Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第三章 オンリー・ユー 君だけを

Episode 1

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■【加工師】

そろそろ気付きました?
別に喋りたくないわけじゃあないんです。ただ面倒なんです。
話して注目されるのがめんどくさい。
めんどくさいものをやりたくない。

言ってしまえば、喋るのは好きなんです。
それこそ、1対1なら別に喋れますよ。えぇ。
それでも声を出さないのは、面倒だから……。
だって、テキストで全部伝わるじゃないですか。
それでいいじゃないですか。

何がそんなに不満なんですか。
これは私の性格で。私の性根で。そんな私だからこそ、貴女のような人に憧れて。
嫉んで。羨んで。望んで。
そして泣きたくなって。

貴女は全てを奪おうとする。
全て、自分のモノにしようと、自分で気付かずにする。
それが強欲と言わずなんと呼ぶのでしょう。


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■鷲谷 香蓮

最近の生活は、対外的にみると社会不適合者のそれだ。
起きて、顔を洗ってご飯を食べて。そのままVRの世界へと落ちていく。
そんな生活を続けていたからだろうか。

「……太った……」

身体的には結局の所ほぼ動いていない生活をしているのだ。当然だろう。
運動をしなければ、そう決意した瞬間に自分の使っている携帯端末がポーンという音を発した。
SNSでメッセージを受信した時の音、だっただろうか。
あまり私の使っているSNSアプリで個人宛にメッセージが来ることはないため、そのあたりの設定されているものについての知識が乏しいものとなっていた。

手に取ってみれば、宛名は『遠野 葵』。
最近ゲーム内でよく行動を共にしているプレイヤーの1人だ。
内容を見てみれば、ゲーム内FiCから送られたものらしく。
彼女に預けていたハサミ……【HL・スニッパー】の強化が終わったとのこと。

彼女には、私が以前優勝した決闘イベントの入賞賞品で手に入れた素材の何割かを渡しているために、彼女自身初見のモノだったりして強化にいつもよりも時間が掛かってしまったらしい。
ちなみに、他にもメアリーに同じように素材を渡して防具を作ってもらっているため、近いうちに私の装備は全体的に新調されるだろう。

とりあえずすぐに向かう旨のメッセージを送り、すぐに私は慣れた手つきでヘルメット型のVR機器を被り。
私の意識はスゥと抜けて、ゲームの世界へと旅立っていく。
最近、やっとこの感覚に慣れてきた。



--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第二階層
■【偽善者A】ハロウ

ゲーム内にログインし、すぐに集合場所である第二階層のキングス工房という場所へとたどり着いた。
工房の親方らしきNPCに挨拶をした後に、奥で作業していると思われるCNVLの所まで通してもらう。
途中、珍しい事に唸りながら何かを作っていたメアリーが居たが、邪魔しても悪いと思いそのまま声をかけずにそっとしておいた。

「CNVL」
「ん?あぁ、ハロウか。予想よりも早いね。とりあえず書いた通りハサミの強化が終わったよ」

奥に進んでいくと、何かまだ作業をしていたCNVLの姿があったため、声をかける。
彼女も彼女で、やっていた作業はいつでも中断できるものだったのか、すぐにこちらへと向き直りトレード画面を呼び出して、

「とりあえず今回のお代はゾンビの腕とかで」
「了解。それ以外は?」
「んー、良いかな。とりあえず最低限の在庫が欲しいからね。ほら、【決闘者の墓場】で使っちゃったから結構キツキツなんだ」
「成程ね、じゃあ多めにしとくわ」
「おや、それはありがたいね」

強化された【HL・スニッパー】と、ナイトゾンビに始まるゾンビ系の腕や肉片などのアイテムを交換した。
正直私が持っていてもそこまで意味のあるものではないし、それならば必要としている相手に渡る方がいいだろうという考えだ。
……私にとっての価値はほぼ0に等しいものだし。

「じゃあちょっと確認したいのだけど……」
「あぁ、それだったらここの工房に試し切り用の広場っぽいのがあるから、そこ使えばいいよ。的として案山子みたいのがあるんだけど、それ壊しても時間経過で復活するしね」
「あら、丁度いいわね。じゃあ行ってくるわ」

