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番外編 その三

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 このお話は『第六部 俺達の家族 -結成編-』の『エピローグ メリークリスマス!』から二日後のお話です。
 『第七部 俺達の家族 -団結編-』の『兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE』の物語を補足する内容となります。


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「……それでは午後五時に京都駅前で。迎えをよこしますから」
「分かりました」
「ちっ! 妾の子が」
「……」

 はぁ……悪口言うのなら電話を切ってから言えばいいのに……ウチかて不愉快やわ。
 ウチはため息をつきつつ、改めて朝乃宮家の醜悪さにほとほと呆れていた。

 ウチにはある秘密がある。そのせいで、朝乃宮家から疎まれている。
 父様はウチの事を見ようともしない。母様は静観しているだけ。
 兄様も妹はウチに近寄ることを禁じられている為、接触できない。

 ウチの事嫌っているくせに、あのお人らは正月や盆には本家に戻るように命令してくる。ただ体面を守るために……。
 ほんま、下らない……。

 けど、ウチは本家から逃げられない。この体に流れる忌々しい血のせいで……。
 いや、朝乃宮家は誰もが逃げられない。
 朝乃宮家最大の権力を持つ御館様からは……。

 ぞくっ!

 あかん……考えるだけで冷や汗がとまらへん……ウチの魂にまで浸食されてる……御館様のあの爬虫類に似たおぞましい目つき……全てを屈服させる恐怖……あの暗闇で襲われた恐怖……。
 ウチは深呼吸を何度も繰り返して落ち着かせる。
 大丈夫……ここは青島……御館様はいない……でも……ウチは……ウチのカラダは……汚された……。

 ちゃうちゃう! 考えたらあかん!

 ウチは首を横に振って無理矢理考えを打ち消す。
 島流し同然でこの青島に送られたけど、朝乃宮家の親族と会わずに済むのは僥倖。
 それに……。

「咲に会いにいこ」

 青島には陽菜の妹、咲がいる。
 ウチが最も心を許せる相手。護るべき相手。
 学校も冬休みで何時でも会えるし、咲に会って、嫌なことは忘れよ。
 そう思っていたんやけど……。

「それとこれとは話しが別だ」
「うぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
「……」

 またあの男……。

 藤堂正道。
 藤堂はんの母親、藤堂澪はんと咲の父親、上春信吾はんの結婚で、ひとつ屋根の下で二組の家族が一緒に暮らしている。
 藤堂はんは咲の兄として。
 咲は藤堂はんの妹として接している。

 咲は藤堂はんと仲良くしたいと思ってるみたいやけど、藤堂はんは母親の反発から結婚を拒否している。
 そのせいで、咲へのあたりが強い。咲を泣かせたこともある。

 ウチがこの家にいるのも、咲を護る為。
 ウチは藤堂はんのこと、あまり好きになれへん。
 真面目で臆病。弱いくせに自分の思い通りにならないことに異を唱える愚か者。
 何より咲を悲しませる厄介者。

 それがウチの藤堂はんの評価やった。
 けど……今は少し考えを変えている。
 藤堂はんは咲や信吾はんでも無理やった強はんの心を開いた。
 強引なやり方やったけど、藤堂はんらしく、まっすぐで臆病で、それでも救いたい葛藤を抱きながら、やり遂げた。

 正直、見直した。
 その後、すぐに咲と大喧嘩したけど、なんだかんだで仲直りし、今は不器用ながらも二人は兄妹として接している。

 少し嫉妬してまう……。
 ウチが咲のお姉さんやったのに、陽菜が目覚めるまでの唯一の姉妹だったのに、藤堂はんがずけずけと割り込んできて、咲はそれを受け入れている。
 そのせいで、咲の口からは嬉しそうに藤堂はんの事ばかり聞かされることになる。(悪口が大半やけど)

 ウチはそっと二人に背を向けた。
 咲が頑張って藤堂はんと家族になろうとしている。それなら、ウチが邪魔するわけにはいかへん。
 勿論、何かあったら介入するけど、今は見守るのが姉としての役目。
 それ故、この場は身を引く。
 けど……。

「ウチと家族になってくれはるお人はいるんやろうか……」

 ウチはずっと孤独……。
 咲がいるけど、咲は妹で姉であるウチは絶対に弱音を吐くわけにはいかない。
 ウチの隣に……ウチの事を護ってくれる人は……誰もおらへん。
 孤独には慣れたけど……ふいに泣きたくなる時がある。
 胸を締め付けるような孤独が押し寄せてくる時がある。
 ウチにも……家族が……ウチの事を愛してくれる家族が欲しい……。
 そう思わずにはいられなかった。



「もう! あの男は! ほんま空気読めへん天才やわ!」
「まあまあちーちゃん」

 ああっ~~~ムシャクシャする!
 あの男、細かいツッコミばかりして、癒やしタイムを台無しにして!
 せっかく、ウチの大好きなドラマ『晴れのちあっぱれ』を見て、嫌なこと忘れようとしてたのに、あの男は!
 どうでもええわ! ドラマにツッコミ入れるな!
 言われんでもわかっとるわ!

