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二章 大国の第一王女、マイナ

エヌべディア王国、マイナ誕生 その3

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「マイナ、お前は可愛いなぁ、可愛いなぁ」
「……ジーフォス。マイナが嫌がってますよ?」
 マイナを抱き、ゆっくり揺らすジーフォスに、フェルミは呆れたように言った。
 
「……そ、そんなことはない。マイナも喜んでいるはずだ!」
 
 なぁ、マイナ……。お父さんの事が好きだよな?と同じことを何度も聞くジーフォスを見て、
 壊れたのではないかと心配するフェルミだった。

 それからというもの。
 時間があれば毎日のように正妃の元へと向かい、マイナを眺めては顔を緩ませる。
 先に出産した第二夫人ケプラと第三夫人アンペアは面白くなかった。

「私たちにも子供がいるのよ?」
「私たちの時はあんなに構ってくれなかったのに」
「フェルミ様の子供だけでなく私たちの子供にもきちんと会う時間を作ってくださいません?」
 第三夫人はアンペアと第二夫人はケプラは、ジーフォスを睨みつける。
 
「しかしだな……マイナがものすごく可愛くて」
「何を言ってるんですか!?私たちの子供もあなたの子なのですよ!?」
「私たちの子供は可愛くないと言うのですか?」

 ものすごい剣幕の二人に、ジーフォスはただ頭を下げて謝った。
「そんなわけがないだろう、ケプラの子もアンペアの子もすごくかわいいに決まっている」

 その一言で溜飲を下げ、少し落ち着いた様子になる二人。 
「だが……フェルミの子は別なのだ。なんと言っていいか解らないがとにかく可愛いんだ。可愛さの種類が違うというか」
 喋れば喋る程に地雷を踏んでいくジーフォス。
 
 話にならないと、アンペアとケプラの二人がフェルミに対して文句でも言ってやろうとフェルミの部屋へと向かった。
 
「「か、可愛い!!!!」」
 薄暗い気持ちはすぐに吹き飛んでしまった。
 我が子より可愛いか、と言われると。二人とも我が子の方を愛しているし可愛いと答えるだろう。
 
 身悶えしながら、その赤ちゃんを抱っこさせて欲しいと正妃にせがんだ。
『可愛さの種類が違う』というジーフォスの言葉が解った気がした。
 
 もちろん、アンペアもケプラも我が子は大事だ。
 
「何、この感情!すっごく可愛い!」
 アンペアはフェルミの子を抱きながら、戸惑いにも似た感情を持った。
「マイナちゃんは一目見ただけで守らないと、という暴力的な可愛さを持っているわね」
「ちょっと。アンペア。私にも抱かせてちょうだい」

 自分の身内……例えば子供、兄弟、姉妹。母や父。
 彼らを見て、可愛いか?愛しているか?と聞かれると可愛いし、愛していると答えるだろう。
 
 だが、これは可愛さが違う。

 例えば、貴方は自分の子供が可愛いか?とたずねると、ほとんどの人が可愛いと答えるだろう。

 その後で、自分が好きなイケメン芸能人や、自分が好きな美女芸能人と並べて。
「どっちが可愛いか?」
 と聞くような物だ。可愛さの種類が違う。
 
 熱狂的なファンのような心境で、二人は世界一可愛い赤ちゃんのマイナを抱きしめる。
 
 後日、第三夫人アンペアの商会のネットワークで次のような記事がバラまかれた。
『女神教フェルミ様の第一子は女の子。第一王女マイナ誕生』
 執筆は第三夫人アンペア。
 大陸屈指の大学の首席卒業者、いつもは依頼を受けてお堅い記事を書くのだが、この時に彼女が書いたのは
 可愛い、可愛い、可愛い、と読むだけで知能指数が下がりそうな記事になっていた。
 世界的な商会のネットワークだ。第一王女、マイナの事が海を渡り世界中に広がっていく。

「天使が産まれたそうだな、おめでとう」
 隣国、アムド王国の王大使リーゼン。
 王大使妃フェルメール。
 苦笑いを浮かべながら、隣国の次期国王夫妻がやってきたのは、マイナが産まれて一月後。
 エヌベディアへ嫁いだ妹のケプラから連絡を受けてスケジュールを作りやってきた。
 
「お前にも息子が居ただろう。なんで第一夫人の子をそこまで立てるんだ」
「お兄様、本当にかわいいのよ?」
 そして、マイナの姿を見た時、二人は放心した。
 
「「……本当に天使だった!」」
 アムド王太子夫妻は、それから一月。
 当初の予定から滞在期間を二週間延ばし、いい加減帰ってこいとアムド国王に言われるまで居座りつづけた。 
 戻るときも名残惜しそうに帰っていったという。
 彼らが戻った後、自国で天使のようなマイナの話をし、アムド王国と近隣国でもマイナの話が広がっていく。
 
 
 教皇はエヌベディア王国に滞在する予定ではなかった。
「何?フェルミの子……?そんなの儂がいかなくてもええじゃろう?」
「フェルミ様の初子です。初孫ですし、せっかく近くまで来たのですし。ご挨拶だけでもされてはいかがですか?」
「名前は何と言うんじゃ……?マイナ?それは経典の天使様の名前じゃろう……あのバカ娘が……。説教してやるわ」

 そのまま滞在して一月になる。
「のう、フェルミ。マイナちゃんの可愛さは一国には手に余るじゃろう?教会へ預けてくれたらワシが責任をもって育て……?ダメ……?ならもう一回抱っこさせてくれんか?」
 孫、というだけでも可愛いのに世界一可愛い天使のような赤ちゃんだ。
 フェルミの父……女神教の教皇もマイナから全く離れようとしなかった。
 
 可愛い一人娘の産んだ子。
 初孫。
 天使のような可愛い赤ちゃん。
 
 三つの要素があわさり、ノックアウトされた女神教の教皇はずっと滞在していた。
 
「ワシ、もう引退してここで孫と暮らそうかのう?ほれ、マイナちゃんも爺ちゃんと一緒のほうが嬉しいよのう?」
「何言ってるの……お父さん、早く帰らないと。仕事が溜まってると枢機卿の方からお手紙がきてますよ?」

 女神教の本部に帰った後、マイナは祖父から聖女として認定された。

「聖女じゃから教会におるのが普通なんじゃなかろうか?のう、ジーフォス。どう思う?」
「お義父さん、マイナはあげませんよ……?」

 赤ちゃんの時から聖女に認定されたマイナの話は、女神教を通じて世界中で広がっていく。
 

 さりげなくつけたチート。
 誰から見ても世界で一番美しいと感じるチートは、とんでもない事になっていた。

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