いってらっしゃーい、と手を振るCNVLを背に私は教えてもらった広場へと出た。
そして強化された【HL・スニッパー】を取り出す。

大きさ自体は変わらずに、刃の部分などが変わっている。
前まではナイフも使うという事で、こちらは主に打撃用……叩きつけたり挟み潰したりという事に特化させていたのだが、今回の強化で挟み切れるように出来るようにしてもらった。
最近ナイフよりもこちらの方がよく使っているというのも理由の1つ。
そして、

「おぉー!素晴らしい仕事だわ!」

ガキンという音と共に、私の手に持つ【HL・スニッパー】の刃は2つに別れ双剣のようになった。
これが今回メインで頼んでいた強化内容……いや、改修と言った方がいいだろうか。
どこかの針金細工のような殺人鬼ではないが、それでも大きなハサミと言ったらこのギミックは必要だろうということでCNVLに無理を言って付けてもらったのだ。

――――――――――
【HL・スニッパー改】 武器:大鋏
装備可能レベル:8
制作者:CNVL
効果:人型敵性モブに対し+4%のダメージ補正
   鉄製品に対し破壊確率上昇
   分裂機能
説明:人革、人骨があしらわれた冒涜的な鋏
   見た目以上に重いため取り回しには慣れが必要
   特殊な機構を取り付けることによって、双剣のように刃を別れさせて使う事が可能になった
――――――――――

表に出ているダメージ補正にはあまり変わりはないものの、これだけでもかなり攻撃面で強化された。
双剣となった場合の効果などは見れていないものの、ダメージ量的に大体ハサミ状態の半分くらいの性能にはなっているだろう。
手数が稼げる双剣でそれならば、かなり良いものとして仕上がっている。
CNVLには感謝で頭が上がらないな、と思いながら私は双剣を使って適当に的を斬りつけていく。

左、右、下から、上から。
身体を回転させるように、突き出すように。
元々が重いためか、双剣の重さに身体が引っ張られそうになるものの。
それでも割と様になっているのではないだろうか、と自分自身は思うくらいには扱えた。
あとは実戦でどうなるかを確かめ、そこで使い方を詰めていけばいいだろう。

「ふーん……もしかして貴女、双剣使うの初めて?」
「うぇ!?……ってあぁ、酔鴉さんじゃないですか。なんでここに?一応第二階層とは言えデンスですよ?」
「あら、随分な台詞じゃない。単純に私は迷っただけよ、第二階層広いから分からないのよね……。で、どうなの?双剣」
「あー、まぁ、ここFiC以外で扱ったことはないですね」

突然声を掛けられ、そちらへと向いてみれば。
赤色のチャイナ服を着た酔鴉がそこには立っていた。
いつの間に、とは思うものの。聞けば少しばかりは双剣の心得くらいはあるらしく。
どうせなら実戦形式で訓練した方がいいだろうとのことで、そこらへんの広場で訓練という名の決闘を行うことになった。

「まぁ、あんまり期待はしないでね。私も知り合いに聞いた程度だから」
「いいですよ、それだけでも勉強になることだってあるでしょうし」

彼女に気付かれないように、探しているであろう保護者禍羅魔にメッセージを送っておきつつ。
2人で工房から出ようとすれば、話を聞いていたのかニヤケ顔でCNVLがついてきた。
単純に面白そうだからという理由だけでついてきているのだろう、途中まだ唸っていたメアリーを米俵でも担ぐようにそのまま運び。決闘を行う広場で一番見やすい位置にあるベンチを陣取っていた。

「ルールは?」
「えーっと、HPが1になった方が負けっていうのと、攻撃に1度でも当たったら負け、HP全損の3つがありますね。どうします?」
「じゃあHP1で行きましょう。他2つだと色々問題ありそうだし」
「分かりました……じゃあ、やりましょうか!」

ルールを設定し、酔鴉から距離を少し取って武器を構える。
双剣の正しい構え方なんて知らないものの、適当に刃同士を自身の前でクロスさせるように。
彼女も無手で、どこかの拳法の構えなのか様になっているそれを私に見せつつ。
決闘の開始の合図を待った。

-Ready……-

静寂。
息を吸う音だけが聞こえ。

-Start!!!-

その文字が見えた瞬間に、お互い地を蹴り距離を詰めようと駆けだした。
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