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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE
2/6 その八
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はぁ……。
放課後。
今日も藤堂はんと一緒に桜花ちゃんを迎えに行ってるんやけど……藤堂はん、今日は積極的すぎひん?
なんや、ずっと話しかけてくるし。
最初はさっきの照れ隠しがあって、うまくかえせへんかったけど、それでも、藤堂はんは話しかけてくる。
普段なら、空気を読もうとして黙ってくれる……ちゃう、ここで空気を読もうとするのが分かってへんって言いたいんやけど!
それはさておき、声をかけてくるから……。
「……なんで今日は口数が多いんです?」
とつい、尋ねてしまった。
人の行動には必ず裏がある。表の顔、裏の顔。
二面性があるのが、人間。
人を始めから疑う事に……藤堂はんに邪推な考えなんてないと分かってるのに、聞かずにはいられない自分に自己嫌悪に陥るけど……。
「朝乃宮の事が知りたいんだ。仲良くやっていきたいからだ」
はぁあああああああああああ! いきなり! ドストレートすぎひん!
あかん! 顔が赤くなってしもうて、口元が緩んでまう!
えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ?
どういうこと? どういうこと!
どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん!
し、心臓の高鳴りがおさまらへん!
お、落ち着き!
どうせ……。
「……それって家族としてです? それとも……男女として……です?」
家族としてやろ……傷つきたくないからやろ……。
ウチは少し前まで藤堂はんのこと、臆病者やと思ってた。
伊藤はんを傷つけた藤堂はんを許せへんかった……。
藤堂はんは怖いんや……愛されることを……その愛が失われることを……。
その気持ち……今なら分かるわ……。
ウチかてそうやし……大切な人が出来たから……理解できた。
ウチも壊れるのが怖い……だから……だから……。
「両方だ」
……えっ?
ええええええええええええええええええええええええええええええええ!
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどういうこと!
「りょ、両方って……フツウはどちらか一つ……」
「両方で何が悪い? 誰が決めた?」
ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう!
おかしい! おかしい! おかしい!
選択肢になってない! 両方選択するとかぁ!
それとも、両方選択する選択肢があるの! しかも、男らしく言い切るし!
格好ええって思ってもうた!
お、落ち着かな! 落ち……。
「……あぁ」
藤堂はんの手……震えてる……。
ほんまは……怖いんや……それでも、ウチの事を……。
藤堂はんは臆病者やない。
本当に醜くて臆病者は……ウチや。
藤堂はんに勇気を見せてもろうた……それなら、ウチがするべきことは……。
勇気がわいてくる……好きって気持ちがあふれてくる……。
この人の想いに答えたい……支えたい……。
けど、分からへん……ウチは後何回……藤堂はんのことが好きになるの? 自覚するの?
これが一時的な熱だとしても……ウチは……本気で……命をかけて……藤堂はんについていく……そんな恋をしてる……。
そう自覚した……。
「……ついたな」
「つきましたね」
もうもうもうもう!
短すぎる! 照れてないで早く素直になればよかった!
結局、気持ちを伝えることができへんかった! ああぁ……自分のチキンさが恨めしい……。
もっと、もっと二人っきりで話しがしたかったのに!
けど、チャンスはある!
必ずウチが藤堂はんのパートナーになってみせる!
今からでも遅くない!
