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第2章 魔人侵攻編

第34話 アルメイヤの回想②

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「ははは、人間か。魔王様も面白い事を考えられる!」


「えっ、魔王?」


「なんでもない、気にするな」


アルメイヤが当然魔王というワードを出したので盗賊のリーダーの男はびくっしながらもアルメイヤに尋ねたが、アルメイヤは男の言葉を遮った。


「さて、人間界か。困った」


「えっ、何がでしょうか?」


アルメイヤは困ったと言いながらもなぜかうっすらと笑みを浮かべているのが男から見たら何か不気味に見えた。


「金がない。どこかに金を恵んでくれる良い奴はいないものだろうか?」


男にはアルメイヤが言いたいことが良く分かった。


「少ないですけど、これをどうぞ」


男は自分の懐から銀貨を5枚ほど出して、アルメイヤに手渡す。

なぜアルメイヤが金を持っていないかは分からないが、これだけあればシラルークの安宿であれば数日泊まれる額だ。


「すまないな。そんなつもりではなかったのだがな。さて……待たせてしまったな。続きを始めようか?」


「……続き? まだ知りたいことでもあるのですか?」


リーダーの男の問いにアルメイヤは納めていた剣を抜きながら答えた。


「なんだ、もう忘れたのか? 私たちは殺し合いをしていたのだろう? すまないな、私の都合で中断してしまって」


アルメイヤはリーダーの男の後ろで正座していた手下の者達にも目を向けて、笑顔で言った。

一瞬逃げようかと考えた者もいたが、男たちは既に走れる状態ではなくゆっくり歩くのがやっとの状態である。

男達との激しい戦闘の後でも息一つ切らせなかった目の前のアルメイヤから逃げ切れるわけがない。

するとリーダーの男が突然叫び声を上げた。


「てめぇら! お姉さまが困っておられる! 持ち金を全部出しやがれ! 銅貨1つ残さず全部だ!」


リーダーの叫び声を聞いた男たちは誰も抵抗することなくアルメイヤの前まで歩いてきて、1人1人硬貨の入った皮袋を地面に積んでいき、最後の男が置き終える頃には硬貨の山が出来上がっていた。

「そういうつもりではなかったのだが」


そう言いながらもアルメイヤはいつの間にか剣を鞘に納めていた。

確実にそういうつもりだっただろうとリーダーの男は思ったが口には出さない。


「しかし、こんなには持てないな」


魔王様ならば謎の特技、異次元空間に手を突っ込むを使い、いくらでも異次元空間に放り込めるのだろうが、アルメイヤはそんなスキルは持っていない。

頑丈で大きな革袋でもあれば持てなくもないが、そんな都合の良いものもなさそうだし、何よりジャラジャラと目立つ。

それを察したリーダーが皮袋に入っている硬貨を地面にぶちまけ始めた。

アルメイヤがその様子を眺めていると、リーダーの男は全ての袋からぶちまけた硬貨の中から金貨銀貨だけをすべて自前のやや大きな皮袋に詰め込み、さらに10数枚ほどの銅貨を皮袋に詰め込み、きゅっと皮袋の口を閉じた。


「これでどうでしょうか? これならば持ち運びも可能だと思いますが……」


「そうだな、それでいい」


それでも結構な量になったが、明らかにおかしな量でもない。


「あの、残ったこれは?」


リーダーの男は残った銅貨と屑銭の山を指差す。


「そうだな、くれてやる」


「ありがとうございます! 助かります!」 


リーダーの男は手下達を呼んでみんなで適当に皮袋に銅貨や屑銭を詰め込み始める。

普通であれば喧嘩になりそうなものだが、そんな事が起きる気配もない。

アルメイヤの機嫌を少しでも損ねれば、また剣を抜きかねないからだ。

その作業を横目にアルメイヤはリーダーの男に尋ねる。


「それでシラルークとはどちらだ?」


幸いな事にあれだけの金でアルメイヤは満足したようで、もう殺し合いがどうとかは言ってこなかった。


「あっ、街道をずっと行けば40分ほどで着くと思います」


「そうか、世話になったな」


そう言い残し、アルメイヤはシラルークの方へと歩き始めた。





「——ということがありまして」

アルメイヤは盗賊達との別れの所で、話を締めくくった。

それにしても……なっげぇ、こいつの話すっげぇなげぇ。

なんで金を持ってるか聞いただけなのにどんだけ尺使ってんだ。

最初はアルメイヤの話が終わるのを遠目に見ていたミンカも他の客の対応の為、その場から離れていた。

だが、アルメイヤが盗賊から盗賊していたことはよく分かった。

そこで色んな情報を手に入れた事も。

別にアルメイヤが悪い事をしたとは俺もあまり思っていない。というか俺も似たようなことを何度かしたこともある。

むしろ、一般市民から奪い取ってなどしていたら一大事だった。良い盗賊との出会いに俺は密かに感謝した。


「まぁよく分かった。金を持っている理由もお前の金銭観感覚がおかしいのもな」


いくら盗賊全員分の金の大部分を奪ったとはいえ、あんな高級宿に継続して泊まれるわけがない。

宝くじが当たったら、調子に乗って数年で使いつくして破産するタイプだなと俺は心の中でアルメイヤに評価を下す。

そんな時ちょうどミンカは客の対応が終わりこちらに戻ってきた。


「あ、お話終わりましたか?」


「うん、なんか知り合いの人にちょっと借りたんだってさ」


実際は借りたというか貰ったというか奪い取ったに等しいが流石に正直に言うわけにもいかない。

まぁ殺し合いを仕切りなおそうとしただけで金銭を直接要求したわけではないからきっと大丈夫に違いないが、ミンカにはちょっと刺激が強すぎるだろうから言わなくていいよね!っていう俺の優しい配慮である。


「あ、それでこいつもここに泊めたいんだけど部屋空いてる?」


「大丈夫ですよ! 2日で銅貨6枚になります」


俺が銀貨1枚を出すと銅貨4枚のお釣りと部屋の鍵をミンカから受け取った。


「今日も夕食うちで食べますか?」


ミンカは笑顔で俺に尋ねるが、もうすぐ夕食時だというのに部屋で相談した後の予定はまだ決まっていない。


「んー、食べると思うけどまだ決めてないんだ。とりあえず俺達は今からちょっと相談することがあるから一旦部屋に戻るよ」


「分かりました。ごゆっくりどうぞ」


「ありがとう」


俺達は今後の相談をすべく、2階の俺達の部屋に向かった。
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