Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 16

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--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第二階層
■【食人鬼A】CNVL

工房を出た後。
自身が作った短剣を適当に手の中で弄びながら歩いていると。

「あれ?先輩じゃないですか」
「ん?……あぁ、なんだマギくんか。君も散策かい?」
「えぇ、まぁ。新コンテンツ確認もしつつですね」

後ろから話しかけられ振り返れば、後輩がいた。
いつの間にか魔法使いが被るような帽子を頭にのせ、黒いローブを身に纏っているために正直【薬剤師】と言われても首を傾げるしかないだろう。
私の手の中にある短剣に視線を向けながら、彼は「暇なんで同行しても?」と聞いてきたため了承する。
どうせこちらも暇なのだ。道連れが増えるならばそれに越したことはない。

「それどうしたんです?メアリーさんに貰ったんですか?」
「ほら、そこらに工房があるだろう?そこで作らせてもらったんだ。私が」
「ほう……?生産系の新コンテンツかな……後で調べてみます」

他愛のない会話をしながら、どこか適当に座ることの出来る店……できれば喫茶店のような場所を探し第二階層を歩いていく。
今日一日で色々なものを見た。
街並みに始まり、闘技場、寄声をあげるハロウに、工房で真剣に鍛冶をするメアリー。
暇ながらも、中々充実していた日だったとは思う。

正直、このゲームをやり始めてからほぼずっと戦闘しかしてこなかった私ではあるものの。
何処かこうやって平和な時を過ごしたいと思っていた所もあったのだろう。
暇とは言ったが、その暇が心地よかった。

「あ、先輩。あそこ喫茶店っぽいですよ……ってどうしたんです?その顔」
「ん?何か変なことになってるかい?いやだなマギくん。女性の顔に変だなんて言うもんじゃないぜ?失礼だろう」
「まだ何も言ってないですよ。というかそうじゃなくて、なんか嬉しそうだったんで。そんなに喫茶店に行きたかったんです?」
「あー……」

自分の顔を手で触り。
顔が緩んでいるのを確認した。

「……いや、うん。そうなんだよ。実は第二階層に来てから歩きっぱなしの動きっぱなしでねぇ。途中ハロウ相手にスキル込みの全力ダッシュなんかもしたから意外と疲れてるのかもしれない」
「疲れてるってよりは――」
「――さぁ、行こうぜ!喫茶店!」

目の前の後輩が面倒な事を言う前に、私はその手を引いて彼が見つけてくれた喫茶店へと駆けだした。
恐らくは今日のような日は、また遠く……それこそまだ見ぬ第三階層などが実装されない限りは来ないのだろう。
それならば、私は私で今を楽しむしかない。



紅茶に口をつけ、口の中の雑味を奥へ流し込んでいく。
お茶請けとして用意されたクッキーは何処かの誰かの物には敵わないものの、それでも店で出されるようなものだ。甘さ控えめで食べやすいものだった。

店の中は割と簡素に出来ていて、暗めの色合いと合わさって落ち着いたもののように見える。
店内に流れているジャズ風のBGMも相まって、ここで何かしらの事務系の作業をすれば捗りそうだなという印象を受けた。

「うーん、いいね。第二階層」
「そうですね、こういう雰囲気のお店は上にはなかったですし……」
「こんな店が多いなら、私はこっちに入り浸るなぁ」

そんな会話をしつつ。
私もマギも、これからの事について話し合う。
といっても、直近に開催されるであろうイベントの事がメインにはなるのだが。

マギは逐一確認しているらしく、つい先ほど更新されたと言ってゲーム内ホームページを開き見せてくれた。
そこには『次の舞台は廃墟と化した街!?ハロウィンナイトをお楽しみに!~近日開催~』という文字と共に、デフォルメされたカボチャや蝙蝠が描かれていた。

「ハロウィンねぇ……少し早くないかい?」
「まぁ、8月にやるのは流石に早いでしょうね。9月に入ってから開催なら……まぁ、それでも早いですけど」
「まぁねぇ……あぁ、確かハロウィンって秋の収穫を祝いつつ、悪霊とかを追い出すアグレッシブなお祭りだったっけ?」
「意味合いとしては合ってますけど、それ前に僕が教えた奴ですよね?」
「あは、まぁこういった雑学的な知識ってのは君由来のモノが多いからねぇ」

ハロウィンに関係する話を教えてもらった時の事をうっすらと思い返しつつ。
今出ている情報だけでイベントの予想を立てていく事にする。
といっても、たかが一般プレイヤー2人の考え、妄想だ。
それが現実になることを祈るというよりも、そうなったらいいなと七夕に願うようなもので。
そこまで本気でもない。

「殲滅っていうか、モブと沢山戦うっていうのは前回やりましたしまた少し違うものになるんじゃないですかね」
「ふーむ……私としては大量に出てくれてもいいんだけどねぇ……どんなのが来ると思うんだい?」
「それこそ……MMOにはありがちの、レイドボスとかじゃないです?」
「レイド……あぁ、大人数向けのボスだっけ?」
「そうですそうです」

レイドボス。
聞き馴染みのない言葉だが、何度か掲示板などで見かけたことのある単語だ。
曰く、大人数での戦闘を想定され作られたボスである、と。
曰く、そのHPは膨大で一筋縄ではいかない、と。
曰く、ソロでレイドボスを討伐しようとする者は頭がおかしい廃人だ、と。

攻略サイトや掲示板でしか現状見たことのない単語だったために、いまいちパッとイメージできない。
実際困ったような顔をしていたのか、それを見たマギがイメージしやすいように具体例を出してくれた。

「ほら、僕たちが戦ったシェイクスピアって居たじゃないですか」
「居たねぇ。アレは一応パーティ単位でのコンテンツなんだろう?」
「そうですね。アレをもっと強くHPを多く……簡単に言えば、完全体を巨大化させて街中に出現させたものがレイドボス、みたいなものです」
「……大惨事にならないかい?」
「まぁ、実際にレイドボスとの勝敗によっては街やそれに類するものが消えるMMOもありましたし。日本には……なかったかな……」

頭の中に浮かぶのは、某特撮の怪獣。
恐らくはあれらを民間人のみで倒すようなものがレイドボスといった形のものなのだろう。
実際にどうかはわからないが、そうなってくると色々と問題も起きそうなものだが。

「まぁ、事実問題は起きますよ。それこそ自分の手の内を隠したがる人は居ますし……このゲームだったら、系統とか【犯罪者】を隠すために色々しそうな人は何人かいますね」
「怖いねぇ。私はそんな隠す必要なさそうだけど」
「そりゃ先輩の【食人鬼】なんか、まともな味覚してる人は取りたいとは思いませんよ。……まぁ、居ないとは言いませんけど」
「あは、どうなるかなぁ。私も世襲戦とか受けることになったりするかもねぇ。今から楽しみだぜ」

その後も他愛無い話をした後に、喫茶店を後にする。
2人で適当に歩いた結果、第二階層にはダンジョンが2つ存在することが分かったが……それに挑むのはまた後日。
今日はこのままログアウトして休むことにした。



そして、一週間。
8月末になるある日、ホームページは更新された。
イベントが再びやってくる。
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