上 下
15 / 23
二章 大国の第一王女、マイナ

テルイン公国の外交官

しおりを挟む
 シピウ大陸、テルイン公国の外務官。
 ブロードウェル伯爵は調査のためエヌべディア王国にやってきた。
「ハズレくじを引かされたな」
 そうブロードウェル伯爵は顔を顰めた。

 技術レベル、文化レベルが高ければ、貿易を。
 低ければ戦力を調査し植民地化できるかどうか。

 天使の生まれ変わりだと大騒ぎし、別大陸までその名の轟くマイナ王女の話を聞き、
「あぁ……まだ蛮族の国か」
 そういう印象を持っていた。

 文化レベルが低い国は、国民をまとめるために理由がいる。
 どこの国の王族でも、昔に遡れば神様の一族だったり、天からの使いであったり。
 そういう権威を持って統治することはよくある。

「第一王女が天使の生まれ変わり。それも奇跡を起こしたわけでもなく、何かをなしたわけでもなく。ただ可愛いというだけでよく倒れる病弱なガキを神格化か」
 誰に聞かせるでもなく、ブロードウェル伯爵はひとりごちた。

 第一夫人も伴い、面会の申込み。
 二日後に約束をとりつけ、伴った第一夫人はこの国の王妃に誘われて午後から王妃様の招待でお茶会。

 異国のホテルでブロードウェル伯爵は暇を潰そうと街に降りた。

 町の中央には貴族向けの店も並ぶが、その国を知るには庶民に近いほうがいいと、テントが張られたちいさな仮設店舗が集まる場所へと赴く。

 ジュウジュウといい匂いがする串焼きを指さし、一本貰おうと言ってみる。
 一口齧ると香ばしい匂いが鼻をつく。

 庶民の店で香辛料。
 庶民は貧しくなさそうだ。
 善政を敷いているのだろうな、と少しだけエヌべディア王国の評価を上方修正する。

「ん、その絵はなんだ?」
「あぁ、これは我が国が誇る天からの使い。マイナ第一王女の肖像だよ」
 可愛らしい幼女が描かれていた。
 だがそれを見て、ブロードウェル伯爵は、『こんなものか』と思っていた。
 えてして肖像とは本人よりも美しく、可愛らしく描かせるもの。
 それを踏まえて、こんなものかと値踏みする。
「あんた、外国の人かい?」
「む、そうだが。なぜ解った?」
 別大陸とはいえ、ブロードウェル伯爵の容姿はこの国の人達と似ている。
 言語も完璧に習得し、どこで見破られたのかと尋ねてみる。
「やれやれ、マイナ様。第一王女様の肖像を見ても拝まないとはな」
 拝む?何を言っているんだこいつは。
 崇拝に近い感情を持っている庶民の手前、こんなクソガキを拝めだと!と憤慨するわけにもいかず。
 一応手を合わせて拝みはしたがブロードウェルは納得できずホテルに帰りカバンを殴りつけた。
 そこへ伯爵夫人が戻ってくる。
「ん、どうしたんだ?」
「聞いてよ、マイナ第一王女が倒れたと言って、ほとんど話もできずに追い返されたわ」
「な、なんだと!?誘っておきながらゲストを追い返すとは……何という国だ!」
 例え子が倒れてもゲストをもてなす。それがマナーだ。自らの都合を優先するというのは、
「私を。私の妻を。そしてテルイン公国を軽く見ていると言う事だな」
 愛する妻を蔑ろにされた事で、額に青筋をたて怒りのあまり震えるブロードウェル伯爵。

「王との面会は明後日だ。お前も来て一言皮肉くらい言ってもよかろう」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...