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第31話 月の涙の実力
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「……速い」
戦い始めた魔人ベンが感じたルナティアの戦いにおける第一印象がそれだった。
ルナティアの凄さはそれだけではなかった。
速い上に、剣の動きは流れる様に綺麗で正確無比、それに加えあの細腕から放たれたものとは思えないほどの力強い剣戟。
普段ルナティアがどんな武器を使っているかは知らないベンだったが、ルナティアはそんなことを一切感じさせないほどに魔王軍兵士の剣を見事に使いこなしていた。
「なんだ、こいつ! つええぞ!」
ベンと同じくすぐにそれを感じ取った盗賊達は危機感迫る声で警戒の声を上げるが、そんな声も虚しく次々と盗賊達はルナティアの剣を前に沈んでいった。
ベンも目の前の敵相手に集中するが、ルナティアのようにはいかない。
3人いた時よりも1人で相手をする人数が増えたので当然と言えば当然の結果だったが、それでも盗賊達の攻撃を防ぐだけならばそう難しくはなかった。
少ししてベンが1人の盗賊も倒していないというのに、ルナティアの相手をしていた魔人は全て倒してしまった。
「おいおい、嘘だろう……」
ベンの相手をしていた盗賊達は驚愕の表情で呟いた声にルナティアは冷たい声で返した。
「ここに来て自信喪失気味だったけどアンタたちくらいなら訳なかったわね。良いリハビリになったわ。ありがとね」
「なんという……」
ベンも思わず驚きの声を上げると、ルナティアはベンの横に来て、剣を構えなおした。
「さっさと片づけちゃいましょう。ロジィ達が心配だわ」
「ありがとうございます。月の涙殿」
「舐めるなぁぁぁ」
既に終わった風に言うルナティアとベンを前に盗賊達は大きな雄たけびを上げながら戦いを挑んだが、どうしようもない戦力差を前に敗れるのにそこまで時間はかからなかったのだった。
全ての盗賊を倒し終えたベンとルナティアはジャンにやられた魔王軍兵士の前に2人膝をついていた。
「すまない、俺が不甲斐ないばかりに」
ベンは2人の同僚を前に自分の不甲斐なさを吐露する。
ベンがもう少し強ければ2人は死なずに済んだかもしれなかった。
全てはジャンと止める事ができなかったベンの責任だとベン自身は感じていた。
「ごめん、私がもう少し早く出て行っていれば……」
ルナティアはベンにそう謝りながらあの時の状況を思い返していた。
そうは言ったが本当にそうだっただろうか。
あの時、ルナティアが出て行って、この2人の魔人を助ける事ができただろうか?
下手とすればジャンを相手に全滅していた可能性もある。
だが、ルナティアは項垂れるベンを前にそう謝る事しかできなかったのだ。
そんな時、魔人の1人の身体が僅かに揺れた気がした。
ルナティアは気のせいかもしれないかと思いつつも、動いた魔人の身体に触れてみる。
「えっ?」
横で項垂れていたベンがルナティアに小さな声で言った。
「どうされましたか?」
「生きてる! 生きてるよ! この人!」
「えっ?」
ベンも恐る恐る2人の同僚の身体に触れてみる。
「あっ」
ベンにも確かに2人の身体の温もりを感じる事が出来た。
更に確認の為に首に指を当ててみると、確かに脈がある。
「どいて! ベン! ——ライト・ヒーリング!」
ルナティアは唯一覚えていた最下級の治癒魔法を2人の魔人に唱えると、今度は大きく2人の身体が揺れた。
「んん」
そして2人の魔人は朦朧としながらもなんとか意識を取り戻す。
「おいっ、大丈夫か!? ウォード! アズル!」
ベンが大きな声でウォードとアズルを呼びかけると、2人はそのままの態勢で返事を返した。
「痛っぅ……。べ、ベンか? スマンが体が動かん。あの後どうなった?」
「右に同じくぅ」
辛そうに話す2人にベンはジャンが去った後にルナティアの助太刀によって、盗賊を倒すことに成功したことを伝えると、2人は寝転がったままルナティアに礼を言う。
「それはありがとうございました。貴方は私たちの命の恩人です。今は身体が動かないのでアレですが、いつか必ず恩返しをさせていただきます」
兵士を代表してウォードと名乗る魔人がルナティアに感謝の意を伝える。
確かに体が動かないこの状況では恩返しは難しそうだが、それでもやれることはあるはずだ。
「いつも部隊間ではどのように連絡を取り合ってますか?」
「えーっと、俺達はあまり通信魔法が得意じゃないんで、通信魔法機器を使ってます。ちょうど横ポケットに入っているので、取ってもらえませんか? どうにも体がうごかないもんで。すいません」
ウォードの横ポケットを確認すると確かにそれらしい機器が入っている。
魔法通信が使えない者全員に配れるほど数が揃っていないのかアズルとベンのポケットには入っていないようだった。
ウォードのポケットから通信機器を取り出したルナティアはそれをウォードの顔付近まで持ってくるとウォードに言った。
「これ、ウォードさん今の状態で使える?」
「あ、はい、魔力を流し込めばいいだけなので大丈夫です」
連絡手段が利用可能な事を確認したルナティアは地面に這いつくばった状態のウォードに言った。
「本当に申し訳ないのだけど、ウォードさんはこのまま魔王軍に救援を呼んでもらえませんか?」
「月の涙殿はどうされるのですか?」
「この近くにある村が危ないと思うの。私たちはそこでシャドウアイを迎え撃とうと思います」
事態は急を要している。
