけになった終末の世界のはずなのに、まったくゾンビにあったことがない男がいた。名前は遠藤近頼22歳。彼女いない歴も22年。まもなく世界が滅びようとしているのにもかかわらず童貞だった。遠藤近頼は大量に食料を買いだめしてマンションに立てこもっていた。ある日隣の住人の女子大生、長尾栞と生き残りのため業務用食品スーパーにいくことになる。必死の思いで大量の食品を入手するが床には血が!終焉の世界だというのにまったくゾンビに会わない男の意外な結末とは?彼と彼をとりまく女たちのホラーファンタジーラブコメ。アルファポリス版

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

オワコン・ゲームに復活を! 仕事首になって友人のゲーム会社に誘われた俺。あらゆる手段でゲームを盛り上げます。

栗鼠
SF
時は、VRゲームが大流行の22世紀! 無能と言われてクビにされた、ゲーム開発者・坂本翔平の元に、『爆死したゲームを助けてほしい』と、大学時代の友人・三国幸太郎から電話がかかる。こうして始まった、オワコン・ゲーム『ファンタジア・エルドーン』の再ブレイク作戦! 企画・交渉・開発・営業・運営に、正当防衛、カウンター・ハッキング、敵対勢力の排除など! 裏仕事まで出来る坂本翔平のお陰で、ゲームは大いに盛り上がっていき! ユーザーと世界も、変わっていくのであった!! *小説家になろう、カクヨムにも、投稿しています。

ルキファナス・オンライン-素早さ極振り暗殺者は正義の味方!?

セフェル
SF
VRMMOが大流行しゲームで稼げる時代に普通の会社員だった黒月影也(くろつきえいや)は早期退職を決意。 ゲームで稼ぐ第二の人生としてβテスト段階で既に他のゲームを圧倒し、至高のVRMMOといわれた『ルキファナス・オンライン』の世界に降り立った。 サービス初日からプレイするも何故か厄介事に巻き込まれ平凡とは程遠いゲーム生活を送るハメに。 プレイするほどに『ルキファナス・オンライン』の魅力に引き込まれていく黒月影也の波乱万丈な冒険譚。

処理中です...