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⑤ー決断ー
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「う・・うう」
カイルは赤髪の男に顔面を大きな手で掴まれ、絞り出すように唸り声をあげた。
掴まれているカイルの身体や顔から青い閃光の筋がパリッパリッと弱く光り走る。それは男の手へ腕へ二の腕へと這うように伝わって行く。
玉座を中心に広がる、この薄暗く無駄に広い空間はこの国の城の謁見の間。
赤髪の男は玉座を背景に立ち上がり、まるで子供がオモチャを無造作につかむようにカイルの顔を掴んでいる。この赤髪の男こそがこの国の王だ。重苦しい重金属の装飾がそこかしこにあてがわれた嫌味のような服装。
しばらくすると、王はカイルをまるでごみでも捨てるかのように横に払い除ける。
カイルは抗うこともなくその場に倒れ込み、そのままモゾッと身体をかばうように起き上がると頭を垂れたまま膝をつく。
その隣には、同じように力なく頭を垂れるジェドがいる。
先程の王がカイルの顔を掴んでいた行為は、魔力の剥奪。
この国の罰則は魔力を奪い取る事が基本だ。様々な魔力の奪い方はあるが、このやり方が一番屈辱的と皆が感じるやり方だ。
だが今回は、さほど魔力は奪われていない。こうして二人ともしっかりと意識を保ち起き上がれている。
これもジェドの計らいのお陰だ。
シンのことをすぐに報告をしなかった事は、当然王の逆鱗に触れた。
それをジェドがあの手この手で理由を述べ、罰則もジェドが共に受けることでこのくらいですんだ。
王は頭を垂れたままの2人を一瞥し、そのまま踵を返し奥の間へ去っていった。
王の重い足音が遠ざかり聞こえなくなってしばらくしてから、ジェドが大きなため息をつきながらその場に座り込む。
「カイル、大丈夫か?」
「バカ!それは俺のセリフだ。すまない、巻き込んで」
カイルが伏し目がちに言う。
「いいって。まあ、このくらいで済んで良かった。・・お前があの子を連れて帰ったとき、僕がいなかったのも間が悪かったよな。本当は僕にどうするか相談するつもりだったんだろ?」
カイルがそれを聞いて頷く。
いつもより覇気のないカイルを見ながらジェドは戸惑うように少し考えてから口を開いた。
「あのさ、お前が連れて来たあの子なんだけどさ・・」
「うん?」
「普通と違うって、上の奴らが騒いでいたぞ」
「普通と違う?」
ジェドはその感知能力を買われて、上の者からも受けが良く、機密に値する情報も共有してもらっている。
魔力を奪われ重だるい身体を互いに支えるように二人は長い廊下に出た。
ジェドはカイルの目をじっと見た。
「・・あいつ、人間か?」
「・・・」
カイルは自分が心の端で思っていた疑問をジェドが言葉にしたので戸惑った。
まあ、確かにシンは容姿も魔力量も自分たちとは違う。だが、どうやらジェドはそう言うことを言っている訳ではないようだ。
「う~ん、一般的にはさ、僕たちは普通に物質的に身体って言うものがあるよな?」
そう言い、ジェドは自分の胸のあたりを指差して言葉を続ける。
「どこまで本当か分からないけど、その身体に魂とか魔力が入っているって言われているよな?」
カイルはジェドが何が言いたいのかいまいち分からないまま頷く。
「・・・あのシンて言う子は、その身体自体が魔力で作られているって見解らしい」
「はあ!?!」
カイルは思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
(意味が分からない。魔力で身体が作られる?そんなことあり得るのか?・・でも、もしそれが本当だったら?)
「だから、大騒ぎなんだ。かなりの魔力があるみたいで、魔石がすでに2つはシンから作れたらしい」
「2つだって?!」
魔石とは、奪い取った魔力を石のように具現化したものだ。その魔石を服用すれば、魔力を奪ったときと同じようにその魔力を使うことができる。
だが、その魔石を作るためにはかなりの魔力を濃縮して作るため、普通なら数人分の魔力で魔石は1個から2個ほどしか作ることが出来ない。
「・・でも、仮に魔力で身体ができているとしたら、魔力が減ったりなくなったりしたらしたら」
「まあ、形を保てなくなる?・・消滅?」
そうジェドが言うやいなやカイルが走り出す!
「ちょっ!!待てよ!」
制止を振り切り駆け出すカイルにジェドが何かを投げる!
