Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

文字の大きさ
上 下
3 / 192
第一章 ハジメマシテ、【犯罪者】

Episode 3

しおりを挟む

--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 1F
■【リッパー A】ハロウ

「あっ、そっち行ったよハロウ!」
「こっちに来られても困るんだけどもっ!」

私はこちらへと飛んできた本のモンスター……フリューブックに向けてナイフを振るうが、努力むなしく空を切る。
タイミングが合わない、というわけではなく。
フリューブック側が、こちらの動きを見てひらりひらりと避けてしまう所為だ。

私もCNVLも持っている武器はお世辞にも対空性能が高いとは言えない。
もしかしたらレベルが上がればそれぞれ対空用のスキルが生えるのかもしれないが……今は関係のない話。
私よりも少しはこのゲームに詳しいCNVLに聞けば、
『対空アイテムなら【ゲイン私ら】くらいじゃない?手段ならやっぱりスキルだろうけど』
とのこと。

つまりは、そんなスキルが生えるか材料を集めて対空アイテムをCNVLに作ってもらうくらいしか方法がないのだ。
おそらくは他にスキルを覚える方法なんかも有るのだろうが、そういうものは見た範囲では発見できなかったため……まだ行っていない区画にあるのかもしれない。

「よしっ!当たった!」

そんなことを考えていると、CNVLの声が上がる。
見れば、彼女の近くには切られて落ちたのであろうフリューブックが1冊……1体?ジタバタと暴れていた。

素早く駆け寄り何度か手に持つナイフで切りつけると、HPバーが底を尽き光となって消えていく。
意外とあっけないが、そもそも序盤も序盤。
ゲーム開始後すぐに入れるようなダンジョンのモンスターだ。こんなものだろう。

「ドロップアイテムはログに表示される形式ね」
「そうそう。……あは、破れた頁が2枚かな。うん、まだ何に使えばいいのかさっぱりだ」

フリューブックのドロップは破れた項というアイテムだった。
撃破後そのままインベントリに入る都合上、実物自体は見れていないが、表示されているアイコンからすると、単純に破れたページみたいなアイテムなのだろう。

集めたら本になったりするのだろうか。

その後、数十分ほど奥へと進んで行くと次の階層へ移る階段を発見する事ができた。
ここまでに出会った敵性モブは合計三種類。
まず私達が苦戦を強いられている空飛ぶ本、フリューブック。
それに加え、道中に倒れていた死体が突然動き出し襲い掛かってきたアクターゾンビ。
最後に、フリューブックが複数集まり合体し人型を形成したブックゴーレムだ。

ドロップとしては、アクターゾンビからは腐った肉片、たまに鉄の欠片というアイテム作成スキルさえあれば加工できそうなアイテムが。
ブック系からは変わらず破れた頁のみが手に入った。
破れた頁だけでも軽く十は超える量が取れたため、後でCNVLに頼んで本か何かに加工してもらった方がいいだろう。

「よし、一旦休憩しようか」
「そうしましょう。レベルも上がったし、そっちはそっちで何かしら新しく作れるんじゃない?」
「あは、そうだね。ゾンビとゴーレムから【人革】も落ちたし、ちょっと作ってみることにするよ。あとスキルも新しく覚えたしそっちの調子も確かめたいしね」

パーティ人数が二人だからだろうか。私達のレベルは1から3まで上がり、新しいスキルも覚えていた。
私は破れた頁をCNVLに渡し、適当なアイテムを作ってもらうよう頼んだ後、覚えたスキルを確認する。

――――――――――
【シャープエッジ】
任意の装備している刃がついたアイテムのATKを強化する。
系統レベルによって強化数値が変動する。
――――――――――

これが私の覚えた新しいスキル。
恐らく私の【リッパー】の成長系統がAttackだからこそ覚えたスキルだろう。
効果としては単純に火力アップ系で、例えるならゲームでよくある付与エンチャントに似ているだろうか。
詳しく検証していないため分からないが、恐らく固定値でダメージが増える形式のスキルだろう。
説明にもある通り、系統レベルさえ上げていけば便利なスキルになる気がする。

「うし、完成。ハロウの分はこれね」
「ん、ありがとう。……これは、革の手帳?」
「そうそう。【人革】と破れた頁を使って作った【人革のヒューマ・手帳ノートブック】。効果としては魔法ダメージアップに精神汚染耐性だって。いやぁ、そういうのもあるんだねこのゲーム」
「……地味に耐性付きの装備品。序盤じゃ結構貴重ね」

