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第1章~夢魔の王とアーク城
プロローグ
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目が覚めるとそこは暗い部屋だった。
消毒液のようなかすかに鼻を刺激する臭いが頭を揺さぶり、俺はそっと身体を起こす。
「ここは……どこだ?」
鈍っている頭を振り、状況を把握しようとする。
広い部屋の真ん中にベッドだけが置かれてあった。俺はそこで寝ているようだ。
少し高めのベッドから降り、あたりを見回してみる。
暗くて解らなかったが、ベッドは豪奢な作りで色々な所に細工が施してある。
石作りの部屋、見た事も無いその部屋を、俺は何故か懐かしいと感じていた。
何故、俺はこんな所に。
ベッドの傍にボタンがあった。
「ドクロマーク?」
赤色のボタンには、ドクロのマーク……骨でバツになっているマークが付いていた。
頭を整理しようとベッドに座りなおすと、ドアが開いた。
水と薬らしきものを両手に持っている人が現れた。
「……ッ!?ミライ。起きたのか?起きたらボタンを押せって言っただろ?」
起き上がっている俺を見て、小走りに駆け寄ってくる。
押せって……。あのドクロマークのボタンをか?
いやいや、押せないだろ……。
どう見ても押してはダメな造形だぞ?
両手に持った袋いっぱいの薬を片手に集め、空いた手で目までかかるサラサラとしたボリュームのある髪をかきあげる。
俺に顔を見せると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
金色の髪に緑色の目。恐ろしい程に整っている顔の美少女……?
どう見ても男性用に見える服装だった。
剣を吊った騎士服である。
丸みのない、折れるような細い身体つきを見て、俺は気になって尋ねた。
「えっと、貴方は女の子……だよね?」
「それは遠回しに僕の事を侮辱しているのか?僕が男らしくない、と?」
少し怒ったような口調で、麗しい騎士は俺を睨む。
どうやら男だったらしい。
男?どこが?
ヒゲもないし喉仏も隠れてる。
髪も長く顔立ちも精悍な感じはなく、綺麗に整っているし。
そうじろじろ見ていると、俺の態度に、
「貴方……?ミライ、どうした?いつもならベルって呼んでただろ?」
「いや、ごめん。頭がちょっと混乱してるんだ。記憶が抜け落ちているというか。貴方の名前は何だったかな?」
「ベルフェルト=アークだ。お前と一緒に旅をしていたベルだ。まさか、忘れたのか?」
顔を青ざめさせて、悲鳴のように叫ぶベルフェルト……。呼んでたという事だし、ベルでいいか。
「あー、ベル。俺の名前はミライ。自分の名前は解るんだ。ただ記憶の大半がごっそりと消えていてさ」
「僕の事を全く覚えてないのか?」
「ごめん、本当に何も覚えてない。ここがどこかも、俺が何をしていたのかも」
そして俺は、ベルに対して気になった事を尋ねてみる。
「俺への態度を見ていると友達だったみたいだな。思い出せるように頑張るけど、最初に信用できる友達に会えて良かったよ」
「……者だ」
ベルが俯き、小声で何かを言っている。
俯いた顔から水滴が落ちている。え、もしかして泣いてたりするのか……。
「えっと、何か悪い事言ったかな。あ、もしかして俺と敵同士だったり、とか?」
敵対者って言ったのかな?
「……婚約者だ!何が友達だったみたいだ、だ!この馬鹿、ミライの癖に!」
そして、水の入ったコップと薬を俺に投げつける。
危ない、と考えるとコップは俺の手元へと吸い寄せられた。
どうやら俺には不思議な力があるらしい。
ただその後で投げられた薬の袋は止める事ができず、顔に当たった。
コップと違ってこれなら怪我しないし、と思ったからだろうか。当たった薬袋は割と痛かった。
しかし、婚約者か。
それなら……、
「ごめん、ベル。えっと、ベルは女の子だったんだな」
「何を聞いていたんだ!さっき男だと説明したばかりだろう!」
えっと、じゃあ俺が女って、無い。
意識を下半身に集中させてみると、男である存在が感じられる。
つまり、俺とベルは男と男で婚約者で、よく解らなくなってきた。
何があったんだ、記憶を失う前の俺よ、と問い詰めたい。
「もういい、ミライが起きた事は伝えておく。僕もミライと婚約なんて嫌だったんだからな!」
そう言ってベルは部屋から飛び出していった。
強めに閉められたドアが次に開いたのは、五分くらい経ってからだった。
「あら、ミライ。目が覚めたのね」
次に現れたのは、妖艶な美女と、銀髪の美青年だった。
「ミライ、あたしの事は覚えてるかしら?」
妖艶な美女が自分を指さす。どことなく、先ほど飛び出して行ったベルの面影があった。
「すみません、俺どうやら記憶がなくなっているみたいで」
正直に答えると、妖艶な美女は眉をひそめた。
「そう……じゃあ自己紹介からかしら?あたしはミレン=アーク。ここ、アーク魔城の前王でベルの母親よ、現王のミライ様」
え……。何だかさらりと凄い事を言われた気がするんだけど。
銀髪の美青年は俺の方へと跪くと、
「なんという事でしょうか。ミライ様、私の、私の事は覚えていらっしゃいますか?アーク魔国の宰相、ヴィータです」
腰まで伸びた艶やかなストレートの銀髪と、優しい雰囲気を感じさせる整った顔立ち。
高い身長と声から男性であるという事は解るのだが、女性であると言われても納得してしまいそうなヴィータ。
俺が首を横に振ると、ヴィータは涙を流して俺の手を握りしめた。
「なんと、おいたわしい事でしょう……。ミライ様が記憶を失われても、このヴィータの忠誠は変わりません」
お腹が空いた事を伝えると、ヴィータが侍女に食べ物を、と声をかけた。
侍女も全て美少女だった。
なんなんだろう、この美人のインフレ率は……。
「しかし、ベルもミレンさんもヴィータさんも。ヴィータさんのメイドさんまで全員が美形ばかりだなあ。目の保養になっていいけど」
そういうと、ミレンもヴィータも顔を引きつらせた。
「ミライ様、失礼ですが……ご自分の容姿の事もお忘れですか?」
そう言って、ヴィータは俺に鏡を見せてくる。
「……は?」
ベルもエレンもヴィータも、ありえないくらいの美人だった。
整いすぎて、美しい刃物を見ているような美人だった。
しかし……
口を開くと鏡の中の人物が口を開く。
片目を閉じると、鏡の中の人物も片目を閉じる。
「元々、我々夢魔は美しい容姿を持っておりますが……」
そしてヴィータは『魔力量が容姿に比例』する事を説明する。
ヴィータの鏡に鏡の中の俺は……
自分の想像で描く最高の美形を、圧倒的なまでに超越した……
想像上の天使よりも整った容姿をした……
生物的な畏怖、恐怖が生まれるくらい美しい容姿をしていた。
「ミライ様、貴方は【歴代最高の魔力】を持った夢魔の王、なのですよ」
ヴィータが持つ鏡の中の俺は、美しい顔を歪め、悲鳴を上げた。
消毒液のようなかすかに鼻を刺激する臭いが頭を揺さぶり、俺はそっと身体を起こす。
「ここは……どこだ?」
鈍っている頭を振り、状況を把握しようとする。
広い部屋の真ん中にベッドだけが置かれてあった。俺はそこで寝ているようだ。
少し高めのベッドから降り、あたりを見回してみる。
暗くて解らなかったが、ベッドは豪奢な作りで色々な所に細工が施してある。
石作りの部屋、見た事も無いその部屋を、俺は何故か懐かしいと感じていた。
何故、俺はこんな所に。
ベッドの傍にボタンがあった。
「ドクロマーク?」
赤色のボタンには、ドクロのマーク……骨でバツになっているマークが付いていた。
頭を整理しようとベッドに座りなおすと、ドアが開いた。
水と薬らしきものを両手に持っている人が現れた。
「……ッ!?ミライ。起きたのか?起きたらボタンを押せって言っただろ?」
起き上がっている俺を見て、小走りに駆け寄ってくる。
押せって……。あのドクロマークのボタンをか?
いやいや、押せないだろ……。
どう見ても押してはダメな造形だぞ?
両手に持った袋いっぱいの薬を片手に集め、空いた手で目までかかるサラサラとしたボリュームのある髪をかきあげる。
俺に顔を見せると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
金色の髪に緑色の目。恐ろしい程に整っている顔の美少女……?
どう見ても男性用に見える服装だった。
剣を吊った騎士服である。
丸みのない、折れるような細い身体つきを見て、俺は気になって尋ねた。
「えっと、貴方は女の子……だよね?」
「それは遠回しに僕の事を侮辱しているのか?僕が男らしくない、と?」
少し怒ったような口調で、麗しい騎士は俺を睨む。
どうやら男だったらしい。
男?どこが?
ヒゲもないし喉仏も隠れてる。
髪も長く顔立ちも精悍な感じはなく、綺麗に整っているし。
そうじろじろ見ていると、俺の態度に、
「貴方……?ミライ、どうした?いつもならベルって呼んでただろ?」
「いや、ごめん。頭がちょっと混乱してるんだ。記憶が抜け落ちているというか。貴方の名前は何だったかな?」
「ベルフェルト=アークだ。お前と一緒に旅をしていたベルだ。まさか、忘れたのか?」
顔を青ざめさせて、悲鳴のように叫ぶベルフェルト……。呼んでたという事だし、ベルでいいか。
「あー、ベル。俺の名前はミライ。自分の名前は解るんだ。ただ記憶の大半がごっそりと消えていてさ」
「僕の事を全く覚えてないのか?」
「ごめん、本当に何も覚えてない。ここがどこかも、俺が何をしていたのかも」
そして俺は、ベルに対して気になった事を尋ねてみる。
「俺への態度を見ていると友達だったみたいだな。思い出せるように頑張るけど、最初に信用できる友達に会えて良かったよ」
「……者だ」
ベルが俯き、小声で何かを言っている。
俯いた顔から水滴が落ちている。え、もしかして泣いてたりするのか……。
「えっと、何か悪い事言ったかな。あ、もしかして俺と敵同士だったり、とか?」
敵対者って言ったのかな?
「……婚約者だ!何が友達だったみたいだ、だ!この馬鹿、ミライの癖に!」
そして、水の入ったコップと薬を俺に投げつける。
危ない、と考えるとコップは俺の手元へと吸い寄せられた。
どうやら俺には不思議な力があるらしい。
ただその後で投げられた薬の袋は止める事ができず、顔に当たった。
コップと違ってこれなら怪我しないし、と思ったからだろうか。当たった薬袋は割と痛かった。
しかし、婚約者か。
それなら……、
「ごめん、ベル。えっと、ベルは女の子だったんだな」
「何を聞いていたんだ!さっき男だと説明したばかりだろう!」
えっと、じゃあ俺が女って、無い。
意識を下半身に集中させてみると、男である存在が感じられる。
つまり、俺とベルは男と男で婚約者で、よく解らなくなってきた。
何があったんだ、記憶を失う前の俺よ、と問い詰めたい。
「もういい、ミライが起きた事は伝えておく。僕もミライと婚約なんて嫌だったんだからな!」
そう言ってベルは部屋から飛び出していった。
強めに閉められたドアが次に開いたのは、五分くらい経ってからだった。
「あら、ミライ。目が覚めたのね」
次に現れたのは、妖艶な美女と、銀髪の美青年だった。
「ミライ、あたしの事は覚えてるかしら?」
妖艶な美女が自分を指さす。どことなく、先ほど飛び出して行ったベルの面影があった。
「すみません、俺どうやら記憶がなくなっているみたいで」
正直に答えると、妖艶な美女は眉をひそめた。
「そう……じゃあ自己紹介からかしら?あたしはミレン=アーク。ここ、アーク魔城の前王でベルの母親よ、現王のミライ様」
え……。何だかさらりと凄い事を言われた気がするんだけど。
銀髪の美青年は俺の方へと跪くと、
「なんという事でしょうか。ミライ様、私の、私の事は覚えていらっしゃいますか?アーク魔国の宰相、ヴィータです」
腰まで伸びた艶やかなストレートの銀髪と、優しい雰囲気を感じさせる整った顔立ち。
高い身長と声から男性であるという事は解るのだが、女性であると言われても納得してしまいそうなヴィータ。
俺が首を横に振ると、ヴィータは涙を流して俺の手を握りしめた。
「なんと、おいたわしい事でしょう……。ミライ様が記憶を失われても、このヴィータの忠誠は変わりません」
お腹が空いた事を伝えると、ヴィータが侍女に食べ物を、と声をかけた。
侍女も全て美少女だった。
なんなんだろう、この美人のインフレ率は……。
「しかし、ベルもミレンさんもヴィータさんも。ヴィータさんのメイドさんまで全員が美形ばかりだなあ。目の保養になっていいけど」
そういうと、ミレンもヴィータも顔を引きつらせた。
「ミライ様、失礼ですが……ご自分の容姿の事もお忘れですか?」
そう言って、ヴィータは俺に鏡を見せてくる。
「……は?」
ベルもエレンもヴィータも、ありえないくらいの美人だった。
整いすぎて、美しい刃物を見ているような美人だった。
しかし……
口を開くと鏡の中の人物が口を開く。
片目を閉じると、鏡の中の人物も片目を閉じる。
「元々、我々夢魔は美しい容姿を持っておりますが……」
そしてヴィータは『魔力量が容姿に比例』する事を説明する。
ヴィータの鏡に鏡の中の俺は……
自分の想像で描く最高の美形を、圧倒的なまでに超越した……
想像上の天使よりも整った容姿をした……
生物的な畏怖、恐怖が生まれるくらい美しい容姿をしていた。
「ミライ様、貴方は【歴代最高の魔力】を持った夢魔の王、なのですよ」
ヴィータが持つ鏡の中の俺は、美しい顔を歪め、悲鳴を上げた。
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