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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/6 その三

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 放課後。
 ウチは生徒会室で会計の瀬名はんと一緒に生徒会長、氷室はんからの依頼を黙々と作業していた。
 内容は卒業式の準備と卒業生の送迎会の準備。
 三月初頭には今の三年は卒業するので、今から前準備しておきたい、というのが氷室はんからの説明で、本当は視聴覚室で行われる藤堂はんの査問会をウチに悟られないよう目くらまし。

 ウチが生徒会に入った理由の一つは咲が所属する風紀委員の風当たりを緩和させる為。
 風紀委員を擁護してきたから、氷室はんはウチを査問会に参加させたくないのが本音。
 会計の瀬名はんと氷室はんは、親の仕事の部下と雇い主の間柄にある。それ故、瀬名はんは氷室はんに逆らえない。
 氷室はんにとって、瀬名はんは部下。
 だから、監視役として、ウチと瀬名はんで作業をさせられている。

 瀬名はんはウチらと同学年で、表情を表に出さないクールな性格。
 綺麗に整った顔つきの美人さんでスタイルはええけど、冷たい目つきと全く笑わないポーカーフェイスで、同級生の男の子からは敬遠されているが、本人は全く気にしていない。
 同性代の男には興味ありません、って顔しているわ。
 けど、頭はキレるし、かなりの有能な子で、作業が早い。ウチも欲しい人材。

 瀬名はんは無駄を嫌うから必要最低限の会話のみ。黙々と作業を続けていく。
 窓の外を見ると、窓ガラスが結露して曇ってる。
 藤堂はんはもう、保育園についたやろうか? 桜花ちゃんは泣いてないやろうか?
 心配やわ……。

 さっさと面倒ごとは片付けよ。
 ウチには時間がない。無駄な事に時間を割く余裕はない。
 優秀な瀬名はんの監視を外れて視聴覚室に向かうには……。

 ~~♪

 スマホから着信音が聞こえる。

「はい」
「もうすぐ査問会が始まるから」
「了解」

 橘はんから連絡が来た。
 ウチも行動を開始する。

「どこに行かれるのですか?」

 ウチが立ち上がったことで、瀬名はんが声をかけてきた。
 勿論、対策済。

「お手洗いですけど、許可がいります?」
「それなら私も」

 瀬名はんも席を立つ。勿論、想定内。
 ウチらはトイレに向かう。
 その途中。

「お姉様!」

  ウチの知り合いの下級生の一人、町井はんがこっちにやってくる。

「どないしましたの? そんなに慌てて……」
「またなんです」
「そう……」

 ウチは目を細め、憂鬱な表情を作る。

「お姉様、その……」
「分かりました。ウチが対応します」
「ありがとうございます!」

 町井さんは笑顔で頭を下げる。

「副会長、どうかしたのですか?」
「別にたいしたことやありません。けど、ウチ、用事が出来ましたさかい、生徒会のお仕事、少しの間、お願いしてもよろしいです?」
「お姉様! 早く!」

 ウチは町井さんに手を引っ張られ、その場を離れようとしたけど……。

「待ってください、副会長。詳細を教えてください。もうすぐ、生徒会長が戻ってきます。そのとき、副会長が不在だと理由を聞かれますので、教えていただけませんか?」

 あれこれ理由をつけて、ウチを一人にさせない瀬名はんの行動も想定内。

「前から下級生の子から相談を受けてました事ですけど、家庭科室の隣にある準備室で、誰もいないのに物音が聞こえるって相談を受けてます。ただ、調べても何も発見できないのが現状です。今回も何も発見出来ないかもしれませんけど、町井さん達の不安を和らげる為にも、風紀委員としてウチが確認しているだけです」
「そうですか。それなら、私もついていきます」
「瀬名はんが? どうしてです?」

 想定内やけど、一応驚いた顔を作ってみせる。

「生徒の不安を解決するのも生徒会の業務の一つです。それに何かあったとき、生徒会として対応する必要があります」
「……」
「何か?」
「いえ……生徒会がそこまで生徒想いやなんて、感心してました」

 ここで食いついてくるのも想定内。
 それなら……。

「それなら、瀬名はんにお任せします」
「はい?」

 ここで初めて瀬名はんの表情に変化があらわれた。
 ウチはにっこりと微笑みながら、町井はんに伝える。

「瀬名はんが対応していただけるみたいやし、お譲りします。ウチは生徒会のお仕事を再開しておきますので、瀬名はん、頑張ってください」
「……待ってください。副会長は来られないのですか?」
「ただの物音だけやし、二人も必要ありません。逆に何人も押しかけたら、迷惑をおかけしますから。生徒会長の事は任せておいてください。ウチが報告しておきますから」
「で、ですが……」
「それに瀬名はんは空手の有段者ですし、何かあったときも後れをとることもないと思いますけど?」

 さて、どうでる?
 瀬名はんは少しだけ迷って……。

「それなら、私が生徒会の仕事に戻ります。風紀委員の業務に口出しをして申し訳ございません」
「ええっ……あんなこと言っておいて、お姉様に押しつけるとか……」

 町井はんが、瀬名はんを非難するけど……。

「……失礼します」

 瀬名はんは町井はんに背を向け、来た道を戻ろうとしたとき、急に立ち止まった。

「副会長、お手洗いはもうよろしいのですか?」
「瀬名はんと町井はんにトラブル対応お願いされてますさかい、終わってからにします。瀬名はんはよろしいのですか?」
「結構です」

 そう言い残し、去って行った。
 瀬名はんの姿が見えなくなったあと、ウチは町井はんに頭を下げる。

「おおきに、町井はん」
「いえ! お姉様のお願いなら、どんなことでも聞きますので!」

 そう、これはウチが仕込んでいたこと。
 ウチは咲を護るため、風紀委員のフォローをずっとしてきた。
 だから、氷室はんは藤堂はんの査問会を開けば、ウチが邪魔する事を予測していた。

