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第五章 月を壊したかぐや姫
Episode 18
しおりを挟む通話機能の制限。
今回の第二回区画順位戦によって秘密裏にプレイヤーに対して設けられた制限の1つだ。
しかしながら、これはある場所へとプレイヤー自ら赴くことで解除されるものでもある。
……確かめないといけないかな。
私はハロウに対して通話を繋ぐ。
ヘッドホンミュート……所謂、向こう側の声が届かないような設定で。
「……質問いいかな?」
「なんでしょう?あぁ、大人しくしてくれているのなら拘束する際にHPを減らしすぎないようにしますのでご安心を。まぁこちらには回復する術もあるんですけども」
「いやいや、そういうのじゃなく。君らって昨日何をしてたのかなって。……【偽神体】だっけ。アレがあるなら、アレが聞いた通りの性能なら……昨日仕掛けてきてもおかしくなかっただろう?」
「成程、そのことですか」
足音が複数響く。
見れば、私と目の前の男をゆっくりと囲うように周囲のプレイヤー達が集まってきているのが分かった。
話している時点で不味いとは思っていたが、やはり人が集まってきてしまったようだ。
「答えは単純ですよ。昨日はまだ完成していなかった……ただそれだけの事ですから」
「完成して、いなかった?」
「えぇ、えぇ。【偽神体】はかなり強力、というよりはゲーム的には抜け道的な作り方をしているのでしょうね。そのためなのか、もっと別の理由なのか、完成してから徐々に劣化を始め……最終的には砂となって消えてしまいますのでね。ならば区画順位戦中に完成させた方がいいでしょう?そういうことなのですよ」
プレイヤー達は少しずつ……本当に少しずつではあるが、私と男に対して距離を詰め始めている。
このままでは本当に何も出来ずに捕まってしまうだろう。
どうせ捕まるのなら、何人かと相打ちになるくらいは暴れてやりたい所だが……今は話し聞き出すことも重要だ。
「成程ね……そうして出来上がったのがアレ、と。ちなみになんでこんな場所にあるんだい、アレ。重要拠点ってわけじゃあないだろう?こんな広場……言っちゃ悪いけど、上から見たら結構目立ってたぜ?」
「はは、だからこうして見つかったんですか……。理由としては単純ですよ。ここに配置するのが一番便利だからです。区画の中心というこの場が、ね」
「オーケィオーケィ。教えてくれてありがとう。……で、周りの子らは私を拘束するために呼んだのかい?」
「えぇ、そうなります。大人しくしてくれるとこちらとしてはありがたいので、ぜひそうしてください。あぁ、でもそのご様子からスキルはもう使えない感じですかね?使うコストもないんでしょうか……?」
聞きたい事は聞けた、と言うよりは流したい情報は流し終わったと言うべきだろう。
近づいてくる男に対して、にっこりと笑いかける。
その笑顔に対して何か嫌な予感がしたのか、男は少しだけ肩を跳ね上げつつもすぐに周りのプレイヤー達へと指示を出し始めた。
「はっ早く!彼女を捕らえて――「あはッ!」――ッ!!」
一足飛びの要領で、目の前の男に一息で近づいて。
私はインベントリの中から取り出した出刃包丁で斬りつけ、蹴り飛ばす。
咄嗟に両腕で胴体を庇った男は、こちらを睨みつけつつ何やら懐から複数の紙を取り出した。
周囲のプレイヤー達もやっと動く気になったのか、こちらへと接近し始めているが……行動が遅い。
「1つ、君達に言うならさぁ……」
彼らに見せつけるように、私は包丁を持っていない方の腕を掲げ、それに喰らいついた。
瞬間、私の食人行為をトリガーにしている強化スキル達が起動する。
酷い味だ。しかしながら、私にとってはこの上ない甘美な味でもあった。
「コストってのは何でもいいんだぜ?」
「――殺すなッ!捕らえろッ!!」
私を捕らえるためか素手で近づいてくるプレイヤー達に対して、インベントリから新たにマグロ包丁を取り出し、双剣のように構えた。
……双剣の扱いだけなら近くでずっと見ていたからね。
普段から見ていたあの姿をうっすらと思い出しながら行動を開始した。
一番近くまで近づいてきていたプレイヤーの身体にタックルするように突っ込み、身体を密着させ、足を引っかけ仰向けに倒れさせその胸にマグロ包丁を突き立てた。
急所に攻撃されたからか、急速にHPが減っていき最終的に光となって消えていく。
少しだけ突き立てた時の感触に違和感があったものの、気にせずにそのまま周りを相手にしていく。
インベントリ内から大量にナイトゾンビの腕を取り出し、それらを使い【フードレイン】を発動させつつ、通話のミュートを解除した。
『――ッと!CNVL!?聞こえてた!?』
「あはッ、ごめんねぇ。でも聞こえてたろう?そういうことらしいぜ?」
『伝えたいことは分かったけれど、事前にそういうことをするって伝えて頂戴。こっちじゃマギが混乱中よ』
「ごめんごめん、ちょっとそういうの送れる状況じゃなくてね。あぁ、捕まる前に自殺するから気にしないで。じゃ、そっちは頑張って」
そう言って、通話を一方的に切る。
ここからが私の区画順位戦の踏ん張りどころだ。
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