それは一瞬で大きく広がり、まるで投網のようにカイルに覆い被さった。
地面に屈服するようにカイルが倒れ込む。
「落ち着けよ!勢いで行ったってお前でどうにかなるわけないだろ!あそこはただでさえ、警備が厳しいんだ!」
ジェドはカイルに駆け寄り捕獲魔具を外し、呆れたように言う。
「そんなの分かってる!」
カイルがジェドを睨む。
「分かってるけど、シンをここに連れてきたのは俺だ。あいつはこの国の人間じゃないのに。・・俺が巻き込んだんだ!」
カイルに睨み続けられたジェドは、ため息をつきながら言った。
「はぁ、分かったよ。警備が一時緩くなるときがある。その時なら何とかな中に入れるようにしてやる」
カイルの瞳に力が入る。
「・・手伝えるのはそこまでだ。僕もこれ以上、上の奴らから目をつけられるわけにはいかないからな」
ジェドが念を押す。
「充分だ!」
終課の鐘が鳴る。(現代で言う21時頃)
城下街では賑わいの最中だが、城内は静寂が支配する。
この時間になると、夜の業務を担当する者以外は、各自のあてがわれた部屋で自習をしているか寝ている頃だ。
カイルはジェドから見張りの隙を付きやすいルートを指示され、その通りに侵入する。
黒い外套を被り、カイルは行動に出た。
外套がカイルを闇の中に隠す。
400mにも及ぶ薄暗い大回廊をひたすら進む。回廊の終わり突き当たりを左へ。さらに突き当たりを今度は右に。3つ目の廊下を右に曲がったこの先の扉。
ここまで、誰一人として出くわしていない。ジェドの指示した完璧なルートとタイミング。本当にこのジェドの情報の正確さにはかなわないとカイルは思った。
扉の前に見張りが二人いる。
しばらくするとコツコツと足音がし、白いローブを羽織った男が近づいてきた。
カイルは姿を他者から数分程度認識できなくなる魔具の液体をスプレーの様に自分に噴きかける。
白いローブの男が扉の見張りに目配せすると見張りが扉の小さな魔方陣に手をかざした。
すると、扉が音もなく開く。
その男はそのまま扉を潜る。その後を他者から認識されなくなったカイルがスッとその後から次いで入った。
カイルは赤髪の男に顔面を大きな手で掴まれ、絞り出すように唸り声をあげた。
掴まれているカイルの身体や顔から青い閃光の筋がパリッパリッと弱く光り走る。それは男の手へ腕へ二の腕へと這うように伝わって行く。
玉座を中心に広がる、この薄暗く無駄に広い空間はこの国の城の謁見の間。
赤髪の男は玉座を背景に立ち上がり、まるで子供がオモチャを無造作につかむようにカイルの顔を掴んでいる。この赤髪の男こそがこの国の王だ。重苦しい重金属の装飾がそこかしこにあてがわれた嫌味のような服装。
しばらくすると、王はカイルをまるでごみでも捨てるかのように横に払い除ける。
カイルは抗うこともなくその場に倒れ込み、そのままモゾッと身体をかばうように起き上がると頭を垂れたまま膝をつく。
その隣には、同じように力なく頭を垂れるジェドがいる。
先程の王がカイルの顔を掴んでいた行為は、魔力の剥奪。
この国の罰則は魔力を奪い取る事が基本だ。様々な魔力の奪い方はあるが、このやり方が一番屈辱的と皆が感じるやり方だ。
だが今回は、さほど魔力は奪われていない。こうして二人ともしっかりと意識を保ち起き上がれている。
これもジェドの計らいのお陰だ。
シンのことをすぐに報告をしなかった事は、当然王の逆鱗に触れた。
それをジェドがあの手この手で理由を述べ、罰則もジェドが共に受けることでこのくらいですんだ。
王は頭を垂れたままの2人を一瞥し、そのまま踵を返し奥の間へ去っていった。
王の重い足音が遠ざかり聞こえなくなってしばらくしてから、ジェドが大きなため息をつきながらその場に座り込む。
「カイル、大丈夫か?」
「バカ!それは俺のセリフだ。すまない、巻き込んで」
カイルが伏し目がちに言う。
「いいって。まあ、このくらいで済んで良かった。・・お前があの子を連れて帰ったとき、僕がいなかったのも間が悪かったよな。本当は僕にどうするか相談するつもりだったんだろ?」
カイルがそれを聞いて頷く。
いつもより覇気のないカイルを見ながらジェドは戸惑うように少し考えてから口を開いた。
「あのさ、お前が連れて来たあの子なんだけどさ・・」
「うん?」