 氷室はんは五時間目が終わった後の休憩時間にウチにメールで生徒会の仕事を依頼。
 そして、全ての授業が終わり、放課後、ウチが教室を出るよりも前に瀬名はんがウチの迎えに来て、そのまま生徒会室に直行。
 時間がかかる作業を押しつけ、ウチは生徒会室で査問会が終わるまでの時間稼ぎと足止めをされる計画。

 けど、ウチは前もって行動し、仕込みを終わらせておいた。
 そのうちの一つが町井さんにお願いして、ちょっとした事件の調査の依頼をするよう頼んだ。
 それが物音の件。

 物音の件は実際に過去にあったことで、咲と一緒に調査したことがある。結局、何もなかったんやけど、また同じ事が起こって何もなかったとしても、気のせいだったで済ますことが出来る。
 あのときは、咲は目をキラキラさせて調査しとったな……ポルターガイストとかいろいろと話してたっけ?

 この一件を使って、ウチは瀬名はんの監視を逃れることに成功。
 けど……。

「あの……お姉様」
「何です?」
「あの会計の人……生徒会室に戻ってませんよね? 違う方向に行ったと思うんですけど」
「町井はん、鋭いですね。そう、彼女は生徒会室に戻ってません」

 町井はんは最終手段で視聴覚室に先回りして、ウチが中には入れないよう足止めする気。
 それも想定内。

「そ、それだと……」
「大丈夫です。町井はん、これ、お礼の品です」
「い、いいんですか? 私、お姉様には何度も助けられているのに……今日だって助けてもらって……それなのにお礼をもらえるなんて……」

 眉を八の字にしている町井はんにウチは微笑みかける。

「ウチは町井はんが困っているから助けただけです。それ以上の理由が必要です? そこに見返りは求めてません。ウチは町井はんに仕事を依頼し、その報酬を渡しているに過ぎませんから。ウチの事、思ってくれるなら受け取ってもらえると助かります」
「……お姉様が喜んでもらえるのなら、受け取っておきます。また、何かあったら、声をかけてください! お礼なんかなくても、絶対にお姉様のお力になりますから!」
「おおきに」

 ウチは町井はんと別れて視聴覚室……やなくて、昇降口に向かった。



 外に出た後、ウチは靴を履き替え、上履きを持ったまま、校舎を歩いて行く。
 向かうのは一階の視聴覚室……の隣にある、準備室。
 視聴覚室で使用する機材や過去の動画データ等を保管している場所で、青島高校の視聴覚室は防音のため、窓が一つもないけど、準備室は窓がある。
 その窓からウチは中に入った。

 カギは六時間目と授業終了後のショートホームルームの間の時間に開けておいた。掃除は視聴覚室は一年が割り当たってるけど、準備室は掃除の対象外になってる。
 だから、カギをチョックされることはない。
 戸締まりは最終下校時間を過ぎた後、教員がチェックしている事もチェック済みやから、カギが閉められる可能性は低い。
 カギが閉まっていても、別の方法があるんやけど、開いてたから問題なし。

 瀬名はんも流石にこの手は読むことが出来ず、今も廊下で待ちぼうけをしているやろ。
 ウチは準備室のドアを開ける前に……スマホを取り出す。
 スマホの画像データには……今日藤堂はんとーショットで撮った写真があった。

 え……ええわぁああああああああああああああああああ!
 好きな人とのツーショット、頬を緩むのが抑えられへん! ニヤついてまう! 見つめてしまう!
 眉をひそめ、むすっとしてテレ隠ししている藤堂はん、可愛ええええええええええええええええ! ギャップがええわぁああああああああああああああああああああ!
 これって、絶対意識している! ほんま、真面目やから分かりやすい!
 頑張って距離を保ってくれてる感が丸わかりでええわぁあああああああああああああ!
 個人的には手をつないで撮りたかったけど、付き合ってもないのでハードル高いし、諦めてお互い直立で前に手を握っているポーズやけど、これはこれで! 初心者にはこれでええかも!
 
 ウチ、同性代の中では身長が高い方やけど、百九十五もある藤堂はんと並ぶとバランス悪!
 メチャ高いヒールはいて、やっと身長差十五センチをクリア。彼の身長が高すぎるのも難点かも。

 藤堂はん、ウチとのツーショットの画像、どうするんやろ? 待ち受け……にはせえへんな。藤堂はんの性格やと。
 どうせ、女性の画像データを待ち受けにするなんて、軟弱とか、俺は押なんとかじゃない! とか考えてそう。
 けど、ウチと同じで大事にとっておいてくれてると思ってる。大事な家族の写真やと思ってくれてる。
 そう想像しただけで胸の奥がぽかぽかする。安心感に包まれる。

 あかん! 緊張をほぐすつもりが、リラックスしすぎて緊張感が飛んでいったわ!
 ウチはギュッとスマホを握りしめた後、一息つく。
 この続きは帰ってからにしよ。威力ありすぎ!

 神経を集中し、雑念を捨てる。ウチが護るべき者を再度確認したと自覚出来た。
 ウチが最も欲しいもの。安らぎと信頼。
 それを藤堂はんは与えてくれる。
 周りは敵しかいなくて、身内の罵倒や罵声に耳を閉じて心を殺し、他人は誰も信用せず、利用されず、利用して生きていくことしか出来なかったウチにとって、咲と陽菜、藤堂はんはかけがえのない宝物。
 だから、絶対にウチが護る。
 スマホである人物に連絡を入れた後、ウチは堂々と準備室から視聴覚室へ入った。
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