212 / 255
第4章 魔界編
第212話 ユリウスの記憶⑥ 初めての魔人討伐
しおりを挟む
ユリウスがフィーリーアと出会い1年が経った。
フィーリーアは不思議にも思っていなかったが、この時13歳だったユリウスは既に第2級魔法の習得まで成功させていた。
魔法が人間界に完全に認知されている現在から見てもそれは異常な習得速度であり、既に現在の基準でいえば勇者として認められてもおかしくない程にユリウスは戦士としても強くなっていた。
そしてそんなある日。
「……勝った?」
そう呟いたユリウスの目の前には一人の男が倒れていた。
既に絶命しているが、男は人間ではなく魔人だった。
この日、魔力探知で自身が住む村の近くに強い魔力を察知したユリウスはフィーリーアとの戦闘訓練を中断し、村の近くまで戻ってきていた。
そしてユリウスは目の前のいる魔人と戦ったのだ。
結果は完勝だった。
魔人はユリウスを見た当初完全に舐めてかかっていたが、すぐにユリウスが自身を凌ぐほどの強者と悟り、全力で戦った。
しかしそれでもユリウスの剣技と魔法に全く歯が立たず、敗れる事になった。
この密かに行われた戦いこそ人類が初めて魔人を破る偉業となったのだが、この戦いを知る者はほとんどいない。
戦いが終わり少しして、森の影から様子を伺っていたフィーリーアが姿を現した。
「なんだ、どうなるかと思ったが、お前結構強くなってたのだな」
いまいちユリウスがどの程度強くなっているのかフィーリーアは実感を得ていなかった。
それは自身との力がかけ離れすぎている事による弊害だったが、魔人と戦うユリウスを見て初めてそれなりに戦える戦士になったのだと理解したのだ。
「あはは、そうだったみたいですね。これが魔人ですか」
ユリウスは一つの大きな目標を達成したわけだが、その実感はかなり薄かった。
特訓の中でフィーリーアの力の片鱗を知ったユリウスはあまり自分の強さに自信を持てずにいたのだが、大きな目標として打ち立てていた魔人討伐があまりにも呆気なく達成されてしまったためだ。
「これで私の役目は終わったな。短い付き合いだったが、私はもう帰る。そろそろ帰らぬとガイア辺りが騒ぎ出しそうだからな」
既にフィーリーアが自らの城を出て、1年の年月が経っている。
友との約束を守る為とはいえ、その期間エレメンタルドラゴンとはまったく会っていなかった。
事情こそ説明しているが、流石にこれ以上不在にするのはそろそろまずいとフィーリーアは思い始めていた頃だった。
「そうですね、今までありがとうございました」
フィーリーアはある程度の所までユリウスが魔法を習得した時点で帰る約束をしていた。
少し名残惜しかったが、魔人を倒すまでに強くなったユリウスがフィーリーアをこれ以上引き留めることはできない。
「死ぬまでに人間達に魔法の事を広めておけ。それなりに苦労した。無駄になってはかなわないからな」
身も蓋もないフィーリーアの言い方にユリウスは苦笑いを浮かべる。
「酷い言い方ですね。だけど分かりました。これからみんなに魔法を広めていこうと思います」
これがユリウスがフィーリーアから魔法を教わる条件の一つだった。
フィーリーアは人類に魔法を教えて欲しいと友から頼まれていた。
だからあの日、フィーリーアは魔法を教え広める人間を探していた。
そして、やっとの事で見つけ出したのがユリウスだったのだ。
挨拶もそこそこに既に去ろうと後ろを向いているフィーリーアにユリウスは大きな声で呼びかける。
「フィーリーアさん、また会えますか!?」
そんなユリウスの呼びかけに既に転移門を展開しているフィーリーアが振り返ることなく答えた。
「どうだろうな、人間はすぐ死ぬからな。私から一本取れるくらい強くなったら私から会いに行ってやる。まぁ期待はしていない。ではな」
そう言い残して転移門の中へと消えて行ったフィーリーアをユリウスは少しの間、頭を下げながら見送った。
「さてと、これどうしようかな?」
消えた転移門から魔人の死体へと視線を移したユリウスは独り言のように呟いた。
確かにユリウスは強くなった。
名も無き魔人とはいえ単騎で完勝するほどまでに。
とはいえ、魔人はこの一体だけではない。
更には魔人の中には四天王という強大な力を持つ者がいて、その更に上には魔王という規格外の化け物までいるという。
「やっぱり仲間がいるよな」
ユリウスは既に村の同年代の子供数人に魔法を教えていた。
あまり上達が早いとは思えなかったが、それでも既にファイヤーボールやアイスランスといった比較的簡単な魔法を使いこなしている子供もいる。
食用の大型動物を持ち帰ったりすることもあるので、大人たちには薄々ユリウスが変な事をしていると気付いてはいるが、魔法の詳細については話してはいない。
(子供の僕が一人で魔人を倒したことを知れば父さん達も納得してくれるかもしれない)
そうすれば村長であるユリウスの父も村にもっと人を集めるように動いてくれる可能性があるし、魔法の有用性を知る良い機会となるだろうとユリウスは思った。
そんな考えからユリウスは魔人の死体を葬ることなく、村まで持ち帰る事を決めた。
フィーリーアは不思議にも思っていなかったが、この時13歳だったユリウスは既に第2級魔法の習得まで成功させていた。
魔法が人間界に完全に認知されている現在から見てもそれは異常な習得速度であり、既に現在の基準でいえば勇者として認められてもおかしくない程にユリウスは戦士としても強くなっていた。
そしてそんなある日。
