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二章 大国の第一王女、マイナ
エヌべディア王国、マイナ誕生 その2
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苦しそうにベッドで喘ぐ王妃、フェルミを元気づけるように、声をかける。
「フェルミ様、もう少しです。頑張ってください」
産医が産まれた赤ちゃんをとりあげ、そっと揺らすと。その赤ちゃんは元気よく泣き出した。
良かった、元気に産まれてきてくれたようね、と産医は身体にどこか異常がないかチェックしていく。
手、足、お腹、背中。
まず、一通り撫でて、どこにも異常は無い事を確認する。
一見、健康に見えても出産の際に骨が折れていたり、内蔵が傷ついていたりする事がある。
その場合、すぐに治療をしなければ命に関わる事を産医は知っていた。
ほっと安堵の息をつき、産医は赤ちゃんの顔をそこで始めて見た。
今までニ百以上の赤ちゃんを取り上げてきたベテランの産医が、異常な感情に戸惑った。
「えっ……な、なに。この子……」
抱いた手を震わせながら、産医はその産まれたばかりの赤ちゃんを見る。
「……物凄く可愛い」
どう可愛いか言語化できない。
何百人も取り上げてきた彼女をして、見たことがないほど可愛い赤ちゃんだった。
世界で一番最初にフェルミの赤ちゃんの顔を見た彼女は、『この子はきっと世界で一番可愛い赤ちゃんに違いない』と確信していた。
赤ちゃんとは可愛いものだ。
育てられるために可愛くあれ。育てるために、可愛く感じよ。
そういう哺乳類の特徴によるものか。大抵の動物の赤ちゃんや子供は可愛く感じるようになっている。
例えば仔猫。
例えば仔犬。
仔兎に仔馬。
どれも愛らしいと感じないだろうか。
当然、人にもそういう感情はある。子供や赤ちゃんが可愛いのは当たり前なのだ。
だが産医はそういう可愛さとは次元が違う魂を揺さぶられるような可愛さを感じていた。
「おめでとうございます、元気な赤ちゃんですよ」
そういういつもの言葉を、
「おめでとうございます、世界で一番可愛い女の子の赤ちゃんですよ」
と言い間違えてしまうくらいに。
フェルミは生まれてきた赤ちゃんを抱くと、無事に産まれてきてくれた事に涙を流した。
「ああ……、なんて、なんて可愛いの。生まれてきてくれてありがとう」
実の娘、というだけでも可愛いのに、美貌チート効果でさらに効果が上がっている。
「神様、こんな可愛らしい子を授けてくださりありがとうございます」
ジーフォスに、産まれた連絡があったのは、それから半日後。
生まれたばかりの赤ちゃんが無事だと確認が終わり、ようやく連絡が入る。
フェルミにとっては初出産だが、ジーフォスは、第二妃、第三妃の出産を経験している。
その赤ちゃんを見て、ジーフォスは自分が間違っていた事を知る。
「可愛い。何という可愛さだ。これが本当に私の子だと?」
そう叫んでしまうほどに。
ああ、ずっとこの子の傍にいたい。
仕事を全て渡してでも時間を作り、一分でも、三十秒でもこの子の傍に居てやらねば。
「この子はマイナ、と名付けたいと思います」
「む……その名前は。しかし……」
ジーフォスはそっと赤ちゃんを優しく抱き上げた。
第一王女マイナ。
マイナはエヌベディア国に伝わる女神教の経典に出てくる導きの天使の名前であった。
普通なら自分の子に天使の名前など恐れ多くて付けられない名前だ。
熱心な女神教の信者が聞けば激怒するかもしれない。
だが名付けたのは、女神教の教皇の一人娘。
フェルミはきっとマイナに会えばみんな解ってくれるはずだ、と確信を持っていた。
「この子は、天使様の生まれ変わりではないかと思うのです」
「フェルミ様、もう少しです。頑張ってください」
産医が産まれた赤ちゃんをとりあげ、そっと揺らすと。その赤ちゃんは元気よく泣き出した。
良かった、元気に産まれてきてくれたようね、と産医は身体にどこか異常がないかチェックしていく。
手、足、お腹、背中。
まず、一通り撫でて、どこにも異常は無い事を確認する。
一見、健康に見えても出産の際に骨が折れていたり、内蔵が傷ついていたりする事がある。
その場合、すぐに治療をしなければ命に関わる事を産医は知っていた。
ほっと安堵の息をつき、産医は赤ちゃんの顔をそこで始めて見た。
今までニ百以上の赤ちゃんを取り上げてきたベテランの産医が、異常な感情に戸惑った。
「えっ……な、なに。この子……」
抱いた手を震わせながら、産医はその産まれたばかりの赤ちゃんを見る。
「……物凄く可愛い」
どう可愛いか言語化できない。
何百人も取り上げてきた彼女をして、見たことがないほど可愛い赤ちゃんだった。
世界で一番最初にフェルミの赤ちゃんの顔を見た彼女は、『この子はきっと世界で一番可愛い赤ちゃんに違いない』と確信していた。
赤ちゃんとは可愛いものだ。
育てられるために可愛くあれ。育てるために、可愛く感じよ。
そういう哺乳類の特徴によるものか。大抵の動物の赤ちゃんや子供は可愛く感じるようになっている。
例えば仔猫。
例えば仔犬。
仔兎に仔馬。
どれも愛らしいと感じないだろうか。
当然、人にもそういう感情はある。子供や赤ちゃんが可愛いのは当たり前なのだ。
だが産医はそういう可愛さとは次元が違う魂を揺さぶられるような可愛さを感じていた。
「おめでとうございます、元気な赤ちゃんですよ」
そういういつもの言葉を、
「おめでとうございます、世界で一番可愛い女の子の赤ちゃんですよ」
と言い間違えてしまうくらいに。
フェルミは生まれてきた赤ちゃんを抱くと、無事に産まれてきてくれた事に涙を流した。
「ああ……、なんて、なんて可愛いの。生まれてきてくれてありがとう」
実の娘、というだけでも可愛いのに、美貌チート効果でさらに効果が上がっている。
「神様、こんな可愛らしい子を授けてくださりありがとうございます」
ジーフォスに、産まれた連絡があったのは、それから半日後。
生まれたばかりの赤ちゃんが無事だと確認が終わり、ようやく連絡が入る。
フェルミにとっては初出産だが、ジーフォスは、第二妃、第三妃の出産を経験している。
その赤ちゃんを見て、ジーフォスは自分が間違っていた事を知る。
「可愛い。何という可愛さだ。これが本当に私の子だと?」
そう叫んでしまうほどに。
ああ、ずっとこの子の傍にいたい。
仕事を全て渡してでも時間を作り、一分でも、三十秒でもこの子の傍に居てやらねば。
「この子はマイナ、と名付けたいと思います」
「む……その名前は。しかし……」
ジーフォスはそっと赤ちゃんを優しく抱き上げた。
第一王女マイナ。
マイナはエヌベディア国に伝わる女神教の経典に出てくる導きの天使の名前であった。
普通なら自分の子に天使の名前など恐れ多くて付けられない名前だ。
熱心な女神教の信者が聞けば激怒するかもしれない。
だが名付けたのは、女神教の教皇の一人娘。
フェルミはきっとマイナに会えばみんな解ってくれるはずだ、と確信を持っていた。
「この子は、天使様の生まれ変わりではないかと思うのです」
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