さっさと……。
「ちょっとまって~~!」
いきなり男の子がウチのスカートの裾を引っ張っている。
ウチ、男の人苦手やけど、幼稚園児はなんとか……。
「キタァアアアアアアア! アイドルめざしてごぉね~ん! さくらぐみのあいどる! マイキーです!」
「……」
誰……。
このご時世にはちまきとか……それに制服がゴールドやし。
キラキラしてるのは確かやけど……。
「マイキーね! ふけがおだからどんなこともあまりきにしないの! きのう、エリカちゃんにこくはくしたんだけど、『としうえのおとこのこはこのみじゃないから』っていわれたの! おないとしなんですけど~~~~~! でも、ちっぽけなことは~きにするな! そ~れ~バング! バング! バング!」
「……」
「マイキーね! ぱぱとままからうそつきはどろぼうのはじまりだからだめだっていわれてるの。でも、ぱぱがままにないしょでおねえさんたちにあってるの! そのことをままにいおうとしたら、ぱぱが『ままにはしらないっていうんだ』っていって、きゃんでぃをくれた……って、おおおおおおおおおい! ぼくのぱぱはどろぼうよりもひどいよぉおおおおおおおおおおおお! でも、ちっぽけなことは~きにするな! そ~れ~バング! バング! バング!」
「……」
「マイキーね、パパとママとどうぶつえんにいったんだけど、ごさいからはゆうりょうっていわれたの。パパがおかねをはらおうとしたら、ママがぼくはよんさいだからむりょうだって……ぇええええええええええええええええ! こどものまえでうそをつかないでぇえええええええ! ぼく、ごさいですからぁああああ! でも、ちっぽけなことは~きにするな! そ~れ~バング! バング! バング!」
「……」
何でやろ……ウチ、また濃い幼稚園児に絡まれてる。
昨日は女の子で、今日は男の子。
また某芸人の真似した子が……。
「バング! バング! バング!」
「バング! バング! バング!」
「「「バング! バング! バング!」」」
いつの間にか、ウチを中心に輪が出来ていて、みんながバング! バング! って叫んでる。
微笑ましいわ~……ウチが無関係やったら……。
一つだけ、腹が立つことがある。それは……。
「藤堂はん……なんでウチをおいてくの……」
フツウ、一緒にいかへん? 置いていくとか、どういう神経してるん?
百年の恋も冷めたわ! すぐに沸騰するんやけど!
「「「バング! バング!」」」
「……」
「「「バング! バング!」」」
「……」
「「「バング! バング!」」」
えっ? これ、ウチ待ち?
子供達が期待と不安な目でこっちを見ている。
……。
「バ、バング……バング……」
「「「バング! バング!」」」
「バング! バング!」
「「「バング!」」」
これなに?
保育園のグラウンドでバングを叫ぶ幼児と女子高生。
ほんま、なんやろうね……。
「……またきたのね」
「……」
こ、この子は……。
ウチに絡んできた女の子はスマホを見せてくる。
彼氏の写真。
昨日、ウチにマウントをとってきた子。
「ふっ!」
ウチは自信満々に藤堂はんとのツーショットの写真を見せる。
今日の昼休みに撮った写真。
「……やるわね」
「当然」
女子高生が幼女に……以下略。
「それならキスしたことある?」
「き、キス!」
はぁ! はぁ! はぁあああああああああああああああああああああ!
こ、この子、五歳児(朝乃宮の決めつけ)のくせに、キスって!
いやいやいやいや! 落ち着き!
どうせ……。
「ほっぺにキスとか可愛ええな~」
「もちろん、くちよ!」
「なんやて!」
お、落ち着け! 呼吸を整え! 思考を止めたらあかん!
これは駆け引き! 絶対にブラフ!
たかが五歳児(朝乃宮の思い込み)がマウストゥマウスとか!
天地がひっくり返ってもありえへん!
「プププッ! まだなんだ~。こうこうせいのくせに!」
「……節度があるだけです」
「いいわけね! すきならキスなんてあたりまえでしょ!」
このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ!
「じゃあね~いきおくれさん!」
く~や~し~い~ぃ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ごめんなさいね。いつも子供達がアナタにまとわりついて」
「いえ……」
今日も昨日知り合った保母さんに案内されて保育園内を歩いている。
ほんま、朝乃宮が……あんなガキに……敗北するやなんて……。
完全に……負けた……。
「子供達も分かってるのよね……若くて綺麗な人と一緒にいれば楽しいって。ほんと、残酷よね……時間の流れも……男も……」
ウチ……もう、いやや……この保母さん、年下のウチが言うのもなんやけど、可愛えお人。
けど、だからこそ、闇が深くて関わりとうないわ。目がマジで怨嗟で気が狂ってる。
怖すぎる!
