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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE
2/6 その六
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「はぁ……」
ウチは自己嫌悪でため息をつく。
ため息は白く、すぐに消えていく。気分は最悪。
何が下手な幸せは諦めて利用することだけを考えろうや。正気を保てへんや。
厨二病なん? 最も嫌いな『朝乃宮』と同じ方法をとるやなんて……骨の髄まで染まってるわ……朝乃宮の外道が……。
それでも……ウチは護りたい……咲と……藤堂はんを……ウチの家族を……。
「あっ、やっときた。寒いんだから、待たせないで」
ウチが向かった場所に、待ち合わせていた相手、三小はんがいた。
三小はんはウチが利用している協力者の生徒の一人。
「立場分かってます? それより、報告を」
三小はんは舌打ちするけど、無視。
はよう報告して欲しい。寒いのはウチも一緒やし、藤堂はんや桜花ちゃんを待たせてる。
さっさと帰りたい。
「多分解決した」
「多分?」
ウチは眉をひそめる。
三小はんは面倒くさそうに口を開く。
「秋脇のこと、風紀委員の藤堂にチクっておいたから。アイツ、不良のくせに自称正義の味方だから、ああいうの? ワルぶってるヤツが許せないから勝手に潰してくれるでしょ? 知らんけど」
藤堂はんにチクった? はぁ? そんなことしたら、本末転倒や!
二年の秋脇って男子生徒は風紀委員でも生徒会でも問題になっていた。
恐喝は当たり前。付き合った彼女のDV、イジメ等、かなりの問題児。
万が一、咲が秋脇に目をつけられないよう、昼間の事もあって三小はんに見張らしておいたんやけど、まさか、ここで藤堂はんに押しつけるやなんて……。
格闘技経験者って情報があるし、大丈夫やろうか? 心配になってきた。
ああっ、コレ、ウチのミス。昼休みに処理しておくべきやった。
ウチの凡ミスにも腹が立つけど、一番腹立つのが、この三小。
「……それで?」
「それでって?」
「結果は? 勿論、確認してくれはったんやね?」
「だから、知らないって」
「それで解決したって言えます? ほんま、使えへんお人やね、あんさんは。子供でも、もっとちゃんとお使いしてくれますのに。それ以下とか」
侮蔑の言葉に、三小はんは睨み付けてくる。
「……ねえ、言葉に気をつけなよ。私、アンタのパシリじゃないし」
「猫でも恩をこんなに早く忘れることはないと思いますけど? 誰があんさん達を退学や警察から庇ったか? お忘れ?」
「……ただの冗談じゃん。結局、カネを受け取ったわけじゃないし」
「担任の教師に色仕掛けして、お金や単位を強要したことが冗談? 全然笑えませんけど?」
そう、彼女には犯罪歴がある。
生徒が犯罪を犯したとき、警察に補導されたとしても、学校に連絡は行かない。
それに学校が生徒の犯罪歴を問い合わせても、個人情報保護の観点から知ることは出来ない。
犯罪の内容や回数によるけど、犯罪歴は残るが、学校にバレることはない。
けど、学校内の犯罪は違う。
これも学校によるけど、喫煙や飲酒はせいぜい停学、暴力沙汰は生徒なら停学か注意、教師への暴力は停学、もしくは退学。
ただ、教師と生徒と恋愛は厳しめの処分が下る。性行為は「教員による児童生徒性暴力防止法」で同意の有無にかかわらず性暴力に該当。
教師は確実にバレたらクビ。生徒もそれ相応の処罰が下る。
三小はんは教師を美人局で脅し、金銭や単位を要求した。これは立派な犯罪で、恐喝罪や詐欺罪、強盗罪等が適応される。一発アウト。即退学。
ウチはそのネタを利用して、彼女を脅迫……もとい協力を仰ぎ、コキ使ってきた。
ウチが三小はんの事を助けたのは、彼女が有能……ではなく……。
「だからって、アンタには関係ないじゃん! 私に恨みでもあるわけ!」
「せやね。あんさんのことなんてどうでもよかったんですけど、咲を虐めようとしてたことは看過できません」
そう、咲を虐めようとしたから、見せしめにしただけ。
そして……。
「はぁ! 意味分かんない! キモイ! バカじゃないの!」
「あんさんもそろそろ勉強しとき。世の中、手を出してはいけない人種がいるってことを」
咲には朝乃宮がついている。朝乃宮に喧嘩を売るとどうなるか?
