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漆金の魔術師、戦いが終わる

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「決闘を行う事になりました。止めないでください」

 女魔術師は、師匠であるカイ=セイウンスへと言った。

「ベガ、君は宮廷魔術師を何人も排出してきたアドマイア家の長女だ。
 天才と言われるほどの魔術の才能がある。君が決闘しなければいけないような相手なんて想像できないな」

 そう言うカイの元に、俺が引きずり出される。

「この男です。師匠に勝ったという漆金とかいう男です」
「なっ!?」
 俺と目が合うと、カイは驚愕した。

「無茶だ、辞めなさい!君では彼には勝てない!」
「なぜですか。この男、あまり強くないように見えますが……」

 俺はかつて、この女魔術師、ベガの師匠であるカイと戦った事がある。
 チート能力のおかげだが、結果は俺の圧勝だった。

「私も勝てない訳ではない。ただ彼に勝つためには、失う物が多すぎるんだ」
 そういってカイは俺へと向き直る。

「……ヘイハチ殿。彼女はまだ若い。彼女の非礼は私が詫びましょう。どうか彼女を許して下さい」
「何を言っているんですか、師匠!」

 そういうベガに何といって説得しようか、とカイは悩むのを俺は止めた。
「まあ俺は気にしてない。でも本人が戦いたいって言うのは周りが止めるものじゃないだろ?」
「……どうか彼女を再起不能にするのだけは許して頂きたい」
「師匠、何を訳の解らない事を。こんな奴に負けるはずがありません」

 そして決闘の日がやってきた。

「ずいぶん大がかりな決闘にするんだな」
「人類最強と呼ばれる漆金の魔術師が負ける日よ。皆に声をかけるわよ」

 周りを見てみるとベガを応援する連中がかなりの数居た。
「もしかして家族とか呼んだのか?」

「皆に声をかけたと言っただろう。家族だけじゃない。魔術師ギルドの連中から先輩、後輩。そして恋人や仲間達もいる」
 そう自慢げにいうベガ。友達が多い自慢でもしたいのか……。
 戦う前に、カイが焦り決闘場へ入ってきた。
「ベガ、やはり辞めなさい。こんなにたくさんの人を呼ぶとは……」
「師匠、安心してください、私は負けませんから。師匠に勝ったというこの漆金の化けの皮をはいでやりますから!」


 そして決闘が始まった。
「炎よ!」
 ベガが操る炎の魔術を俺は横にかわした。
 魔術が当たった石造りの地面をあっさりと溶かした。
「すげえ威力だな、おい……」
「当然、錬度では師匠に劣るが魔力は師匠よりも多いからね」
 以前、カイと戦った時と同等、いやそれ以上の威力であった。
 
 なるほど、カイが許して欲しいと言うだけの才能だ。

「これで終わりよ!」
 そしてベガの炎の連打により、躱せなくなった俺に当たる。
 だが、ここで俺の一つ目のチートが発動する。
 平然と立っている俺を見て、驚くベガ。

「な、何で死んでないのよ!」
「ああ、俺チートで魔術無効だから」
「なああああああっ!?」

 魔術が主体のこの世界において、俺は魔術が効かない。
「そんなでたらめな事があるもんですか!」
 そういって何種類か他の属性の魔術を試すが、俺にはダメージが入らない。
「ふふふ、そう。それが貴方が自信が持ってた理由ね。確かに凄いけど、攻撃はそれだけじゃないわよ」
 そして自身にバフをかけるベガ。

「モンスタードッグにも負ける軟弱な身体でこれは耐えられるかしら?」
 そういって拳を振り下ろすベガ。俺が交わした先には石造りの床がクレーターになっていた。

「すげえ威力だな」
「どう?それともこれも無効って言うのかしら?」
「いや、さすがにそれが当たったら死ぬしかないな」
 そういって俺はベガに向かって手を伸ばす。

「じゃあ攻撃させて貰おう」
 俺が使える魔術は二つしかない。ショボい炎と、もう一つ。
 そのもう一つは、俺が異世界転移をした時に手に入れたこの世界には存在しない魔術である。
 傷一つ付ける事はできない魔術だが、俺が対人戦で最強と呼ばれる理由の魔術である。