さて、桜花ちゃんとウチの旦那はんは……。
「……」
今……何か聞こえた……。
ウチは鍛え抜いた聴覚を研ぎ澄まし、集中する。
「……ぐすぅ……まま……」
聞こえた。
子供の男の子の声。五歳と推測。
昨日、今日、沢山の園児の声を聞いた。そこから予測。
「……まま……どこにいるの……まま……」
「……」
どうする?
ウチには関係のないこと。
悪いけど、ウチは家族を護ることしか行動せえへん。邪念に捕らわれたら、護れるもんも護れへん。
「……まま……むかえにきてよ……まま……さびしいよ……」
「……」
だから、ウチはぶれへん。迷わへん。
心の殺し方は知ってる。たたき込まれた。
今日かて、ウチは協力者の清洲はんとその家族、従業員をどん底に蹴り落とした。彼らは職を失い、清洲はんの両親は莫大な借金を背負うことになる。
ウチがやった……ウチが壊した……。
もう、この手は汚れてる。今更善人面できへん。
ウチは迷うことなく……。
「どうしたの、ボク? 泣いてるの?」
「……だれ?」
「ウチは……母親です」
ウチは男の子のトイレ前に立っている。
なぜ?
「なにしにきたの?」
「泣いている子がいるから、寄り添いにきました」
「よりそう?」
「一緒にいてあげるって意味です。涙が止まるまで」
ウチらしくない。朝乃宮あるまじき愚行。
それでも……。
「いいよ……おねえさんはぼくのままじゃないから……ままにあいたいんだ」
「ママはどこにいるの?」
「しごと……いつもいつもおそいの……さびしいよ……あいたいよ……まま……まま……」
ウチは顔も知らない男の子の涙を止めたい。
その理由は……。
「それなら、ウチはここで待ってます。キミがここから出てくるまで」
「どうして?」
「抱きしめてあげたいから」
そう、ウチがしてほしかったことを、この男の子にしてあげたい。
「ウチも寂しくてよく泣いてました。母様と父様に会いたくて、泣いてました」
トイレで一人、泣いてた。
きっと、迎えに来てくれる。そう信じて。
けど、迎えに来たのは朝乃宮の教育係で、無理矢理引っ張り出されて折檻され、倉の中でご飯抜きの罰を受けた。
寂しかった……辛かった……。
だから、分かるんよ……その辛い気持ち。胸が締め付けられる痛みが襲ってくる。
ずっと忘れてた……思い出そうともせえへんかった……。
だって、無駄やから……いくら想っても、もうウチの家族は……ウチを抱きしめてくれへんから……。
男の子の泣き声を聞いて、なぜか思い出してしもうた。
放っておけんくなった。
なんでやろ……自分でも分からへん……もしかして、清洲はんに罪悪感があって、それを関係ない子に優しくして償おうとしてる?
分からへん……。
けど、ウチは決めた。あの日、ウチがしてもらえへんかったことをやろうって……人のために何かしようって……。
「おねえちゃんも?」
「そう。ウチはキミの母親にはなれません。けど、抱きしめて、寂しさを和らげることができます」
「さびしさをやわらげる? どういうこと?」
「一人で泣かなくてええってことです。無理せんでええから……こっちに来てください」
がちゃ。
ドアの開く音が聞こえる。
出てきたのは一人の男の子。目に涙をため、不安げにウチを見てる。
ウチはそっと、男の子を抱きしめた。
「頑張ったな。えらいえらい」
「うっ……うわぁあああああああああああああああああ!」
ウチはずっと泣き止むまで男の子を抱きしめた。
ああっ、ウチも母様か父様に抱きしめられていたら……人生、変わってたんやろうか?
人を純粋に信じて、何のメリットも打算もなく、付き合えたんやろうか?
分からへん……分からへん……。
ウチはぎゅっと男の子を抱きしめた。
「お疲れ様。後は私が面倒を見るわ」
「……どうも」
男の子は泣き疲れ、眠ってしまった。けど、笑顔を浮かべてる。
ええ、夢見てるとええんやけど。
ウチは保母さんに男の子を渡す。
「大変でしょ? 子供の面倒を見るのって。時々、思うの。子供は鏡みたいだって。自分の辛い過去、寂しい気持ちを映し出す鏡だって。忘れてたのにね」
「……」
子供から教わることは多いと思う。
けど、飲み込まれたらあかん気がする。ウチらは大人やから、子供達を護らなあかんし。
もう、泣いているだけの子供ではいられへんし、子供を護るためには泣いていられへんから。
「せや、藤堂はんと桜花ちゃんを探さんと」
早く会いたい。
これ以上、一人にせんとって。
ウチは迷い子のように不安な気持ちで二人を探してると……。
「?」
窓の外にエプロンをした二人の男女が見えた。
あれは……保育士?
子供放ったらかしにして、何を……。
「はああああああああああああああ!」
えっ! 今! アレした! アレした!
な、なななななななななななななななななにしてるの、あの二人!
恋人なん! けど、園内で……。
「ちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
えええええええええええええええええええ!
は、破廉恥や! あんなことする! この真っ昼間に! こ、子供作る気! 保育園で!
自給自足かいな!
あ、あかん! 目をそらしたいけど、リアル昼ドラに目が離せ……。
「ちっ! まるで猿ね! 白昼堂々と……呪い殺したいわ……死ね……死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」
ちょぉ! まだいたん、ブラック保母さん! 幼児の教育に悪いから、はよ、部屋に移動しいな!
ついでに、ウチの心臓にも悪い! 保母さん、めっちゃ怨嗟で満ちあふれた顔しているわ!
強はんもびっくりの超ドストライクの呪詛唱え始めてるし!
殺気を隠す気すらないし!
あかん! そばにるだけで、生気が吸い取られる!
も、もう無理……藤堂はんを探して即離脱……って!
「たつなんて、ずるいぞ! はんそくだ!」
「反則はお前だ! こら! 靴下が汚れるから外を走るな!」
なにやってるの……。
藤堂はんは桜花ちゃんを抱っこしながら、靴も履かんと幼児を追いかけ回してる……。
カオスすぎる……。
はぁ……ウチの日常がドス黒いものから、パロディになってるのは気のせいやろうか?
確かに世界が変わって欲しいとは思ってたけど、これは流石に想定外……つ、疲れるわ……。
放課後。
今日も藤堂はんと一緒に桜花ちゃんを迎えに行ってるんやけど……藤堂はん、今日は積極的すぎひん?
なんや、ずっと話しかけてくるし。
最初はさっきの照れ隠しがあって、うまくかえせへんかったけど、それでも、藤堂はんは話しかけてくる。
普段なら、空気を読もうとして黙ってくれる……ちゃう、ここで空気を読もうとするのが分かってへんって言いたいんやけど!
それはさておき、声をかけてくるから……。
「……なんで今日は口数が多いんです?」
とつい、尋ねてしまった。
人の行動には必ず裏がある。表の顔、裏の顔。
二面性があるのが、人間。
人を始めから疑う事に……藤堂はんに邪推な考えなんてないと分かってるのに、聞かずにはいられない自分に自己嫌悪に陥るけど……。
「朝乃宮の事が知りたいんだ。仲良くやっていきたいからだ」
はぁあああああああああああ! いきなり! ドストレートすぎひん!
あかん! 顔が赤くなってしもうて、口元が緩んでまう!
えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ?
どういうこと? どういうこと!
どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん!
し、心臓の高鳴りがおさまらへん!
お、落ち着き!
どうせ……。
「……それって家族としてです? それとも……男女として……です?」
家族としてやろ……傷つきたくないからやろ……。
ウチは少し前まで藤堂はんのこと、臆病者やと思ってた。
伊藤はんを傷つけた藤堂はんを許せへんかった……。
藤堂はんは怖いんや……愛されることを……その愛が失われることを……。
その気持ち……今なら分かるわ……。
ウチかてそうやし……大切な人が出来たから……理解できた。
ウチも壊れるのが怖い……だから……だから……。
「両方だ」
……えっ?
ええええええええええええええええええええええええええええええええ!
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどういうこと!
「りょ、両方って……フツウはどちらか一つ……」
「両方で何が悪い? 誰が決めた?」
ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう!
おかしい! おかしい! おかしい!
選択肢になってない! 両方選択するとかぁ!
