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第30話 秘密の花柄エルフ仮面参上

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勢いで飛び出したルナティアに全ての魔人の視線が集中していた。


「なんだ、お前?」


怪訝そうな表情の盗賊がルナティアを見て思わずそう呟いた。

というのも突然飛び出してきたルナティアはロナからもらったパンを包んでいた花柄の風呂敷を頭から被せ、顎に結び付けるという魔人達から見れば可笑しな格好をしていたのだ。

本人的にはこの短時間でした精一杯の変装だったのだが、耳や髪などはほぼ隠れてはいるが顔はほぼ丸出しというなんともお粗末な変装となっていた。

魔人に問われ、ルナティアはまたも短い時間の間に頭をフル回転させ、返事を捻りだす。


「ふっはははは、秘密の花柄エルフ仮面『月の涙』とは私の事よ!」


色々と盛り込みすぎた感はあるがまぁ大丈夫だろう。

短時間でよく捻りだしたよ、私。

そう思いつつも、ルナティアは魔人達の反応を待っていると、魔人の一人が呆れた様子でこんなことを言いだした。


「いや、知らねぇし。つか仮面つけてねぇけど? 顔丸出しだぞ」


ごもっとも。勢いで適当に言っただけなのでそこまでは考えてはいなかった。

ルナティアもできれば顔は隠したかったが無いものはどうしようもない。


「よく気づいたわね! でも私の顔を見たからには生きては返さないわよ! それが組織の掟だから!」


自分から見せつけておいて魔人からしたら「なんだ? こいつ」状態だろうが、こういう場合勢いが大事なのだ。よく分からないがそうだろう。

それにこんな頭がおかしい女が魔王軍の魔人達が敬愛する魔王が探している嫁候補などとは思わないはずだ。多分。


「とぅ」


ルナティアはそう叫びつつ、空中に飛び上がった。

そして、クルクルと体を回転させつつ、盗賊達が囲っている魔王軍兵士の隣に見事着地したが。


(いっつぅぅぅ。ケガしてたの忘れてたわ)


ルナティアはケガの状態の確認の為、呆然と見ている盗賊達の前で屈伸した。


(よし、多分大丈夫)


ケガの状態を確認したルナティアはすぐ背後で盗賊達と同じく呆然とルナティアを見ていた魔王軍兵士に声をかけた。


「私が来たからにはもう安心よ。あなた、まだ戦える?」


「えっ、あっ、はい。貴方は?」


辛うじてルナティアが敵ではない事を察したのか魔王軍兵士の男がルナティアを誰何したが、自己紹介は先程既に済ませている。

とはいえ、このままでは設定的に弱いなと感じたルナティアはふとジャンの言葉を思い出していた。

「私は秘密結社シャドウアイに対抗するために作られた組織のエルフ戦闘員よ。シャドウアイからこの世界を守るため、あなた達を援護するわ!」

ちなみにルナティアはシャドウアイなんて秘密結社の名は聞いた事すらない。

だが、魔界ではそれなりに有名な組織なのだろう。知らないけど。

ルナティアが正義の味方風の設定を追加すると、魔王軍の兵士の男は「はぁ」と気のない返事を返した。

どうやらルナティアの世界観についていけてないらしいが、この際どうでもいい。

ルナティアがルナティアとバレないように変な設定モリモリでやるだけだ。

誤魔化す事最優先で行動していたルナティアだったが、ここで大変な事態に気づく。


「しまった、武器がないわ」


聖剣はシュトライゼンと魔王に捕まった時に没収されたままだった。

この場にいる魔人からしたらとんだ間抜けな正義の味方だが、ルナティアは悪くない。

全ては聖剣を没収したアイツが悪いのだから。

魔法だけでも戦えなくもないが、武器があるに越したことはない。

これから何が起きるかも分からないので魔力も温存したいという事情もある。

そんな事情を察したのか、魔王軍兵士の男が近くで倒れていた兵士の男の使っていた剣の柄を強めに踏み
込むと飛び上がった剣がクルクルと舞い上がり、兵士の男はその剣の柄を見事にキャッチした。


「これで大丈夫ですか?」


「ありがとう、兵士さん。これで私はまだまだ戦えるわ」


「ベンです、こちらこそよろしくお願いします。……月の涙殿」


「そう、ベンさん、こちらこそよろしくね。そちらの敵は任せるわ」


そうして、魔王軍兵士改め魔人ベンと秘密の花柄仮面エルフ月の涙による秘密結社シャドウアイ討伐戦の幕が開けたのだった。
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