「……勝った?」
そう呟いたユリウスの目の前には一人の男が倒れていた。
既に絶命しているが、男は人間ではなく魔人だった。
この日、魔力探知で自身が住む村の近くに強い魔力を察知したユリウスはフィーリーアとの戦闘訓練を中断し、村の近くまで戻ってきていた。
そしてユリウスは目の前のいる魔人と戦ったのだ。
結果は完勝だった。
魔人はユリウスを見た当初完全に舐めてかかっていたが、すぐにユリウスが自身を凌ぐほどの強者と悟り、全力で戦った。
しかしそれでもユリウスの剣技と魔法に全く歯が立たず、敗れる事になった。
この密かに行われた戦いこそ人類が初めて魔人を破る偉業となったのだが、この戦いを知る者はほとんどいない。
戦いが終わり少しして、森の影から様子を伺っていたフィーリーアが姿を現した。
「なんだ、どうなるかと思ったが、お前結構強くなってたのだな」
いまいちユリウスがどの程度強くなっているのかフィーリーアは実感を得ていなかった。
それは自身との力がかけ離れすぎている事による弊害だったが、魔人と戦うユリウスを見て初めてそれなりに戦える戦士になったのだと理解したのだ。
「あはは、そうだったみたいですね。これが魔人ですか」
ユリウスは一つの大きな目標を達成したわけだが、その実感はかなり薄かった。
特訓の中でフィーリーアの力の片鱗を知ったユリウスはあまり自分の強さに自信を持てずにいたのだが、大きな目標として打ち立てていた魔人討伐があまりにも呆気なく達成されてしまったためだ。
「これで私の役目は終わったな。短い付き合いだったが、私はもう帰る。そろそろ帰らぬとガイア辺りが騒ぎ出しそうだからな」
既にフィーリーアが自らの城を出て、1年の年月が経っている。
友との約束を守る為とはいえ、その期間エレメンタルドラゴンとはまったく会っていなかった。
事情こそ説明しているが、流石にこれ以上不在にするのはそろそろまずいとフィーリーアは思い始めていた頃だった。
「そうですね、今までありがとうございました」
フィーリーアはある程度の所までユリウスが魔法を習得した時点で帰る約束をしていた。
少し名残惜しかったが、魔人を倒すまでに強くなったユリウスがフィーリーアをこれ以上引き留めることはできない。
「死ぬまでに人間達に魔法の事を広めておけ。それなりに苦労した。無駄になってはかなわないからな」
身も蓋もないフィーリーアの言い方にユリウスは苦笑いを浮かべる。
「酷い言い方ですね。だけど分かりました。これからみんなに魔法を広めていこうと思います」
これがユリウスがフィーリーアから魔法を教わる条件の一つだった。
フィーリーアは人類に魔法を教えて欲しいと友から頼まれていた。
だからあの日、フィーリーアは魔法を教え広める人間を探していた。
そして、やっとの事で見つけ出したのがユリウスだったのだ。
挨拶もそこそこに既に去ろうと後ろを向いているフィーリーアにユリウスは大きな声で呼びかける。
「フィーリーアさん、また会えますか!?」
そんなユリウスの呼びかけに既に転移門を展開しているフィーリーアが振り返ることなく答えた。
「どうだろうな、人間はすぐ死ぬからな。私から一本取れるくらい強くなったら私から会いに行ってやる。まぁ期待はしていない。ではな」
そう言い残して転移門の中へと消えて行ったフィーリーアをユリウスは少しの間、頭を下げながら見送った。
「さてと、これどうしようかな?」
消えた転移門から魔人の死体へと視線を移したユリウスは独り言のように呟いた。
確かにユリウスは強くなった。
名も無き魔人とはいえ単騎で完勝するほどまでに。
とはいえ、魔人はこの一体だけではない。
更には魔人の中には四天王という強大な力を持つ者がいて、その更に上には魔王という規格外の化け物までいるという。
「やっぱり仲間がいるよな」
ユリウスは既に村の同年代の子供数人に魔法を教えていた。
あまり上達が早いとは思えなかったが、それでも既にファイヤーボールやアイスランスといった比較的簡単な魔法を使いこなしている子供もいる。
食用の大型動物を持ち帰ったりすることもあるので、大人たちには薄々ユリウスが変な事をしていると気付いてはいるが、魔法の詳細については話してはいない。
(子供の僕が一人で魔人を倒したことを知れば父さん達も納得してくれるかもしれない)
そうすれば村長であるユリウスの父も村にもっと人を集めるように動いてくれる可能性があるし、魔法の有用性を知る良い機会となるだろうとユリウスは思った。
そんな考えからユリウスは魔人の死体を葬ることなく、村まで持ち帰る事を決めた。
0
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
無名のレベル1高校生、覚醒して最強無双
絢乃
ファンタジー
無類の強さを誇る高校二年生・ヤスヒコ。
彼の日課は、毎週水曜日にレベル1のダンジョンを攻略すること。
そこで手に入れた魔石を売ることで生活費を立てていた。
ある日、彼の学校にTVの企画でアイドルのレイナが来る。
そこでレイナに一目惚れしたヤスヒコは、なんと生放送中に告白。
だが、レイナは最強の男にしか興味がないと言って断る。
彼女の言う最強とは、誰よりもレベルが高いことを意味していた。
レイナと付き合いたいヤスヒコはレベル上げを開始。
多くの女子と仲良くなりながら、着実にレベルを上げていく。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる