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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/5 その二

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「それでな、咲。藤堂はんったら、特訓やからって本気で殴ってくるねん! ウチの事、大事な家族言うてたのに! つい、泣いてもうたわ。けどな~けどなぁ~、その後、すっごく申し訳なさそうな顔して謝ってきたんよ~。あんな顔されたら、許すしかないわ~」
「……」

 ウチは藤堂はんと同棲した時の話し、昨日のことから今日の事を咲に話していた。
 たった一日のことやのに、話すことがいっぱいで登校時間だけでは語り尽くせへん。
 吐く息は白くて、肌を突き刺す北風に身が凍えそうやけど、心の中はぽかぽかしてる。
 もっと、もっ~と、藤堂はんと一緒にいたい!

「……なあ、咲、ウチが話してるのにスマホ操作するの、やめて欲しいんやけど……」
「……」
「さ~き~」
「……」
「咲、話し聞いてます? 咲に無視されるの、悲しいんやけど」
「あっ、我が家は恋愛禁止なんで」

 ……。

「はぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
「おごぉ! ち、ちーちゃん!」
「ウチ、そんな話し聞いてないんですけど! その時代錯誤な生類憐れみの令並の屑法案何なん? 即撤廃を要求したいんですけど! けどぉ!」
「おぅおぅおぅおぅ!」

 ウチは咲の襟首を掴み、何度も揺さぶる。

「何で恋愛禁止なん!」
「だ、だって、目の前でイチャつかれたらイラッとくるじゃないですか! それに私達風紀委員ですし。あっ、うまいこと言いましたね?」

 ……。

 ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン!

「うぅうええええええ~~~~! ひぃちゃあああああん」
「咲、ウチな、関西人やし、つまらんボケは許せへん性格やねん!」
「きひぃひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 それ、思いっきり私怨やん!
 人の恋路を邪魔するお馬鹿さんは馬に蹴られるで!

「もう! 暴力反対! 家庭内暴力は禁止事項ですから! それとずっと気になっていたんですけど……その重箱、何ですか?」
「ふふふっ……ええ、質問や、咲」
「いや、これ見よがしに見せてきたら誰だって……後、同棲じゃなくて、同居ですから」
「これは昨日から仕込んで今朝作ったお弁当です。藤堂はんに食べてもらいたくて気合い入れて作ってきました! よく言うやろ? 男は胃袋で掴むって!」

 完璧な作戦!
 これで藤堂はんの気持ちもウチに……。

「ちょっと重い……重箱並に重いです……兄さん、引くかも……って、泣きそうな顔しなくても!」
「……咲が意地悪言うからです……そんなこと言わんでも……」

 えっ? ウソ……ドン引きされる? 気合い入れて作ってきたのに……。
 ううっ……重箱がすごく重く感じる……なんか、悲しくて涙が……。

「……に、兄さんはそんなこと、気にしないと思いますよ! きっと、感謝してますよ!」
「……ほんま?」
「兄さんは一生懸命自分の為にしてくれた事をバカにする人ですか?」

 それは……。

「……せえへん」
「なら、大丈夫です!」
「ほんま?」
「絶対です!」

 せやな! 藤堂はんはそんなことせえへん! 少し融通が利かへんけど、真正面から受け止めてくれるし、大丈夫! 絶対に引かへん!
 ウチも心のどこかでやり過ぎやと思っていたけど、大丈夫やと思ったら、心が軽うなった!
 なんや、鼻歌歌いたい気分になってきた!

「それなら、今日のお昼ご飯、私はご遠慮した方がいいみたいですね。部室を使っていいですから……」
「咲……」

 ほんま、ええ子や……。
 だから、ウチは咲の事が好きや。
「お礼ならいいですから。意地悪言ったお詫び……」
「それなら、藤堂はんを誘ってな」
「……はい?」
「ウチが誘うのははしたないし、咲から誘ってくれます?」

 そもそも、ウチはお弁当を作ったわけやし、藤堂はんがウチをお昼に誘うべきや!

「いやいやいや! おかしくないですか? 兄さんの為にお弁当を作ったんでしょ! それなら、ちーちゃんが誘うのが筋でしょ! 兄さんは重箱のこと、知らないんですよね? あの堅物が女の子を誘うとかないし!」
「だって、ウチが誘うの恥ずかしいし……それにウチは大事な家族やし……」

 特別な存在やったら、誘ってくれてもバチは当たらないし。ウチはずっと誘ってくれるの待ってるのに……。
 ウチは藤堂はんとずっと一緒にいたい。けど、時々、無性に恥ずかしくなって、まともに顔が見れへん時がある。

 藤堂はんはどう思ってはるんやろ……ウチの事……。
 藤堂はんって、ウチと仲良うやっていきたいとか思ってくれてないんやろうか……。
 問題なかったら、それでええってカンジがするし……。
 それとも、藤堂はんって……そこまでウチの事、好きでもないってこと? LIKE程度?

 はぁ……自信なくすわ……結構、告白とかされるのに、ウチ、自意識過剰だっただけ?
 それなりにというか、結構美意識を高く持ってると思ってたのに……。
 好きな人には振り向いてもらえるよう、髪も肌もスタイルも姿勢も言葉遣いも意識してるのに……。

「面倒くさい乙女ですね! ちーちゃん! 言っておきますけど、男関係のお願いをしてくる女は性格悪いですよ! 兄さんも人を利用する女性を好きになるとは思えません! それに恋愛ってそういう苦労や勇気を振り絞って行動することこそ、意味があるというか……」
「……さっき、意地悪した償いをするって言ったのに……」

 じぃ……。

「……だから……」
「言ったのに……」

 じぃ~~~。

「……」
「……言ったのに」

 じぃいいいいいいいい!

「……ああっ! もう! 分かりました! 分かりました! 私が誘えばいいんでしょ!」
「そんなに怒らんでも……別に嫌ならええんですけど」
「それなら、嫌です!」
「咲、この会話、咲が了承するまで無限ループするけど、ええの?」
「本当に面倒くさい! ああっ! 分かりました! 分かりましたから! 引き受ければいいんでしょ! やりますよ!」
「咲! 愛してるわ~」

 ウチは咲に抱きつく。

「都合よすぎ! 私はちーちゃんにとって都合のいい女ですか!」
「そんなわけないやん! 咲がニートになってもウチが面倒みたる! プリンも買うてあげるから!」
「その正月ネタはもういい!」

 ああ~、早く昼休みにならんかな~。
 楽しみや~。
 お弁当の中身は藤堂はんの好みばかりそろえてきたし、絶対完食してくれる!
 藤堂はん、ウチの事、見直してくれるやろうか?
 そしたら……。


「千春、今日のお弁当、最高に美味かった。千春の愛情を感じた」
「藤堂はん……」
「千春、これからも毎日俺のご飯を作ってくれないか?」
「そ、それって……」
「千春! 好きだ! 結婚してくれ! 俺には千春しかいないんだ! 俺を捨てないでくれ!」
「大丈夫です、正道。ウチがずっと、ずっと……飼ってあげますさかい、正道は何の心配もしなくてええですよ。何の心配もね」
「千春……」
「正道……ウチの事はご主人様って呼ぶように」
「はい、ご主人様……」


「いややわぁあああああああああああああああああああああああ! ウチ、ご主人様やなんて呼ばれるの、恥ずかしいわぁああああああああああああああああああああああああああああ!」
「本当に恥ずかしいよ、この人! まさかのヤンデレルート! 姉のとんでもない性癖見ちゃいましたよ! 兄さん、逃げてぇ~~~~~~」

 ふふふっ、覚悟してな~藤堂はん!

「はぁ……ダメだ、この人。チキンだし、人任せだし。きっと、兄さんは他の女の子を好きになるんでしょうね……勇気ある女の子に。兄さんって案外、モテる……」
「……とられる? モテる? それ、どういうこと?」
「ち、ちーちゃん、目が怖い……ぐぽぉ!」
「……いるん? そんな人、おるん?」

 えっ? ウソやん。そんな女性いるわけない。
 いるわけがない。
 大事なことやし、二回言ったけど。

「い、いませんから!」
「……ほんまに? そんなこと言うって事は何か根拠があるんとちゃいますの! なあ! なあ!」
「おはようございます! お姉様!」
「……おはようございます」

 下級生の子が来たので、この話は強制的に終了になってもうた。
 咲はそそくさと逃げてまうし、追いかけることができへん。きっと、LINEで尋ねても無視されるのがオチや。

「今日は最高の朝です! お姉様に会えるなんて!」
「大げさすぎです。でも、ウチも会えて嬉しいです」
「きゃああああああああああ!」

 顔は笑っていても、内心湧き上がってくる不安に押しつぶされそうになってる……。

 藤堂はんを想っている子、いないと言い切れる? 伊藤はんや平村はん、白部はんみたいな子がいないと断言できる?
 逆に藤堂はんが気になっている子がいるかもしれへん……ウチが知らんだけで、本当は誰かと付き合ってるとか……。
 そう想像するだけで怖くて足が震えてまう。藤堂はんが他の子と仲良うしてる姿を想像するだけで嫉妬して泣きたくなる……。

 ウチってこんなに独占欲が強いん? 情けない……格好悪い……品がない……。
 いやや……いやや……ウチ……藤堂はんに失望されたくない……藤堂はんの前では常に理想のウチを見て欲しい……。
 これは調査せな……。
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