それを知らしめるため。
「はぁ? 意味分かんない! けど、アンタの言葉を思い知るのはアンタだけど」
「どういうことです?」
「こういうこと」
どこからともなく、一人の男が現れる。
その男は……。
「成翔先生……」
「いやあ、朝乃宮クン」
三小はんの隣には彼女が美人局をして脅していた成翔。
これは……。
「そう……敵の敵は味方、そういうこと……」
「僕たちは手を組むことにしたのさ。打倒朝乃宮クンをかがげてね」
「そういうこと」
ウチはため息をついた。
類は友を呼ぶ。まさにそれ。
まあ、ウチも大概やけど。
「複数の女子生徒に手を出した屑教師と手を組むやなんて、相当追い詰められてたみたいやね、三小はん」
「く、屑って……三小クン! キミからも教師は敬えと……」
「黙れ。親友のケイやユッコに手を出したこと、忘れてないから。こんな屑と手を組むなんて嫌だったけど、アンタに復讐する為に組んだだけ」
三小はんが成翔を脅迫したのは、親友に手を出したから。
これで懲らしめるだけだったら、美談だったかもしれへんけど、お金を巻き上げて服やカラオケといった遊びに使ったのでは、ただの犯罪者。
復讐でもなんでもない。
さて、この二人が組んだ、ということは……。
「朝乃宮、アンタにはこの場で土下座してワビいれて、十万、払ってもらうから」
「なんでウチが犯罪者に土下座せなあかんの?」
「は、犯罪者じゃないし! それはコイツ! それに犯罪じゃないから。アンタが私にワビるのは今までパシらせたこと。後、迷惑料」
はぁ……どの口が言うのやら。
犯罪者丸出しやん。人を脅してカネを巻き上げて痛み目にあってるのに、学ばんお人やね。
「もし、拒否したら……アンタもろとも道連れにするから」
「道連れ?」
「そう。私とアンタがこの屑を脅迫していた事を生徒指導主事に話すから」
「そう……そういうこと……」
「話しが早くて助かるわ、生徒会副会長。そうなったらどうなるか? 分かってるよね?」
はぁ……ほんま小物の考えそうなことやわ。
死ねばもろとも、というわけやね。
「ね、ねえ、三小クン……」
「気安く名前を呼ぶな!」
「す、すまない! いや、僕たち、共犯だよね!」
「「黙れ」」
ウチと三小はんの言葉が重なる。
女の敵は黙ってて。
「い、いや! 僕の要求がまだ言っていない!」
「……要求?」
「そうだ、朝乃宮クン! 僕はキミに散々こき使われ、いじめられた! そのせいで心に痛みを負った! それを癒やす為に、キミのカラダで奉仕してもらう!」
「「……」」
あ、頭痛くなってきた……三小はんも怒りをこらえてる。
ほんま、教師が聖職者でない、いい例やわ。下半身に支配されてるんとちゃう?
美人局で痛い目にあってるのに、この屑も懲りてないのが逆に凄いわ。軽蔑する。
「嫌とは言わせないよ~朝乃宮クン。僕が三小クンとキミに脅迫を受けたと証言すれば、キミは困るだろ? 三小クンも話を合わせてくれるから、キミもよくて停学。最悪退学だ。停学だとしても、復帰する頃には話しが全生徒に知れ渡って、生徒会副会長の座はおろか、居場所すらなくなる。転校するしかなくなるよね~? それに、キミが溺愛する上春クンも……」
「黙りなはれ。あんさんのような屑が咲の名前を口にしたら汚れるわ」
「うっ!」
ほんま、汚らわしい。もう我慢できへん。
ウチは行動に移すことにした。
「清洲はん、もう出てきてええです」
「……はい」
ウチの声に反応し、複数いる協力者の清洲はんが姿を現す。
清洲はんの手にはビデオカメラが握られていた。
「今ままでのこと、映像に撮らさせていただきました。これでウチが無実やと証明されます。浅知恵でしたな、三小はん」
「……」
清洲はんがここにいるのは偶然やない。ウチが視聴覚室に入る前に事前に連絡しておいた人物の一人。
三小はんが不審な動きをしていたのはとっくに気づいてた。だから、見張らせた。
まさか、仇敵の成翔と手を組んでいたとは思ってなかったけど。
成翔は容姿が綺麗なだけの屑男。複数の女子生徒に手を出していて、妊娠までさせた噂がある。事実やなかったけど、ゴムなしでヤッタのは裏が取れてる。
ほんま、屑。
もうここが縁の切れ目。二人は処分する。
「ど、どっどどどどどどどどどうするんだ、三小! こんなの、聞いてない!」
「黙れ、屑。朝乃宮……まさか、勝った気になってる?」
「?」
三小はんは勝ち誇った顔をしてる。
状況が分かってない? いえ、分かってないのは……。
「教えてやりなよ、清洲。録画してないって」
「清洲はん?」
「……ごめんなさい、朝乃宮さん……私……もう、アナタには従えません……」
ウチみたい。
はぁ……ほんま……ウチって信用ないな……。
「理由を聞いても?」
「……私、怖かった……父が経営している工場が経営難でメインバンクから融資を打ち切られたとき、朝乃宮さんが融資してくれる銀行を紹介してくれて……家族や従業員が路頭に迷うことがなくなった……本当に感謝してる」
「それなら……」
なんでウチを裏切るん? ウチ、救世主やん。
理解できへんねんけど。
「でも、怖かった……朝乃宮さんがいつ、融資を打ち切るのか……朝乃宮さんに逆らったらどうなるか……怖かった……」
「ウチは銀行員ではありませんよ。それにウチはただ清洲はんには青島祭を手伝ってもらう代わりに報酬として紹介しただけです。それ以上のことは望んでいませんでしたし、清洲はんから協力させて欲しいと言われたと思うんですけど?」
勿論、それだけやない。
ウチが清洲はんの工場の融資先を見つけたのは、持ち株を損切りさせたくなくて、手助けしただけ。
清洲はん個人を助けたくて助けたわけやない。
ちなみに青島祭の手伝いをお願いしたのは、伊藤はんに迷惑をかけたことへの償いで、何人かに声をかけたなかに清洲はんがいただけ。
けど、清洲はんは恩を返したいと言ってきかんかったから、適当にお願いしてただけやったんやけど……。
「だって! おかしいじゃないですか! 高校の文化祭手伝うだけで六千万の融資をしてくれる銀行を見つけてくれるなんて! 私! 怖くて……恐ろしくて……」
「……」
ウチは地面に落ちている石を拾う。
「なあ、清洲はん。この石、どう思います?」
「……ただの石ですけど? それが?」
「そうですね、ただの石です。けど、例えば、この石が親の形見や大切な人から贈られた物でしたら、どうです? ただの石と言えます?」
「それは……」
「清洲はんにとってただの石でも、他の人にとっては宝物ってこともあります。ウチにとって青島祭を手伝ってもらうことは、融資先を見つけるに値するものだっただけです」
物の価値は人で決まる。
例えば、スーパーで安売りしている百円以下の飲料水でも、砂漠では黄金よりも価値がある。
脱水症状で命の危機に瀕したとき、黄金では回復できへんから。コンビニがあれば、話しは別かもしれへんけど。
まあ、砂漠では恵みの雨なんて存在せえへんし、いろいろとあるけど、ウチが言いたいのは見方、状況によって価値は変動するもの。
だから、素直に報酬を受け取ってくれるだけでよかったのに。
清洲はんは別に部活に入っていないし、委員会で委員長といった立場でもない。スクールカースト上位でもない。
要はモブ。ウチにとって、それほど価値はないし、用済みやからウチからは何もせえへんのに。
「それで三小はん側について、ウチを脅迫しますの? 融資を打ち切らないようにって?」
「そうすることしか……この苦しみから解放されるには……これしか……」
はぁ……ほんま……こういうの、人徳がないって言うんやろか?
自業自得とは言え、少し悲しいわ。そんなこと言える立場やないけど。
「形勢逆転じゃないか! まあ、これも日頃の行いが悪いせいだよな!」
成翔が言うな!
「それじゃあ、ホテルに行こうか? 実はあと一回でスタンプカードが全部たまるんだ。たまったら、一回ホテル代がうくんだよ! 記念すべきその相手はキミに決めた!」
ぞくぅ!
最悪の台詞の後、成翔はウチの肩に手をかけてきた。嫌悪感と恐怖、冷や汗が湧き上がってくる。
あかん! これ、絶対無理!
ウチはありったけの力で成翔の手を払いのける。
体が硬直してふりほどくのが精一杯。
「いいね、その顔。そそるわ~。抵抗しても逆らえず、最後は僕のテクに酔いしれるんだから~萌えるわ~早く抱きてぇええ!」
「……いいから黙ってろ、屑。朝乃宮、まずは土下座しな! それから、最悪の男に抱かれなよ。いい罰でしょ? アンタにとっては」
確かに最悪の罰やわ。受けるかどうかは別として。
「土下座させるなら、下着で土下座させなよ。屈辱的だろ?」
「「「……」」」
はぁ……三小はんに同情するわ。こんな屑と手を組まなければならなかったことに。
けど、もう茶番は結構……。
この状況を打破する事は簡単やし、さっさと終わらせ……。
「おやおや、成翔先生。土下座とか抱くとか、不謹慎な言葉を連呼されてますが、本気ですかの?」
ウチは自己嫌悪でため息をつく。
ため息は白く、すぐに消えていく。気分は最悪。
何が下手な幸せは諦めて利用することだけを考えろうや。正気を保てへんや。
厨二病なん? 最も嫌いな『朝乃宮』と同じ方法をとるやなんて……骨の髄まで染まってるわ……朝乃宮の外道が……。
それでも……ウチは護りたい……咲と……藤堂はんを……ウチの家族を……。
「あっ、やっときた。寒いんだから、待たせないで」
ウチが向かった場所に、待ち合わせていた相手、三小はんがいた。
三小はんはウチが利用している協力者の生徒の一人。
「立場分かってます? それより、報告を」
三小はんは舌打ちするけど、無視。
はよう報告して欲しい。寒いのはウチも一緒やし、藤堂はんや桜花ちゃんを待たせてる。
さっさと帰りたい。
「多分解決した」
「多分?」
ウチは眉をひそめる。
三小はんは面倒くさそうに口を開く。
「秋脇のこと、風紀委員の藤堂にチクっておいたから。アイツ、不良のくせに自称正義の味方だから、ああいうの? ワルぶってるヤツが許せないから勝手に潰してくれるでしょ? 知らんけど」
藤堂はんにチクった? はぁ? そんなことしたら、本末転倒や!
二年の秋脇って男子生徒は風紀委員でも生徒会でも問題になっていた。
恐喝は当たり前。付き合った彼女のDV、イジメ等、かなりの問題児。
万が一、咲が秋脇に目をつけられないよう、昼間の事もあって三小はんに見張らしておいたんやけど、まさか、ここで藤堂はんに押しつけるやなんて……。
格闘技経験者って情報があるし、大丈夫やろうか? 心配になってきた。
ああっ、コレ、ウチのミス。昼休みに処理しておくべきやった。
ウチの凡ミスにも腹が立つけど、一番腹立つのが、この三小。
「……それで?」
「それでって?」
「結果は? 勿論、確認してくれはったんやね?」
「だから、知らないって」
「それで解決したって言えます? ほんま、使えへんお人やね、あんさんは。子供でも、もっとちゃんとお使いしてくれますのに。それ以下とか」
侮蔑の言葉に、三小はんは睨み付けてくる。
「……ねえ、言葉に気をつけなよ。私、アンタのパシリじゃないし」
「猫でも恩をこんなに早く忘れることはないと思いますけど? 誰があんさん達を退学や警察から庇ったか? お忘れ?」
「……ただの冗談じゃん。結局、カネを受け取ったわけじゃないし」
「担任の教師に色仕掛けして、お金や単位を強要したことが冗談? 全然笑えませんけど?」
そう、彼女には犯罪歴がある。
生徒が犯罪を犯したとき、警察に補導されたとしても、学校に連絡は行かない。
それに学校が生徒の犯罪歴を問い合わせても、個人情報保護の観点から知ることは出来ない。
犯罪の内容や回数によるけど、犯罪歴は残るが、学校にバレることはない。
けど、学校内の犯罪は違う。
これも学校によるけど、喫煙や飲酒はせいぜい停学、暴力沙汰は生徒なら停学か注意、教師への暴力は停学、もしくは退学。
ただ、教師と生徒と恋愛は厳しめの処分が下る。性行為は「教員による児童生徒性暴力防止法」で同意の有無にかかわらず性暴力に該当。
教師は確実にバレたらクビ。生徒もそれ相応の処罰が下る。
三小はんは教師を美人局で脅し、金銭や単位を要求した。これは立派な犯罪で、恐喝罪や詐欺罪、強盗罪等が適応される。一発アウト。即退学。
ウチはそのネタを利用して、彼女を脅迫……もとい協力を仰ぎ、コキ使ってきた。
ウチが三小はんの事を助けたのは、彼女が有能……ではなく……。
「だからって、アンタには関係ないじゃん! 私に恨みでもあるわけ!」
「せやね。あんさんのことなんてどうでもよかったんですけど、咲を虐めようとしてたことは看過できません」
そう、咲を虐めようとしたから、見せしめにしただけ。
そして……。
「はぁ! 意味分かんない! キモイ! バカじゃないの!」
「あんさんもそろそろ勉強しとき。世の中、手を出してはいけない人種がいるってことを」
咲には朝乃宮がついている。朝乃宮に喧嘩を売るとどうなるか?
それを知らしめるため。
「はぁ? 意味分かんない! けど、アンタの言葉を思い知るのはアンタだけど」
「どういうことです?」
「こういうこと」
どこからともなく、一人の男が現れる。
その男は……。
「成翔先生……」
「いやあ、朝乃宮クン」
三小はんの隣には彼女が美人局をして脅していた成翔。
これは……。
「そう……敵の敵は味方、そういうこと……」
「僕たちは手を組むことにしたのさ。打倒朝乃宮クンをかがげてね」
「そういうこと」
ウチはため息をついた。
類は友を呼ぶ。まさにそれ。
まあ、ウチも大概やけど。
「複数の女子生徒に手を出した屑教師と手を組むやなんて、相当追い詰められてたみたいやね、三小はん」
「く、屑って……三小クン! キミからも教師は敬えと……」
「黙れ。親友のケイやユッコに手を出したこと、忘れてないから。こんな屑と手を組むなんて嫌だったけど、アンタに復讐する為に組んだだけ」
三小はんが成翔を脅迫したのは、親友に手を出したから。
これで懲らしめるだけだったら、美談だったかもしれへんけど、お金を巻き上げて服やカラオケといった遊びに使ったのでは、ただの犯罪者。