それとも、両方選択する選択肢があるの! しかも、男らしく言い切るし!
格好ええって思ってもうた!
お、落ち着かな! 落ち……。
「……あぁ」
藤堂はんの手……震えてる……。
ほんまは……怖いんや……それでも、ウチの事を……。
藤堂はんは臆病者やない。
本当に醜くて臆病者は……ウチや。
藤堂はんに勇気を見せてもろうた……それなら、ウチがするべきことは……。
勇気がわいてくる……好きって気持ちがあふれてくる……。
この人の想いに答えたい……支えたい……。
けど、分からへん……ウチは後何回……藤堂はんのことが好きになるの? 自覚するの?
これが一時的な熱だとしても……ウチは……本気で……命をかけて……藤堂はんについていく……そんな恋をしてる……。
そう自覚した……。
「……ついたな」
「つきましたね」
もうもうもうもう!
短すぎる! 照れてないで早く素直になればよかった!
結局、気持ちを伝えることができへんかった! ああぁ……自分のチキンさが恨めしい……。
もっと、もっと二人っきりで話しがしたかったのに!
けど、チャンスはある!
必ずウチが藤堂はんのパートナーになってみせる!
今からでも遅くない!
さっさと……。
「ちょっとまって~~!」
いきなり男の子がウチのスカートの裾を引っ張っている。
ウチ、男の人苦手やけど、幼稚園児はなんとか……。
「キタァアアアアアアア! アイドルめざしてごぉね~ん! さくらぐみのあいどる! マイキーです!」
「……」
誰……。
このご時世にはちまきとか……それに制服がゴールドやし。
キラキラしてるのは確かやけど……。
「マイキーね! ふけがおだからどんなこともあまりきにしないの! きのう、エリカちゃんにこくはくしたんだけど、『としうえのおとこのこはこのみじゃないから』っていわれたの! おないとしなんですけど~~~~~! でも、ちっぽけなことは~きにするな! そ~れ~バング! バング! バング!」
「……」
「マイキーね! ぱぱとままからうそつきはどろぼうのはじまりだからだめだっていわれてるの。でも、ぱぱがままにないしょでおねえさんたちにあってるの! そのことをままにいおうとしたら、ぱぱが『ままにはしらないっていうんだ』っていって、きゃんでぃをくれた……って、おおおおおおおおおい! ぼくのぱぱはどろぼうよりもひどいよぉおおおおおおおおおおおお! でも、ちっぽけなことは~きにするな! そ~れ~バング! バング! バング!」
「……」
「マイキーね、パパとママとどうぶつえんにいったんだけど、ごさいからはゆうりょうっていわれたの。パパがおかねをはらおうとしたら、ママがぼくはよんさいだからむりょうだって……ぇええええええええええええええええ! こどものまえでうそをつかないでぇえええええええ! ぼく、ごさいですからぁああああ! でも、ちっぽけなことは~きにするな! そ~れ~バング! バング! バング!」
「……」
何でやろ……ウチ、また濃い幼稚園児に絡まれてる。
昨日は女の子で、今日は男の子。
また某芸人の真似した子が……。
「バング! バング! バング!」
「バング! バング! バング!」
「「「バング! バング! バング!」」」
いつの間にか、ウチを中心に輪が出来ていて、みんながバング! バング! って叫んでる。
微笑ましいわ~……ウチが無関係やったら……。
一つだけ、腹が立つことがある。それは……。
「藤堂はん……なんでウチをおいてくの……」
フツウ、一緒にいかへん? 置いていくとか、どういう神経してるん?
百年の恋も冷めたわ! すぐに沸騰するんやけど!
「「「バング! バング!」」」
「……」
「「「バング! バング!」」」
「……」
「「「バング! バング!」」」
えっ? これ、ウチ待ち?
子供達が期待と不安な目でこっちを見ている。
……。
「バ、バング……バング……」
「「「バング! バング!」」」
「バング! バング!」
「「「バング!」」」
これなに?