一応、装備する前にどういった効果を持つのか確かめておく。

―――――――――――
【人革の手帳】 装飾品
装備可能レベル:1
制作者:CNVL
効果:装備すると、魔法ダメージに2%のボーナス
   精神汚染耐性:小

説明:人革で作れた手帳
   あぁ、なんて冒涜的な道具なんだ!
――――――――――

「ねぇ、これ……」
「あは、冒涜的だって。そりゃ当然だよね、【人革】使ってるんだ。これが冒涜的じゃなかったらなんだっていうのさ」

制作者本人が分かってるなら、まぁいいだろう。
ステータス画面から【人革の手帳】を装備する。

装飾品の装備欄は全身で合計10も空いていて、どこに装備するかは個人の好みによって変えることが可能となっている。
腰からぶら下がるような形で設定すると、先ほどまでは存在しなかった紐がどこかからか出現し、囚人服の腰辺りで留めてくれた。

「おぉ、結構お洒落じゃん」
「囚人服だけどね」
「……早めに何か服とか装備買うか作るかしないとなぁ」

ちなみにCNVLが手に入れた新しいスキルは【人骨加工】という、彼女に言わせればらしい・・・スキルとのこと。
効果としては、人型範疇の敵性モブなどから【人革】以外にも【人骨】が大中小のサイズでランダムにドロップするようになる……らしい。何故【人骨】がドロップすることがらしい・・・のかは分からないがそういう事なのだろう。

休憩もそこそこに、私達は次の階層へ移動をした。


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 2F
視界の隅にフェードインしてきた文字を確認しながら、周囲を見渡す。
大体がほぼほぼ第1階層と似たようなものだったが、大きく変わっている点が1つ。

「全体的に廃墟っぽくなってる?」

所々床が崩れていたり、壁に罅が入っていたりもする。
極めつけは、そこらに倒れている人間の死体から蔦のような植物が生えている所だろうか。
階層が上がるにつれ何かしら変わるとは考えていたが、ここまで分かりやすく変わっていると少し進むかどうか迷ってしまう。
隣にいるCNVLもそう思ったのか、こちらを見て、

「どうする?」

そう聞いてきた。
こういったゲームの経験が少ないからだろう。経験者の判断に委ねるといったところか。
少しだけ考え、リアルの時間も確認する。

「とりあえず、このまま進んでモンスターの強さだけでも確認しましょうか」
「了解。そろそろ後輩も来るだろうしそこらで解散だね……あ、よかったら一緒に来てもいいけど?」
「それは流石にやめておくわ、悪いもの」
「そうかい?ならまた今度だ」


そんなことを話ながら、奥へと進んで行くこと数分。
1Fで出てきた3種のモンスターと共に、もう1種のモンスターが出現した。
見た目はほぼアクターゾンビと変わらないものの、まるで戦士のように長剣と盾を装備していた。
名前はソルジャーゾンビ。そのままだ。

「よっ、ほっ!」

CNVLが攻撃をせず、ソルジャーゾンビの攻撃を一方的に避け続ける。
無駄なHPの減少をしないよう、大きく避けてはいるが時々剣が当たりそうになっているため、僅かに焦る。
が、焦るだけだ。
私は大きく剣を振るったソルジャーゾンビの背後へと移動し、そのうなじへとナイフを押し込みグリッと回す。

「結構避けるの楽しく……ってあぁ!!」

モンスターにも急所判定があるのか、それともソルジャーゾンビが人型範疇のモンスターだからかは分からないが、ナイフを押し込みまわした瞬間HPが一気に減り、その身体を光へと変えていった。
戦闘終了だ。

「ふぅ……少し苦戦する程度ね。硬すぎるわけでも、軟すぎるわけでもない。反応速度もゾンビだからと言って遅すぎるわけじゃないし……戦闘に慣れるならこの階層の方がいいかも」
「……ドロップアイテムはあんまり変わらないみたい。でも鉄の欠片が出てるから、もしかしたらソルジャーの方がメインでドロップするアイテムかも?」
「剣とか持ってたしありえなくはないわねぇ」

戦闘能力はそこまで高くはないが……直剣を使い攻撃をしてくるために、下手したら首や急所にあたる場所に当たってしまった場合即死も見えてくる。
1Fの時のように、適当にあしらいながら進むというのもダメだろう。
最悪、フリューブックを相手している時に後ろから不意打ちを受け、そのままデスペナルティ行きもあり得る。

「単純に既存モンスターの強化系かな」
「ゾンビでこうなるって、他の2種はどうなるのかしらね?ブック系は厄介そう……」
「あは、ブック系の強化によってはゴーレムも厄介になりそうだ」

