上 下
13 / 33

第13話 人間界侵攻作戦の裏側

しおりを挟む
衝撃的事実にルナティアは完全に固まっていた。

嘘を吐くような内容でもないし、そんな事をしても魔王に何の得もない。

つまりはそういうことなのだろう。

魔王は言葉を失っているルナティアの手を取るが、ルナティアは衝撃のあまり普段であれば激しい突っ込みを入れる所のはずだが、その機を逸してしまう。


「あちらで休憩しよう。この辺りの景色が一望出来て、周りには花も咲き乱れている。母様のお気に入りだった場所だ」


「あ、うん」


そうして、ルナティアは魔王に手を引かれて花畑の一番高い丘になっている場所まで歩いていった。

傍から見れば完全に恋人同士にしか見えない光景だがルナティアは頭の整理に精一杯でその事には気づいていない。


(えっ、どういうこと? 母親が人間? つまり魔王は魔人と人間とのハーフ?)


世界最強の魔人である魔王が人間とのハーフなどということは思いもかけない話だった。

恐らく、人間界で話したとしても誰も信じられない話だろう。

何百年前の話かは知らないが、人間が魔人と交わった話などルナティアは聞いたことがなかった。

人間は魔人を忌み嫌っているし、魔人もまた人間を忌み嫌っている。

人間と魔人はどこまで行っても敵対者。

それが人間界における魔人の認識なのだ。

魔王はそんなルナティアの心境を知ってか知らずか花が咲いていない場所を選んでシートを引き始め、腰を下ろした。


「さぁルナティアも座ってくれ」


魔王に促されるまま、ルナティアが腰を下ろすと魔王はミーニャに預けられた花柄の弁当箱の包みを開いていく。


「さっきの話……」


「あぁ、母様の話か?」


「人間っていうのは本当なの?」


「本当だ」


魔王は弁当箱を広げ切ると、2つあるスプーンの内の1つをルナティアに手渡した。


「あ、ありがと」


「うむ」


ルナティアと魔王はミーニャお手製の弁当ともぐもぐとつまんでいく。


「母様は人間だったが、それを知るものは今となってはあまりいない。四天王内でも知っている者はシュトライゼンとグラガドだけだ」


それはそうだろう。

昨日の会議の時もそうだったが、人間に対する魔人の印象はあまり良くない。

絶対支配者である魔王の発言ですら人間界侵攻中止に異議を唱える者が約半数いたくらいだ。

言葉にしなくても反対していた者もいたことを考えれば実際はそれ以上だろう。

魔王の母親がその人間だったと知れば、魔王の魔界運営にかなりの支障をきたすことは考えるまでもない事だった。

それ以前に魔王が魔王になれたかも微妙な所かもしれない。

魔王がどのようにして魔王になったかルナティアは知らないが、その母親が人間だったとするなら反対する者は多くなり魔王となる事はかなり困難を極めたはずである。


「なんでそんな大事な事を私に話したの? ベラベラ話しちゃうかもしれないよ? 私」


いつもならここでニヤッと笑みを浮かべながら言う所だが、ルナティアの表情は真剣そのものだった。


「ルナティアには本当の事を話しておきたいと思ったからだ。……ということもあるが、もう一つルナティアに言っておきたいことがあるのだ」


ごくりとルナティアは息を呑んだ。

恐らく、今から魔王が話す話は人間界にとっても重要な話であり、それは人間界の存亡にも関わる事だとルナティアは直感で感じていた。


「実はな、前の会議で話されていた人間界侵攻作戦だが、あの作戦には俺も賛成していたのだ。……表面上はな」


「どういうこと?」


「母様の事もあって、俺も人間界侵攻などしたくはなかったのだが、魔王という立場がそれを許さなかった。仮に俺が反対して人間界侵攻作戦が無くなったとしても、あの作戦に賛同する者が大多数だった」


 「つまり……内乱が起きたかもしれないってこと?」


 「その可能性も高かったが、俺が本当に恐れたのは俺の命令を無視して人間界に勝手に進行する者達が出る事だ。内乱は俺の力を持ってすれば鎮める事も可能だが、人間界の侵攻の全てを阻止するのはとてもではないが不可能だ。俺が賛成しようが反対しようが、どのみち人間界は戦火に見舞われただろう。それほどまでに魔人の人間に対する感情は悪い」


 仮に魔人と人間の立場が逆だったとしてもそうだっただろうとルナティアは思った。

 仮に人間界が魔界の勢力を圧倒している状態で魔界侵攻作戦が立案されたとする。

 そんな状態で大国の王でも誰でもいいが、人間界の権力者がそれに反対したとしても待っているのはその権力者の暗殺だろう。

 仮に暗殺や反乱がなかったとしても、魔界侵攻を止めるのは難しいし、止められたとしても勝手に魔界に侵攻する者は多く出る事だろう。

つまり、魔王が言いたいのはそういうことだ。


「だから俺は人間界侵攻作戦に表面上は賛同し、裏から人間界侵攻作戦の進行をできる限り遅らせるように手を回していたが、それにも限界があった。そして、人間界侵攻作戦決行される直前だった3日前に——ルナティアに出会ったのだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...