「……」
「何か?」
「いえ、ちーちゃんからアイドル以外で男の人のこと聞くの、初めてだと思いまして」
「……違いますから。そういうのと違いますから」
「私は兄さんとちーちゃんが結婚したら、私と姐共々本当の家族になれるって思っているんですけど~」

 ウチと藤堂はんが結婚?
 そんなこと……。

「ありえへん……藤堂はんは分家。本家と分家が縁を結ぶことはありえへん。そんなこと、御館様が許すはずがない……ウチは政略結婚の道具なんやし……ほんま、呪縛やわ……」

 そう、結婚に関してはウチの意思は存在しない。
 ただ、道具として身を売られるだけ。
 ウチは生まれたときから、朝乃宮家の血を引いたときから自由が存在しない……。
 自分の倍近く年の離れた男と結婚させられて、子供を孕ませられて、育てていく。
 そんな地獄、想像するだけで恐ろしい……。

「……分かりました、私がなんとかします!」
「……咲?」

 なんとかって……。

「私がちーちゃんに恋を教えます!」
「こ、恋?」

 な、なんでそんな話しになるん? 意味分からへん……。

「ちーちゃん言ってたじゃないですか? 恋がしたいって」
「それは……そうやけど……」
「私じゃあ力になれないことは分かっています。だから、ちーちゃんが呪縛から逃れられるよう強力な協力者を探します!」
「強力な協力者?」

 それって誰?
 朝乃宮家には……御館様には誰にも逆らえない。
 きっと総理大臣でも無理。

 御館様には人ならざる力がある。これは決して過剰表現ではなく、本当のこと。
 御館様の力は未来を見通す力とありえへんほどの運に護られている。
 これは実際に目にせえへんと理解してもらえへんけど、ウチはその一端を見たことがある。

 大げさに言えば、御館様の頭上に核爆弾が落ちたとして、風で爆弾は着地点をずらされ、100%不発に終わる。
 それを百万回やっても必ず同じ結果になる。
 これが運の強さで護られているやなんて、誰も信じへんと思うけど、実際に見たら本能でそう理解させられる。魂を屈服させられる。

 それに財閥解体やバブル崩壊、世界金融危機といった事も御館様は分かっていた。でなければ、破産どころか逆に財力が増えるなんてありえへん。
 朝乃宮家には莫大な財産がある。それは国家予算並み。
 それを国家ぐるみで隠蔽されているらしい。その秘密を知ろうとすれば、即排除される。

 御館様は秘密を知ろうとする者……ではなく、秘密を調べるであろう人物を予言し、確実にその人物を亡き者にする。例え、世界の裏側でもどこにいるのかを100%予知し、子飼いの部隊を使って確実に排除する。
 それが御館様の未来を見通す目。
 ほんま、口にするだけで馬鹿らしい。それでも、現実で結果が残っているので否定させてくれない。
 そんなバケモノ相手に協力者なんて意味がない。

「そうです! 兄さんです!」
「……はぁ?」

 それこそありえへん。
 藤堂はんが助っ人? ウチにすら勝てへんのに?

「兄さんは真面目で何事も一生懸命で納得いかないことは全力で抗う人です。駆け落ちくらいしますよ」

 いや、駆け落ちって……ただ逃げてるだけやん。

「それともちーちゃんは『朝乃宮』を捨てる覚悟はないんですか?」
「『朝乃宮』を捨てる覚悟? そんなん、のしをつけて返したいに決まってます」
「本当に? 金持ちでなくなって貧乏になるのが嫌なだけじゃないんですか? それとも、悲劇のヒロインでなくなって特別でなくなるのが耐えがたいですか?」

 言ってくれる。
 ウチは作法や武道だけでなく、経済も骨の髄までたたき込まれている。
 朝乃宮家の力を行使したとはいえ、ウチの個人資産は億を超えてる。現に青島にあるウチのマンションの家賃は自分で支払ってるし。
 それに悲劇のヒロインになりたいなんて一度も思ったことはない。

「今日の咲は意地悪やね。ウチ、悲しいです」
「また誤魔化す。ちーちゃんの悪い癖ですよ。私は諦めませんからね! とにかく、兄さんとは喧嘩しないこと! 仲良し家族がモットーなんですから! 仲直りしてください!」

 えっ? それ、咲が言う?
 抵抗したかったけど、咲は無理矢理ウチを部屋から追い出した。
 はぁ……。
 咲がウチの事、考えてくれてるんは嬉しいんやけど……どうしろと?

「朝乃宮」
「……何です?」

 後ろから声をかけてきたのは藤堂はん。
 これって偶然? それとも、咲の思惑?
 結婚って言葉が脳裏によぎってつい目をそらしてしまう。

「その……すまなかったな」
「?」
「ドラマ見ているときに余計な事言ってしまったことだ。気分を台無しにして悪かった」

 ……ほんま、バカ真面目やわ……。
 そんなことでいちいち謝りに来る必要ないのに……。
 まあ、咲から仲直りするよう言われてるし、それなら……。

「ウチこそ、鉄扇でツッコみいれてごめんなさい」
「本気で謝ってないだろ?」

 よう分かってるやん。
 お互い笑ってしまう。

 藤堂はんと結婚か……。
 ないない。ありえへん。
 結婚したら、窮屈そう。その前に恋人すらないわ。
 藤堂はんもウチと付き合うとかありえへんと思ってるわ。

 それなら……ウチらはきっと……。

「藤堂はん。お願いしたいことがあるんやけど」
「なんだ?」
「年末ですけど……」

 ウチはあるお願いをした。



        - To be continued -
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