「普通と違うって、上の奴らが騒いでいたぞ」
「普通と違う?」
ジェドはその感知能力を買われて、上の者からも受けが良く、機密に値する情報も共有してもらっている。
魔力を奪われ重だるい身体を互いに支えるように二人は長い廊下に出た。
ジェドはカイルの目をじっと見た。
「・・あいつ、人間か?」
「・・・」
カイルは自分が心の端で思っていた疑問をジェドが言葉にしたので戸惑った。
まあ、確かにシンは容姿も魔力量も自分たちとは違う。だが、どうやらジェドはそう言うことを言っている訳ではないようだ。
「う~ん、一般的にはさ、僕たちは普通に物質的に身体って言うものがあるよな?」
そう言い、ジェドは自分の胸のあたりを指差して言葉を続ける。
「どこまで本当か分からないけど、その身体に魂とか魔力が入っているって言われているよな?」
カイルはジェドが何が言いたいのかいまいち分からないまま頷く。
「・・・あのシンて言う子は、その身体自体が魔力で作られているって見解らしい」
「はあ!?!」
カイルは思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
(意味が分からない。魔力で身体が作られる?そんなことあり得るのか?・・でも、もしそれが本当だったら?)
「だから、大騒ぎなんだ。かなりの魔力があるみたいで、魔石がすでに2つはシンから作れたらしい」
「2つだって?!」
魔石とは、奪い取った魔力を石のように具現化したものだ。その魔石を服用すれば、魔力を奪ったときと同じようにその魔力を使うことができる。
だが、その魔石を作るためにはかなりの魔力を濃縮して作るため、普通なら数人分の魔力で魔石は1個から2個ほどしか作ることが出来ない。
「・・でも、仮に魔力で身体ができているとしたら、魔力が減ったりなくなったりしたらしたら」
「まあ、形を保てなくなる?・・消滅?」
そうジェドが言うやいなやカイルが走り出す!
「ちょっ!!待てよ!」
制止を振り切り駆け出すカイルにジェドが何かを投げる!
それは一瞬で大きく広がり、まるで投網のようにカイルに覆い被さった。
地面に屈服するようにカイルが倒れ込む。
「落ち着けよ!勢いで行ったってお前でどうにかなるわけないだろ!あそこはただでさえ、警備が厳しいんだ!」
ジェドはカイルに駆け寄り捕獲魔具を外し、呆れたように言う。
「そんなの分かってる!」
カイルがジェドを睨む。
「分かってるけど、シンをここに連れてきたのは俺だ。あいつはこの国の人間じゃないのに。・・俺が巻き込んだんだ!」
カイルに睨み続けられたジェドは、ため息をつきながら言った。
「はぁ、分かったよ。警備が一時緩くなるときがある。その時なら何とかな中に入れるようにしてやる」
カイルの瞳に力が入る。
「・・手伝えるのはそこまでだ。僕もこれ以上、上の奴らから目をつけられるわけにはいかないからな」
ジェドが念を押す。
「充分だ!」
終課の鐘が鳴る。(現代で言う21時頃)
城下街では賑わいの最中だが、城内は静寂が支配する。
この時間になると、夜の業務を担当する者以外は、各自のあてがわれた部屋で自習をしているか寝ている頃だ。
カイルはジェドから見張りの隙を付きやすいルートを指示され、その通りに侵入する。
黒い外套を被り、カイルは行動に出た。
外套がカイルを闇の中に隠す。
400mにも及ぶ薄暗い大回廊をひたすら進む。回廊の終わり突き当たりを左へ。さらに突き当たりを今度は右に。3つ目の廊下を右に曲がったこの先の扉。
ここまで、誰一人として出くわしていない。ジェドの指示した完璧なルートとタイミング。本当にこのジェドの情報の正確さにはかなわないとカイルは思った。
扉の前に見張りが二人いる。
しばらくするとコツコツと足音がし、白いローブを羽織った男が近づいてきた。
カイルは姿を他者から数分程度認識できなくなる魔具の液体をスプレーの様に自分に噴きかける。
白いローブの男が扉の見張りに目配せすると見張りが扉の小さな魔方陣に手をかざした。
すると、扉が音もなく開く。
その男はそのまま扉を潜る。その後を他者から認識されなくなったカイルがスッとその後から次いで入った。
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