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第9話 魔界の掟

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少し時間が経ち、少し落ち着くのは見計らってから魔王は話を切り出した。


「皆が言いたいことも分かるが、人間界侵攻作戦中止は決定事項だ。ルナティアの故郷に手出ししようという者がいるなら今、名乗り出ろ。我に勝てたならルナティアの事は諦めよう」


魔王が会議場に犇き合う魔人達に向けてそう言った。

異議があるもないもない。

仮にここで出て行ったとしても魔王に勝てる者など皆無だろう。

魔人の中で最強の者こそ魔王なのだから。

もしかしたらシュトライゼンあたりならいい勝負ができるかもしれないが、そもそもシュトライゼンは魔王に忠誠を誓っているようだしそもそも異議を唱えるわけがない。

当然、異議を唱える者も前に出る者も出てこなかった。

ゴリ押し感が凄いが、それも魔界の掟なのだろうとルナティアは無意識に納得してしまった。


「よし、では決まりだ。続いて挙式についてだが——」


ちょ、まっ!


ルナティアがどもって異議を唱える前にグラガドが魔王の言葉に口を挟む。


「恐れながら魔王様、娘から聞いた話ではルナティア様と魔王様はまだ出会ってからまだ日が浅いご様子。それはまだ気が早いのではありませんかな? もう少しじっくりとご交際を重ねてからがよろしいのでは?」


(よし! ミーニャパパ! ナイス! でもまだ交際してないし、これからもしないけどね!)


そんなルナティアの心の声を知りもしないであろう魔王は「ふむ」と何か納得した風に頷いた。


「それもそうだな、グラガド。お前がそういうのならばそうなのだろう。ルナティアの事はこれからとして——」


その後、魔王は人間界に対する対応について議場にいる魔人達に説明を始めた。

人間界近くに陣を引いている部隊を全て引き上げる事。

許可なく人間界に踏み入らない事。

人間界に侵入してきた人間は追い返すにとどめ、絶対に危害を加えない事。

などなどだ。

最後のは少しやりすぎかとも思ったが、もし追い返すのが不可能な相手が出てきた場合は撤退し、その相手には四天王が対応するという事で決まった。


(まぁシュトライゼンが出てきて逃げ出さないやつなんて今の人間界にはいないよね)


勇者であるルナティア自身がそうだったのだ。

余程の馬鹿ではない限り逃げ出すだろう。

ルナティア自身が体験した通り今の人間界と魔界では力に差がありすぎる。

数で勝る人間もあの理不尽な暴力を前には成す術もないだろう。


(それにしても、変な展開になってきたわね……。あー、人間界に帰りたい)


ルナティアの最初の思惑とは外れる形ではあったが、結果的に人間界を救っていた。


それほどまでに現在の人間界と魔界の戦力には隔絶した差があった。

そう、まだこの時は——。

そして、この日の議会は解散となったのだった。
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