「ッ!?」

 ベガが急に顔を赤くして立ち止まった。

「あ、アンタ何をしたの……?」
「解ってるんだろ?」

 そして、ベガは固まった。ひくひくと顔が引きつっている。
「攻撃してきていいぞ?」
「……くっ」

 何が起こったのか解らない決闘場のギャラリー達は呆然としている。

「ほら、攻撃してこないの?」
「こ……こいつ……」

「ベガー、頑張れ」
「ベガ、負けるな!」
 ベガに向けての応援も、聞こえていないだろう。

「な、なおせるんでしょう?」
「は?」
「だから、負けでいいから、なおせるんでしょ?」
「よく解らんが負けなら審判に言ってくれないか?」

 そして、ベガは審判を呼び……審判は俺の勝利を告げた。
「ベガ、どうした!まだ戦えるだろう!」
 そんな罵声を受けてもベガは俺を呼び寄せ言った。

「さ、さあ。早く治して」
「できない」
「……は?」
「ああ、できないから……」
「う、ううう……嘘でしょ……!?」

 そしてベガは愕然とする。
 カイは痛々しそうにその様子を見ていた。

 カイは俺の魔術を受けた第一号だ。
 俺が使えるもう一つの魔術は……【激しい尿意を与える】というだけの物だ。
 それも、あと数分しか持たない、と思わせるだけの激しい尿意を。
「漆金の魔術師……貴方は恐ろしい人だ。ここには彼女を尊敬している後輩や、恋人がいるというのに」

「う、ううう……嘘よね!?あ、謝るから!謝るからお願い、助けて……」

 カイと戦った時、奴はすぐに降参してトイレに駆け込んだ。
 その後、オムツを装備して再戦を申し込もうとしていたのだが、
「俺、まだ本気を出してないぞ。本気だと問答無用で即、あと一時間以上はそそうが続くぜ?」
 その一言で、カイは勝てないと察して、膝を折った。

 モンスターなら漏らしながら物理で襲ってくるから通用しないが、理性と羞恥心がある人間には耐えられないだろう。対人戦でしか使えないチートだが、立場がある人間には恐ろしいだろう。

「我慢は辛いだろう。楽にしてやろう」
 今はこれが精いっぱい。そう言って俺は全力でベガへ追加の尿意魔術を【全力】でかけた。

「あ……ああああああああ!」
 そして、我慢から解放され一瞬幸福そうな顔を浮かべた後、頭の整理が追い付かなくなったか。

「……きゅうぅぅ」
 気絶した。気絶した後、床に倒れたベガは全身が濡れるほどに……。漏らし続けた。
 脱水症状で死ぬんじゃないか、と水を補給させ続け介護をする後輩や彼氏はどう思ったのだろう。

 目が覚めたベガは垂れ流し状態になり彼氏と可愛がっていた後輩に介護されていた事を聞き
「もう……みんなに顔をあわせられない……」
 再起不能(ヒキコモリ)となった。

「おっ、これ少し高く売れる薬草じゃん……」
 ベガを倒した後、若き天才魔術師を倒したと噂が広まっているのも構わず、俺は今日も採集依頼の薬草を取り続けている。
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みんなの感想(2件)

佐伯 希
2018.05.18 佐伯 希

このネタはエロに持って行って無いんですか?
個人的欲求として、うふ~んであは~んなお姉様や、イケメンな俺様、花も恥じらう可憐な乙女、可愛い系ショタなどなどに使って欲しいんですが。

解除
蟠龍
2016.07.06 蟠龍
ネタバレ含む
星馴染
2016.07.07 星馴染

シッキンです!
タイトルからご想像の通り、下ネタな終わり方をしております^^;
本当は完結を明日落とす予定だったのですが、つっこまれたので落としちゃいます。
正当派ファンタジー、という皮をかぶせた下ネタ作品です……。ごめんなさい。
筆休めにこういうのを書いてみたかったので。

感想ありがとうございました!

解除

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