Shapes of Light

花房こはる

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③ー邂逅ー

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 果てしない一面の単色のスカイブルーとその眼下に広がる樹海のような森。
 その空と樹海の間を滑るようにカイルは魔具の力を借りて飛行移動している。
 そのほとんどが森林で覆われている世界のため、このような緑の樹海の景色ばかりが広がる。

 カイルはしばらく変わらない同じ景色にそろそろ飽き飽きしていた。
「?!!」
 どのくらいこの変わらない樹海の上を移動していた時だろうか、遥か前方に違和感を感じた。
「・・・あそこか」
 まだそれはかなり離れた場所だが、その一郭だけ他と魔力の質が違う。
「う~ん、場所的にフォルが現れたってことで間違いないと思うけど、・・かなり強い魔力だな。いったい何体のフォルがいるんだ・・」
 フォル、一体だけでもかなり凶暴なのだ。それが複数いるとなると駆除するだけでもかなり骨が折れる。
 まだフォルの姿を確認する前から、カイルはすでにげんなりとしていた。

 フォルの特徴としては、葉の付いていない幹のみの木で、大きさも高くてもだいたい2mほどの樹木だ。
 普段は一見どこにでもあるような樹木なのだが、一度でも魔力を得ようものならその枝を縦横無尽に振り回し、辺りのものを破壊しさらに力を奪おうと暴れまくると言う、とても面倒な存在だ。

 その場に近づくにつれ、目視でもはっきりと確認できるようになってきた。
「っ!?」
 カイルは、今一度目を凝らした。
「え?一体だけ?」
 かなりの魔力量から何体ものフォルがいるとジェドもカイルも予想していた。しかし、今、カイルの瞳に映っているフォルはたった一体だけ・・。
 ただ、・・でかい!!
 普通は大きくても2mほどのフォルが、ゆうに5mは越えている!その放たれている魔力量も今まで感じた事がないほどの強さだ。
 その大きさのせいなのかその魔力量のせいなのか、辺り一面がすでに破壊尽くされている。
 それでもその巨大なフォルはまだまだ暴れ足りないのか、その幹をひねりその枝をムチのように振り回している。

「・・・まじか」
 いったい、どんなものから魔力を奪ったらこうなるのか。
「?!」
 更に幾分かカイルがフォルに近づいたとき、フォルの枝で幾重にも覆われているその中に『何か』があるのに気付いた。
 それの正体を確認しようとカイルは魔具から飛び降り、他の普通の木々をカモフラージュにして近づく。
「・・・人?!」
 フォルが、まるで何者にも奪わせないようにその枝で幾重にも絡ませ覆っていたモノは、人間?!
「まさか、あの人間からこれだけの魔力を奪ったのか?」
 さらにカイルは食い入るようにその人間を見る。
 見た感じは、歳はカイルと同じくらいだろうか。
 背丈は、ここからでは分かりにくいがカイルより頭一つくらい小さい?髪は短く肩ぐらいまでで淡い褐色をしている。
 ここからでは性別までは分からない。
 たった一体のフォルがここまで魔力で巨大化し、こんなにも増大する魔力を放つことができるなんて。その媒体となった人間て、むしろ・・・『人』なのか?
「でも、まあ、このままほっとくわけにいかないしな」
 そう独り言を言うと、カイルはフォルの前に飛び出す!
 瞬間、カイルに向かって容赦なく枝がムチのように襲いかかる!
 分かっていたかのようにカイルはそれを当たり前のようにかわす!
「何だよ。そんなに魔力を奪っておいて、俺のも欲しいのか?!」
 言葉は理解しないであろうそれに向かって文句を言う。
 ダンッ!ダンッ!!
 休む暇なくフォルは、カイルにその枝を幾度となく打ち付ける!それを器用にかわすカイル。
 が、いつまでもこうやって逃げるばかりでは、こっちがスタミナ切れしてしまう。
 (燃やしちまうか?・・でも、中の人は・・ま、何とかなるか!)
 と、思考を巡らし、カイルはフォルから少し間合いを取り手のひらに意識を集中する。
 次の瞬間、カイルは勢い良く打ち付けてくる枝の嵐を掻い潜り、大人でも抱えきれない太さのフォルの幹の懐に潜り込む!
 スッと見上げると、さっきより近くにその人間らしき者が確認できた。 
 近くで見ると、より華奢に見える。
 (女の人?・・でも、ま、とりあえず何とかしないとな!)
 カイルは両手を重ねる形にして、それをフォルの幹に強く押し付ける!と同時に右手を離し、囚われた人の方へ手を伸ばす!
 その右手から一瞬青い光のようなものが放たれ、同時に離れた場所にいる囚われた人の身体を同じ光が包む。
 刹那!フォルの幹全体から真っ赤な光が締め付けるように現れ、それは一瞬にして、深紅の炎へと変わった。

 しばらく後、フォルは真っ黒な炭へと変わっていた。
 フォルが囚えていたその者は、その身体がほんのりとカイルが放った青い光によってつたまれており、先ほどの炎の影響は受けていないようだ。

 一方、カイルがここにたどり着く頃、その人間らしき者は微かに意識は保てていた。
 ただただ、・・・気持ち悪い。そうとしか思えない。
 全身に粘っこいものが纏わりつくような感覚。体が重く上手く動かせない。
 何が起こったのか、理解できない。
 (そう、たしかあの時、何かが襲ってきて?それで、・・どうなった?)
 ほとんど消えかかる意識の中で、そんな考えを巡らしていたとき、また、あの声が聞こえてきた。
『・・・くれ。・・・・助けてやって・・、あいつを・・・・』
 (また、あの声・・、あいつって、誰?・・・てか、僕が助けてほし・・・)
 そう、その人間らしき者が薄れ行く意識の中でそう思ったそのとき、今までののし掛かるような重さが消えてふわりっと身体が軽くなった気がした。そして、ふと何かが近づいてくるのがなんとなく分かった。
 黒髪の何かが覗き込むように自分を見ている。・・が、これ以上、もう意識を保つことはできなかった。

 カイルがその人間らしき者を抱き上げ、ぽそっと呟く。
「何だ、男か・・」
 その者は、小柄で華奢な体つきをしているが、どうやら男性のようだ。歳は、先ほど思った通りで自分と同じくらいだろうか。
 と、一瞬、その者と目が合った気がした。薄い紫色のあまり見ることのない綺麗な瞳の色。
 が、その瞳はすぐに閉じられてしまった。

 フォルはまだ燻っている。
 ある意味、図体も大きく凶暴さは増していたが一体のみで良かった。これが何体も相手となると、その数をこなすのを想像しただけでもうんざりする。
 カイルは、フォルの方から腕のなかに収まっている少年に目を移す。
「・・・・とりあえず、連れて帰るか」

 カイルは、ここに来るときと同じように懐から水色の球体を取り出し、それをその空に向けて放り投げた。
 それは宙でブンッと小さく音を立てて、1メートルほどの平たい水色の円形に変わり、そのまま宙に浮く。
 カイルはこの少年を抱き抱え、飛行魔具に飛び乗った。
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