そんな話をしながら、1Fへと戻る階段の前まで戻ってくる。
一度解散するために外へと出るためだ。
確認すると、一種のテレポーターとなっているのか上へと上がる階段に近づいた瞬間、どこに移動するかの案内が出現した。

――――――――――
<どこに移動しますか?>
 ▼出口
  1F
  2F
――――――――――

2Fが灰色で表示されていることから、同じ階層に移動することはできないのだろう。

「いやー楽しかった楽しかった」
「私も楽しかったわ、ありがとう。またPT組んでくれる?」
「勿論、大丈夫!次は後輩もつれていくから楽しみにしておいてくれ」
「それは楽しみね。ではまた」
「バイバーイ!」

私は案内の出口を選択し、そのまま光に包まれる。
次の瞬間、光が晴れると共に私の視界には入る前とあまり変わらない軽いお祭りのようになっている光景が広がった。
こうして、このゲームにおける初めての冒険が終わった。
……先ほど別れたCNVLが隣にいたため、締まらない終わりではあったが。


――――――――――
PLName:ハロウ Level:3
【犯罪者】:【リッパ―A】
所属区画:なし

・所持スキル
【切裂衝動】、【シャープエッジ】

・装備品
【使用済みナイフ】、平凡な囚人服【上】、平凡な囚人服【下】、【人革の手帳】

・称号
なし
――――――――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トロイメア・オンライン! 〜ブラコンでロリ巨乳の私は、クソザコステータス『HP極振り』と残念魔法『自爆魔法』で、最強で快眠な女子になります〜

早見羽流
SF
不眠症治療のための医療用VRデバイス『トロイメギア』を病院で処方された女子高生――小見心凪。 彼女が『トロイメギア』でプレイするのはサービス開始したばかりのフルダイブ型VRMMOの『トロイメア・オンライン』だった! よく分からずとりあえずキャラエディットで胸を盛ってしまった心凪。 無自覚のうちで編み出した戦法は、脱衣からの自爆魔法という誰も見向きもしなかったかつ凶悪千万なもの! 見た目はロリっ子、中身はハイテンションJKの心凪が、今日も元気に敵と仲間を巻き込みながら自爆するよ! 迷惑極まりないね! 心凪は果たして自爆魔法で最強になれるのか! そして不眠症は治るの? そんなに全裸になって大丈夫なの!? 超弩級のスピード感と爽快感で読者のストレスをも吹き飛ばす。ちょいエロなVRバトルコメディー! ※表紙、挿絵はリック様(Twitter→@Licloud28)に描いていただきました。

赤ずきんは童話の世界で今日も征く

柿の種
SF
「Fantasia Online」 ・童話の登場人物たちがNPCで存在します。 ・彼らと冒険ができ、仲を深めることもできます。 ・童話の悪役と出会うこともあるでしょう。彼らを撃退し、色々な報酬を受け取りましょう。 ・童話の登場人物たちと力を合わせることで、戦術は無限大に広がるでしょう。 >>プレイヤーは力のない一般人です<< これは、そんなゲームを遊ぶ1人のプレイヤーの物語。 同じ名前の者たちと助け合い、時に喧嘩しつつも。互いの目標へと歩いていく物語。 彼女は、ここで何を成すのか。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

ネオ・アース・テラフォーミング〜MRMMOで釣り好きドワーフの生産奮闘記〜

コアラ太
SF
世界会議で、MR(複合現実)技術を使って、人間が住める惑星を開発する企画が立つ。それに歓喜した頭のおかしい研究・開発者達がこぞって参加し、『Neo Earth Terraforming』という1つのゲームを作り上げた。空気や土壌を最適化する機体を送り込み、ファンタジー世界を投影したRPGをプレイすることにより、自動で浄化してくれる。 世界が待望したゲームを釣り好き男がプレイする。「新種の魚がいると聞いて。」 【火木土】更新。たまに日曜日に追加更新します。 『カクヨム』にも重複投稿しています。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

アルケミア・オンライン

メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。 『錬金術を携えて強敵に挑め!』 ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。 宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す世界の真相とは────? これは、1人の少年が仲間を巻き込みながら、抑圧された感情という魔物と向き合っていく物語。

呪いでお嬢様と結ばれるのは本当の縛りプレイなのか? ~VRMMO『Real Role Online』がリアルすぎる~

夜野半月(よるのはんげつ)
SF
ゲーム開始早々、出会ったお嬢様風の少女と共に「お互いの物理的距離が一定以上離れられない」スキルを取得し、文字通りの「縛りプレイ」を強要されてしまう! VRMMOの世界で、この呪いのスキルを解くため(そして少女にまつわるクエストを完了させるため)、出会った仲間達との冒険が始まる。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています

処理中です...