保育園のグラウンドでバングを叫ぶ幼児と女子高生。
ほんま、なんやろうね……。
「……またきたのね」
「……」
こ、この子は……。
ウチに絡んできた女の子はスマホを見せてくる。
彼氏の写真。
昨日、ウチにマウントをとってきた子。
「ふっ!」
ウチは自信満々に藤堂はんとのツーショットの写真を見せる。
今日の昼休みに撮った写真。
「……やるわね」
「当然」
女子高生が幼女に……以下略。
「それならキスしたことある?」
「き、キス!」
はぁ! はぁ! はぁあああああああああああああああああああああ!
こ、この子、五歳児(朝乃宮の決めつけ)のくせに、キスって!
いやいやいやいや! 落ち着き!
どうせ……。
「ほっぺにキスとか可愛ええな~」
「もちろん、くちよ!」
「なんやて!」
お、落ち着け! 呼吸を整え! 思考を止めたらあかん!
これは駆け引き! 絶対にブラフ!
たかが五歳児(朝乃宮の思い込み)がマウストゥマウスとか!
天地がひっくり返ってもありえへん!
「プププッ! まだなんだ~。こうこうせいのくせに!」
「……節度があるだけです」
「いいわけね! すきならキスなんてあたりまえでしょ!」
このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ! このガキ!
「じゃあね~いきおくれさん!」
く~や~し~い~ぃ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ごめんなさいね。いつも子供達がアナタにまとわりついて」
「いえ……」
今日も昨日知り合った保母さんに案内されて保育園内を歩いている。
ほんま、朝乃宮が……あんなガキに……敗北するやなんて……。
完全に……負けた……。
「子供達も分かってるのよね……若くて綺麗な人と一緒にいれば楽しいって。ほんと、残酷よね……時間の流れも……男も……」
ウチ……もう、いやや……この保母さん、年下のウチが言うのもなんやけど、可愛えお人。
けど、だからこそ、闇が深くて関わりとうないわ。目がマジで怨嗟で気が狂ってる。
怖すぎる!
さて、桜花ちゃんとウチの旦那はんは……。
「……」
今……何か聞こえた……。
ウチは鍛え抜いた聴覚を研ぎ澄まし、集中する。
「……ぐすぅ……まま……」
聞こえた。
子供の男の子の声。五歳と推測。
昨日、今日、沢山の園児の声を聞いた。そこから予測。
「……まま……どこにいるの……まま……」
「……」
どうする?
ウチには関係のないこと。
悪いけど、ウチは家族を護ることしか行動せえへん。邪念に捕らわれたら、護れるもんも護れへん。
「……まま……むかえにきてよ……まま……さびしいよ……」
「……」
だから、ウチはぶれへん。迷わへん。
心の殺し方は知ってる。たたき込まれた。
今日かて、ウチは協力者の清洲はんとその家族、従業員をどん底に蹴り落とした。彼らは職を失い、清洲はんの両親は莫大な借金を背負うことになる。
ウチがやった……ウチが壊した……。
もう、この手は汚れてる。今更善人面できへん。
ウチは迷うことなく……。
「どうしたの、ボク? 泣いてるの?」
「……だれ?」
「ウチは……母親です」
ウチは男の子のトイレ前に立っている。
なぜ?
「なにしにきたの?」
「泣いている子がいるから、寄り添いにきました」
「よりそう?」
「一緒にいてあげるって意味です。涙が止まるまで」
ウチらしくない。朝乃宮あるまじき愚行。
それでも……。
「いいよ……おねえさんはぼくのままじゃないから……ままにあいたいんだ」
「ママはどこにいるの?」
「しごと……いつもいつもおそいの……さびしいよ……あいたいよ……まま……まま……」
ウチは顔も知らない男の子の涙を止めたい。
その理由は……。
「それなら、ウチはここで待ってます。キミがここから出てくるまで」
「どうして?」
「抱きしめてあげたいから」
そう、ウチがしてほしかったことを、この男の子にしてあげたい。
「ウチも寂しくてよく泣いてました。母様と父様に会いたくて、泣いてました」
トイレで一人、泣いてた。
きっと、迎えに来てくれる。そう信じて。
けど、迎えに来たのは朝乃宮の教育係で、無理矢理引っ張り出されて折檻され、倉の中でご飯抜きの罰を受けた。
寂しかった……辛かった……。
だから、分かるんよ……その辛い気持ち。胸が締め付けられる痛みが襲ってくる。
ずっと忘れてた……思い出そうともせえへんかった……。
だって、無駄やから……いくら想っても、もうウチの家族は……ウチを抱きしめてくれへんから……。
男の子の泣き声を聞いて、なぜか思い出してしもうた。
放っておけんくなった。
なんでやろ……自分でも分からへん……もしかして、清洲はんに罪悪感があって、それを関係ない子に優しくして償おうとしてる?