今話している間にも、ロジィ達に危険が迫っているかもしれないのだから。
戦い始めた魔人ベンが感じたルナティアの戦いにおける第一印象がそれだった。
ルナティアの凄さはそれだけではなかった。
速い上に、剣の動きは流れる様に綺麗で正確無比、それに加えあの細腕から放たれたものとは思えないほどの力強い剣戟。
普段ルナティアがどんな武器を使っているかは知らないベンだったが、ルナティアはそんなことを一切感じさせないほどに魔王軍兵士の剣を見事に使いこなしていた。
「なんだ、こいつ! つええぞ!」
ベンと同じくすぐにそれを感じ取った盗賊達は危機感迫る声で警戒の声を上げるが、そんな声も虚しく次々と盗賊達はルナティアの剣を前に沈んでいった。
ベンも目の前の敵相手に集中するが、ルナティアのようにはいかない。
3人いた時よりも1人で相手をする人数が増えたので当然と言えば当然の結果だったが、それでも盗賊達の攻撃を防ぐだけならばそう難しくはなかった。
少ししてベンが1人の盗賊も倒していないというのに、ルナティアの相手をしていた魔人は全て倒してしまった。
「おいおい、嘘だろう……」
ベンの相手をしていた盗賊達は驚愕の表情で呟いた声にルナティアは冷たい声で返した。
「ここに来て自信喪失気味だったけどアンタたちくらいなら訳なかったわね。良いリハビリになったわ。ありがとね」
「なんという……」
ベンも思わず驚きの声を上げると、ルナティアはベンの横に来て、剣を構えなおした。
「さっさと片づけちゃいましょう。ロジィ達が心配だわ」
「ありがとうございます。月の涙殿」
「舐めるなぁぁぁ」
既に終わった風に言うルナティアとベンを前に盗賊達は大きな雄たけびを上げながら戦いを挑んだが、どうしようもない戦力差を前に敗れるのにそこまで時間はかからなかったのだった。
全ての盗賊を倒し終えたベンとルナティアはジャンにやられた魔王軍兵士の前に2人膝をついていた。
「すまない、俺が不甲斐ないばかりに」
ベンは2人の同僚を前に自分の不甲斐なさを吐露する。
ベンがもう少し強ければ2人は死なずに済んだかもしれなかった。
全てはジャンと止める事ができなかったベンの責任だとベン自身は感じていた。
「ごめん、私がもう少し早く出て行っていれば……」
ルナティアはベンにそう謝りながらあの時の状況を思い返していた。
そうは言ったが本当にそうだっただろうか。
あの時、ルナティアが出て行って、この2人の魔人を助ける事ができただろうか?
下手とすればジャンを相手に全滅していた可能性もある。
だが、ルナティアは項垂れるベンを前にそう謝る事しかできなかったのだ。
そんな時、魔人の1人の身体が僅かに揺れた気がした。
ルナティアは気のせいかもしれないかと思いつつも、動いた魔人の身体に触れてみる。
「えっ?」
横で項垂れていたベンがルナティアに小さな声で言った。
「どうされましたか?」
「生きてる! 生きてるよ! この人!」
「えっ?」
ベンも恐る恐る2人の同僚の身体に触れてみる。
「あっ」
ベンにも確かに2人の身体の温もりを感じる事が出来た。
更に確認の為に首に指を当ててみると、確かに脈がある。
「どいて! ベン! ——ライト・ヒーリング!」
ルナティアは唯一覚えていた最下級の治癒魔法を2人の魔人に唱えると、今度は大きく2人の身体が揺れた。
「んん」
そして2人の魔人は朦朧としながらもなんとか意識を取り戻す。
「おいっ、大丈夫か!? ウォード! アズル!」
ベンが大きな声でウォードとアズルを呼びかけると、2人はそのままの態勢で返事を返した。
「痛っぅ……。べ、ベンか? スマンが体が動かん。あの後どうなった?」
「右に同じくぅ」
辛そうに話す2人にベンはジャンが去った後にルナティアの助太刀によって、盗賊を倒すことに成功したことを伝えると、2人は寝転がったままルナティアに礼を言う。
「それはありがとうございました。貴方は私たちの命の恩人です。今は身体が動かないのでアレですが、いつか必ず恩返しをさせていただきます」
兵士を代表してウォードと名乗る魔人がルナティアに感謝の意を伝える。
確かに体が動かないこの状況では恩返しは難しそうだが、それでもやれることはあるはずだ。
「いつも部隊間ではどのように連絡を取り合ってますか?」
「えーっと、俺達はあまり通信魔法が得意じゃないんで、通信魔法機器を使ってます。ちょうど横ポケットに入っているので、取ってもらえませんか? どうにも体がうごかないもんで。すいません」
ウォードの横ポケットを確認すると確かにそれらしい機器が入っている。
魔法通信が使えない者全員に配れるほど数が揃っていないのかアズルとベンのポケットには入っていないようだった。
ウォードのポケットから通信機器を取り出したルナティアはそれをウォードの顔付近まで持ってくるとウォードに言った。
「これ、ウォードさん今の状態で使える?」
「あ、はい、魔力を流し込めばいいだけなので大丈夫です」
連絡手段が利用可能な事を確認したルナティアは地面に這いつくばった状態のウォードに言った。
「本当に申し訳ないのだけど、ウォードさんはこのまま魔王軍に救援を呼んでもらえませんか?」
「月の涙殿はどうされるのですか?」
「この近くにある村が危ないと思うの。私たちはそこでシャドウアイを迎え撃とうと思います」
事態は急を要している。
今話している間にも、ロジィ達に危険が迫っているかもしれないのだから。
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