復讐でもなんでもない。
さて、この二人が組んだ、ということは……。
「朝乃宮、アンタにはこの場で土下座してワビいれて、十万、払ってもらうから」
「なんでウチが犯罪者に土下座せなあかんの?」
「は、犯罪者じゃないし! それはコイツ! それに犯罪じゃないから。アンタが私にワビるのは今までパシらせたこと。後、迷惑料」
はぁ……どの口が言うのやら。
犯罪者丸出しやん。人を脅してカネを巻き上げて痛み目にあってるのに、学ばんお人やね。
「もし、拒否したら……アンタもろとも道連れにするから」
「道連れ?」
「そう。私とアンタがこの屑を脅迫していた事を生徒指導主事に話すから」
「そう……そういうこと……」
「話しが早くて助かるわ、生徒会副会長。そうなったらどうなるか? 分かってるよね?」
はぁ……ほんま小物の考えそうなことやわ。
死ねばもろとも、というわけやね。
「ね、ねえ、三小クン……」
「気安く名前を呼ぶな!」
「す、すまない! いや、僕たち、共犯だよね!」
「「黙れ」」
ウチと三小はんの言葉が重なる。
女の敵は黙ってて。
「い、いや! 僕の要求がまだ言っていない!」
「……要求?」
「そうだ、朝乃宮クン! 僕はキミに散々こき使われ、いじめられた! そのせいで心に痛みを負った! それを癒やす為に、キミのカラダで奉仕してもらう!」
「「……」」
あ、頭痛くなってきた……三小はんも怒りをこらえてる。
ほんま、教師が聖職者でない、いい例やわ。下半身に支配されてるんとちゃう?
美人局で痛い目にあってるのに、この屑も懲りてないのが逆に凄いわ。軽蔑する。
「嫌とは言わせないよ~朝乃宮クン。僕が三小クンとキミに脅迫を受けたと証言すれば、キミは困るだろ? 三小クンも話を合わせてくれるから、キミもよくて停学。最悪退学だ。停学だとしても、復帰する頃には話しが全生徒に知れ渡って、生徒会副会長の座はおろか、居場所すらなくなる。転校するしかなくなるよね~? それに、キミが溺愛する上春クンも……」
「黙りなはれ。あんさんのような屑が咲の名前を口にしたら汚れるわ」
「うっ!」
ほんま、汚らわしい。もう我慢できへん。
ウチは行動に移すことにした。
「清洲はん、もう出てきてええです」
「……はい」
ウチの声に反応し、複数いる協力者の清洲はんが姿を現す。
清洲はんの手にはビデオカメラが握られていた。
「今ままでのこと、映像に撮らさせていただきました。これでウチが無実やと証明されます。浅知恵でしたな、三小はん」
「……」
清洲はんがここにいるのは偶然やない。ウチが視聴覚室に入る前に事前に連絡しておいた人物の一人。
三小はんが不審な動きをしていたのはとっくに気づいてた。だから、見張らせた。
まさか、仇敵の成翔と手を組んでいたとは思ってなかったけど。
成翔は容姿が綺麗なだけの屑男。複数の女子生徒に手を出していて、妊娠までさせた噂がある。事実やなかったけど、ゴムなしでヤッタのは裏が取れてる。
ほんま、屑。
もうここが縁の切れ目。二人は処分する。
「ど、どっどどどどどどどどどうするんだ、三小! こんなの、聞いてない!」
「黙れ、屑。朝乃宮……まさか、勝った気になってる?」
「?」
三小はんは勝ち誇った顔をしてる。
状況が分かってない? いえ、分かってないのは……。
「教えてやりなよ、清洲。録画してないって」
「清洲はん?」
「……ごめんなさい、朝乃宮さん……私……もう、アナタには従えません……」
ウチみたい。
はぁ……ほんま……ウチって信用ないな……。
「理由を聞いても?」
「……私、怖かった……父が経営している工場が経営難でメインバンクから融資を打ち切られたとき、朝乃宮さんが融資してくれる銀行を紹介してくれて……家族や従業員が路頭に迷うことがなくなった……本当に感謝してる」
「それなら……」
なんでウチを裏切るん? ウチ、救世主やん。
理解できへんねんけど。
