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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/5 その四

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「ついたみたいだな」

 はぁ……もうついてもうた。
 藤堂はんはウチの歩幅に合わせてゆっくり歩いてきたのに……楽しい時間はあっという間に過ぎてまう。
 ウチは目的地である青島保育所を見てみる。
 木造作りの建物で小学校を一回り小さくしたような大きさ。
 一階建てで、花壇がいくつかあるけど、何も花は咲いていない。窓には紙で作ったお花が賑やかに咲き乱れている。
 高校生がこの場にいるのは、かなり浮いてしまっていて、少し躊躇してまう。

「とりあえず、インターホンならすか?」
「そうですね」

 桜花ちゃんが待ってるし、早く向かえにいかんと。また、一人で泣いてないやろうか?
 少し心配になってきた。

「……なあ、朝乃宮。本当にいいのか? 俺と一緒に迎えに行ったら、その……変な誤解されるかもしれない。嫌な思いをするかもしれないぞ?」
「別に問題ありません」
「そ、そうなのか?」

 どういうこと? ウチと誤解されたら困ることがあるの?
 ムカっ!

「それとも、藤堂はんが嫌なんですか?」
「俺は全く問題ないぞ」
「……」

 だ、だから、いきなりそういうストレートなこと言わんといて! テレるやないの!
 だったら、聞かんでええやん!
 気遣い方が違いますから!

「朝乃宮?」
「イヤホン、押してもらえます?」
「お、おう」

 もうもうもう!
 ウチだけ過剰反応してる気がする……藤堂はんってもしかして、女慣れしてる?
 何かずるい!
 藤堂はんが保母さんの後を追って建物内に入ろうとしている。ウチもついていかな……。

 クイクイ!

「……」
「……」

 いきなり幼女にスカートを引っ張られる。
 誰?

「あたし、いそのあさこ。ごさい」
「……」
「さいきんね、なんでかな? さんさいをこえたころからかな? イライラする」
「……」
「イライラする」

 な、なんなん、この子……服装からして、ここの保育児みたいやけど。
 五歳くらいの女の子がウチのスカート、離してくれへん。

「わたしにはね、おねえちゃんがいるの。そのせいであるばむにはおねえちゃんのしゃしんばかりで、わたしのしゃしんがすくないの。しかも、おねえちゃんといっしょのしゃしんばかりなの。わたしのしゃしんがもっとほしい!」
「……」
「わたし、ままになんどもなんどもおねがいしてやっとわたしだけのおもちゃをかってもらったの! でも、おねえちゃんにとられたの!」
「……」
「そんなわたしはいそのあさこせだい!」
「……」

 ど、どう反応せえって言うねん。芸やなくてただの愚痴やん。特に最後、意味分からん。
 まあ、五歳児にも悩みがあるってことだけ分かった。
 ウチが五歳の頃は……愚痴すら許されなかった……。



「この屑! 一度で覚えろ! お前は朝乃宮の血をひいているんだぞ! 無様な姿をさらすな!」
「堪忍です! 堪忍です!」
「謝るくらいなら失敗するな、この屑が! 少しは頭を使え、阿呆が!」



 そう……何度体罰を受けたことか……何が朝乃宮の血やねん……ウチが望んで朝乃宮家に生まれた訳やない……。
 それどころか……。

 くいくい!

「?」

 気がつくと、幼児に囲まれていた。
 これって、歓迎されてる? それとも、警戒されてる?
 相手は小さい子やし、下手に動けない……。

「あたらしいせんせーだ!」
「きれい!」
「わたし、ゆいちゃん! よろしくね!」

 ちょっ!
 スカート引っ張られてる! なんで!
 なんや歓迎されてるけど、歓迎しすぎ!

 幼児が手を伸ばしてくるので、腰を落として、同じ視線で話そうとすると……。
 背中に抱きつかれた!
 幼児ってエネルギーの塊っていうか、元気すぎひん?
 こ、こら! 髪を引っ張らんといて!

「かれしいますか?」
「いません」
「すきなひといますか?」
「います」
「すきなたいぷは?」
「優しい人」
「ぼくとつきあいませんか?」
「十五年後出直してきなさい」
「けつえきがたをおしえてください」
「O型」
「すきなげいのうじんはだれですか?」
「平坂紫耀君!」
「こいとゆうじょう、どっちをとりますか?」
「恋」
「ざゆうのめいをおしえてください」
「八方美人」
「さくらんぼ、くちのなかでむすべますか?」
「結べる」
「おっぱいさわらせてください」
「ママのおっぱいでもさわっとき」
「これ、わたしのかれし!」
「可愛ええ子やね」
「いろめつかわないで!」
「……」
「わたし、ハワイにいったことある!」
「ウチはアメリカイギリスウルグアイエジプトオーストラリア行ったことありますけど?」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ……ぐすぅ……」
「……ごめんなさい」
「ぼくのこどもをうんでください!」
「お断りします」
「みんな! やめなさい!」

 エプロン姿の女性が幼児をなだめてるけど、全然聞こうとしない。
 はははっ……ウチ、オモチャにされてるわ。
 後、質問多過ぎ。最後の二人はマウントとってくるし、SNSにいる変態的な男の質問してくる子もおらんかった?
 五分くらいされるがままにされ、ようやく子供達は去って行った。
 はぁ……髪の毛がボサボサや……。

「ごめんなさい! 保護者……じゃなくて、お姉さんですか?」

 後ろから声をかけてきたのは別の保母さん。
 ウチは動揺を諭されないようそっけなく答える。

「……宇佐美桜花のお迎えです」
「桜花ちゃんの? どうして、アナタが……」

 今、保母さんの顔が一瞬曇ったことを見逃さなかった。
 やはり、桜花ちゃんには秘密がある。それに、この人……油断できへん。

「親戚です。桜花ちゃんのご両親は事故でお出迎え出来ませんので、桜花ちゃんのおじさまからウチが代わりにお出迎えにいくよう頼まれました。連絡がいってると思いますけど?」
「……案内するわ」

 ウチの予想通り、おじさまは手回ししてくれたから、すんなり受け入れてもらえた。
 けど、改めて疑問が残る。
 おじさまと桜花ちゃんの関係。血の繋がらない子にそこまでする理由は?
 それに目の前の保母さん、何か隠している。


「大変だったでしょう? 子供達の相手は」
「……いえ、元気があって、純粋でみんなええ子です」

 疑問はあるけど、今は桜花ちゃんを迎えにいかんと……。

「純粋? 確かにそうね……子供達ってね、若い子が好きなの。私も最初はちやほやされたんだけどね……別の若い先生がくると、そっちにいっちゃうのよ……なんでだろうね?」
「……」

 それをウチに聞く!
 なんや、冷や汗が……。

「それにね、先生って大変なの。子供達が帰ってもやること多いし、保護者にはいろいろと言われるし、出会いなんてないし、彼氏できないし、ほんと大変なの……私……なんで生きてるんだろ……」

 お、重い! 重すぎる!
 闇が深すぎる! この人、自殺するんちゃう? 不安やわ!

 ~~♪ ~♪ ~~♪

 スマホの着信音が鳴った。
 この音は藤堂はん?
 あっ……忘れてた。

「はい」
「朝乃宮か? 悪い、緊急事態だ。すぐに来てくれ」
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