上 下
210 / 255
第4章 魔界編

第210話 ユリウスの記憶④ 魔人の恐怖

しおりを挟む
「……ま、魔人のオス?」





初めて見た灰色の巨人を見たユリウスがまともに言葉にできた単語がそれだった。

それを聞いた女はふんと鼻を鳴らして、ユリウスの言葉を訂正する。





「お前は本当に魔人が好きなのだな。確かにアレはオスだと思うが、ジャイアントオーガという。なに、大した相手ではない。お前の才能を測るにはちょうどいい相手だろう。まぁ好きにやってみろ」





先程まで女に釘付けになっていたユリウスだったが、今釘付けになっているのは女が言ったジャイアントオーガ(オス)だった。

ユリウスが気付いたのを察したジャイアントオーガは巨大な棍棒を担いだ状態でこちらへと走ってくる。





「ま、待って! あんなの勝てるわけない! 助けてよ!」





今もユリウスに迫ってくるジャイアントオーガの身長はゆうに4mを越えていた。

今までユリウスが戦ってきた大型動物やゴブリンなどの魔獣とは強さも迫力も比べるまでもない。

ユリウスが助けを求める声を上げると女は不思議そうな表情で首を捻る。





「おかしなことを言うな? 魔人だと思っていた私相手にあれだけ威勢がよかったというのに、あの程度の魔獣のどこに恐れる事がある。分かっていると思うが、アレより弱い魔人など存在しないぞ。魔王ともなればアレくらいの魔獣であれば100体いても3秒もしない内に全て消し炭にする」





「……は?」





(魔人ってそんなに強いのか? 父さんが言っていた事は本当だったのか)





女の言葉でユリウスは父の言っていた言葉の意味をようやく理解した。



あんな化け物よりも強い化け物相手に人間が勝てるわけがないと。

ユリウスは前言を撤回し、すぐに足元に落ちていた剣を拾い上げた。





(……お、重い)





ユリウスは初めて持った金属製の武器に思わずそんな感想を抱く。

ジャイアントオーガは大きな喚き声を上げながらユリウスへとまっすぐ棍棒を振り下ろした。





「ごぉあー!」





ユリウスはジャイアントオーガの振り下ろした巨大な棍棒をギリギリで回避した。

ユリウスが巨大棍棒を振り下ろされた地面を見ると、ジャイアントオーガが棍棒を振り下ろした地面は人間の力ではありえない程に抉れ、その威力を物語っていた。





(あ、あんなの喰らったら死ぬ)





それでも思いの他、ユリウスは冷静だった。

巨大棍棒を振り下ろした隙にユリウスはジャイアントオーガの足首に狙いを定めた。



しかし——。



見事足首に斬撃を当てる事に成功させたユリウスだったが、少しだけ皮膚を切り裂くことしかできなかった。





(デカすぎて顔どころか腹も狙えない。どうすれば)





ユリウスとジャイアントオーガでは体格が違い過ぎて、足首くらいしか狙える所がなかった。しかし思いのほかジャイアントオーガは硬く、まともなダメージを与える事ができない。



ユリウスの心中を察したわけではないが、ほとんどダメージを受けなかったジャイアントオーガはニヤリと大きく卑しい笑みを浮かべた。

そして何かに気付いたのか再度棍棒を背負いなおしたかと思うと。





(……あ、やばい)





ジャイアントオーガはかなり腰を落とした姿勢で巨大な棍棒を凄まじい速度で横スイングしたのだ。

縦の攻撃はなんとか回避できたユリウスだったが、3m以上ある棍棒から逃れる程後ろには回避できないし、かと言って丸太ほどのある棍棒を飛び越える事も不可能だった。





(父さん、ごめん、言う事聞いとけばよかった)





ユリウスは避ける事を諦め、目を瞑りその場に立ち尽くした。

だが、いつまで経ってもジャイアントオーガの棍棒はやってこなかった。

不思議に思ったユリウスはゆっくりと目を開けるとそこには衝撃の光景があった。





「威勢が良かったわりに大したことないな。お前」





ジャイアントオーガが薙いだ棍棒を女が片手一本で受け止めていたのだ。

そして、女はゆっくりと受け止めていた棍棒を離したかと思うと、棍棒を離した女の手がユリウスの目から消えた。





パンッ!





そんな音が聞こえると同時にユリウスの目の前で巨大棍棒がジャイアントオーガの持っていた持ち手部分を残して炸裂した。





「お? おぉ?」





ユリウスと同じくその光景を見ていたジャイアントオーガは目の前で起きた事が理解できなかったのか間抜けな声を上げた。

そしてそんな間抜けな声がジャイアントオーガの最後の声となった。





パンっ!





またそんな破裂音だけが聞こえた後、首が無くなったジャイアントオーガは重力に従うように膝から崩れ落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

処理中です...