「でも、怖かった……朝乃宮さんがいつ、融資を打ち切るのか……朝乃宮さんに逆らったらどうなるか……怖かった……」
「ウチは銀行員ではありませんよ。それにウチはただ清洲はんには青島祭を手伝ってもらう代わりに報酬として紹介しただけです。それ以上のことは望んでいませんでしたし、清洲はんから協力させて欲しいと言われたと思うんですけど?」
勿論、それだけやない。
ウチが清洲はんの工場の融資先を見つけたのは、持ち株を損切りさせたくなくて、手助けしただけ。
清洲はん個人を助けたくて助けたわけやない。
ちなみに青島祭の手伝いをお願いしたのは、伊藤はんに迷惑をかけたことへの償いで、何人かに声をかけたなかに清洲はんがいただけ。
けど、清洲はんは恩を返したいと言ってきかんかったから、適当にお願いしてただけやったんやけど……。
「だって! おかしいじゃないですか! 高校の文化祭手伝うだけで六千万の融資をしてくれる銀行を見つけてくれるなんて! 私! 怖くて……恐ろしくて……」
「……」
ウチは地面に落ちている石を拾う。
「なあ、清洲はん。この石、どう思います?」
「……ただの石ですけど? それが?」
「そうですね、ただの石です。けど、例えば、この石が親の形見や大切な人から贈られた物でしたら、どうです? ただの石と言えます?」
「それは……」
「清洲はんにとってただの石でも、他の人にとっては宝物ってこともあります。ウチにとって青島祭を手伝ってもらうことは、融資先を見つけるに値するものだっただけです」
物の価値は人で決まる。
例えば、スーパーで安売りしている百円以下の飲料水でも、砂漠では黄金よりも価値がある。
脱水症状で命の危機に瀕したとき、黄金では回復できへんから。コンビニがあれば、話しは別かもしれへんけど。
まあ、砂漠では恵みの雨なんて存在せえへんし、いろいろとあるけど、ウチが言いたいのは見方、状況によって価値は変動するもの。
だから、素直に報酬を受け取ってくれるだけでよかったのに。
清洲はんは別に部活に入っていないし、委員会で委員長といった立場でもない。スクールカースト上位でもない。
要はモブ。ウチにとって、それほど価値はないし、用済みやからウチからは何もせえへんのに。
「それで三小はん側について、ウチを脅迫しますの? 融資を打ち切らないようにって?」
「そうすることしか……この苦しみから解放されるには……これしか……」
はぁ……ほんま……こういうの、人徳がないって言うんやろか?
自業自得とは言え、少し悲しいわ。そんなこと言える立場やないけど。
「形勢逆転じゃないか! まあ、これも日頃の行いが悪いせいだよな!」
成翔が言うな!
「それじゃあ、ホテルに行こうか? 実はあと一回でスタンプカードが全部たまるんだ。たまったら、一回ホテル代がうくんだよ! 記念すべきその相手はキミに決めた!」
ぞくぅ!
最悪の台詞の後、成翔はウチの肩に手をかけてきた。嫌悪感と恐怖、冷や汗が湧き上がってくる。
あかん! これ、絶対無理!
ウチはありったけの力で成翔の手を払いのける。
体が硬直してふりほどくのが精一杯。
「いいね、その顔。そそるわ~。抵抗しても逆らえず、最後は僕のテクに酔いしれるんだから~萌えるわ~早く抱きてぇええ!」
「……いいから黙ってろ、屑。朝乃宮、まずは土下座しな! それから、最悪の男に抱かれなよ。いい罰でしょ? アンタにとっては」
確かに最悪の罰やわ。受けるかどうかは別として。
「土下座させるなら、下着で土下座させなよ。屈辱的だろ?」
「「「……」」」
はぁ……三小はんに同情するわ。こんな屑と手を組まなければならなかったことに。
けど、もう茶番は結構……。
この状況を打破する事は簡単やし、さっさと終わらせ……。
「おやおや、成翔先生。土下座とか抱くとか、不謹慎な言葉を連呼されてますが、本気ですかの?」
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