分からへん……。
けど、ウチは決めた。あの日、ウチがしてもらえへんかったことをやろうって……人のために何かしようって……。
「おねえちゃんも?」
「そう。ウチはキミの母親にはなれません。けど、抱きしめて、寂しさを和らげることができます」
「さびしさをやわらげる? どういうこと?」
「一人で泣かなくてええってことです。無理せんでええから……こっちに来てください」
がちゃ。
ドアの開く音が聞こえる。
出てきたのは一人の男の子。目に涙をため、不安げにウチを見てる。
ウチはそっと、男の子を抱きしめた。
「頑張ったな。えらいえらい」
「うっ……うわぁあああああああああああああああああ!」
ウチはずっと泣き止むまで男の子を抱きしめた。
ああっ、ウチも母様か父様に抱きしめられていたら……人生、変わってたんやろうか?
人を純粋に信じて、何のメリットも打算もなく、付き合えたんやろうか?
分からへん……分からへん……。
ウチはぎゅっと男の子を抱きしめた。
「お疲れ様。後は私が面倒を見るわ」
「……どうも」
男の子は泣き疲れ、眠ってしまった。けど、笑顔を浮かべてる。
ええ、夢見てるとええんやけど。
ウチは保母さんに男の子を渡す。
「大変でしょ? 子供の面倒を見るのって。時々、思うの。子供は鏡みたいだって。自分の辛い過去、寂しい気持ちを映し出す鏡だって。忘れてたのにね」
「……」
子供から教わることは多いと思う。
けど、飲み込まれたらあかん気がする。ウチらは大人やから、子供達を護らなあかんし。
もう、泣いているだけの子供ではいられへんし、子供を護るためには泣いていられへんから。
「せや、藤堂はんと桜花ちゃんを探さんと」
早く会いたい。
これ以上、一人にせんとって。
ウチは迷い子のように不安な気持ちで二人を探してると……。
「?」
窓の外にエプロンをした二人の男女が見えた。
あれは……保育士?
子供放ったらかしにして、何を……。
「はああああああああああああああ!」
えっ! 今! アレした! アレした!
な、なななななななななななななななななにしてるの、あの二人!
恋人なん! けど、園内で……。
「ちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
えええええええええええええええええええ!
は、破廉恥や! あんなことする! この真っ昼間に! こ、子供作る気! 保育園で!
自給自足かいな!
あ、あかん! 目をそらしたいけど、リアル昼ドラに目が離せ……。
「ちっ! まるで猿ね! 白昼堂々と……呪い殺したいわ……死ね……死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」
ちょぉ! まだいたん、ブラック保母さん! 幼児の教育に悪いから、はよ、部屋に移動しいな!
ついでに、ウチの心臓にも悪い! 保母さん、めっちゃ怨嗟で満ちあふれた顔しているわ!
強はんもびっくりの超ドストライクの呪詛唱え始めてるし!
殺気を隠す気すらないし!
あかん! そばにるだけで、生気が吸い取られる!
も、もう無理……藤堂はんを探して即離脱……って!
「たつなんて、ずるいぞ! はんそくだ!」
「反則はお前だ! こら! 靴下が汚れるから外を走るな!」
なにやってるの……。
藤堂はんは桜花ちゃんを抱っこしながら、靴も履かんと幼児を追いかけ回してる……。
カオスすぎる……。
はぁ……ウチの日常がドス黒いものから、パロディになってるのは気のせいやろうか?
確かに世界が変わって欲しいとは思ってたけど、これは流石に想定外……つ、疲れるわ……。
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