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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

2/1 その九

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「なあ、大将」
「なんだ?」
「このおつまみ、味が変わったのか? 大将の味じゃないし、夏帆さんの味付けと違う」
「ああっ、すまん。いつもの方が美味しかったか? すぐに……」
「いや、美味い! 二人の味より断然こっちの方が断然美味い! おかわり……ぐえぇ!」
「……」
「あ、あのさ、大将」
「んだよ。松も味の事で言いたいことがあるのか?」
「そ、そうじゃないけどさ……その……なんだ?」
「言いたいことがあるならさっさと言え。一緒に青島制覇を目指した仲だろ?」
「それじゃあ言わせてもらいやすけど……そのおかめの仮面を被った女の人、誰です?」
「……今日限定の女将だ」

 誰が女将やねん!

「らっしゃい!」
「女将、熱燗あつかんと枝豆、大根と卵の煮物くれ!」
「俺はさっき出してもらったとり天!」
「ワイは豚の角煮をもう一度プリーズ!」
「イカの蒸し煮をおかわり!」
「おかめさんが作ったあさりの酒蒸しをくれ!」
「たこわさ!」
「漬物盛り合わせ!」
「女将! 用意してやってくれ!」
「……」

 ウチはせっせと注文された料理を作る。
 なぜ、ウチがおかめの仮面を被って料理を作っているのか?
 それは……。

「ほらね、兄さん。私のアイデア、うまくいったでしょ?」
「……おい、夏帆よ……少しはプライドをもて。俺達の味が……親父とお袋の味を否定されたんだぞ。どいつもこいつもおかめをリクエストしやがって。指名制の店じゃねえんだぞ、ここは!」
「別に私達、お父さんとお母さんから料理、教わってないよね? それに親不孝ばかりしてたじゃない。兄さんなんてお父さんといつも取っ組み合いの……」
「あぁ~~あぁああ! 聞こえない! 聞こえない!」

 そう、夏帆はんのせい……。
 料理の下ごしらえを手伝っていたとき……。



「……美味しい」

 夏帆さんのこの一言が全ての始まりやった。

「やっと兄の偉大さが分かったか。これからは兄の味付けにケチをつけず、兄を敬い……」
「違うわよ。千春の味付けが美味しいのよ」

 別にたいしたことやない。
 この二人の味付けが雑なだけ。確かにビールにはあう味付け。
 けど、日本酒にはあわない。
 どちらかというとジャンクフード。

「どれどれ……おっ! マジで美味いじゃん! 日本酒に合いそうだな!」
「ねえ、他の料理も出来るんでしょ? それに焼酎や梅酒にも合いそうな料理も作れるでしょ?」
「……別に」

 想像はつくし、レシピも頭の中にある。

「それなら、今日は千春が料理を作ってよ」
「「はぁ?」」

 夏帆はんの意見に、ウチと榊原はんはなぜと言いたげに声を上げる。
 ウチ、ただの手伝いだけやし。それに素人がお店のモノ作ってええの?
 多分、榊原はんが食品衛生責任者の資格を持っているから、問題ないと思うけど……。

「いつも同じ味って言うのも文字通り味気ないし、北区や銀行も怪しい動きをみせてるし、こここいらで変化が欲しいじゃない。新しい風を取り入れるっていうの?」

 怪しい動き? 少しだけ気になる。
 けど、その前に、新しい風って……ウチは今日だけの臨時やで? 意味ないし。

「それに正道君が働いているところ、体験してみたいでしょ? 気になるよね?」
「……」

 この女、ほんま、人の神経を逆なでさせる。
 ひしひしと肌で感じるわ。負けないと。
 けど、好感は持てるわ。その気持ちを隠さずにまっすぐ挑んでくるところが。
 挑まれたら叩きのめすんが青島の流儀らしいし、郷には入れば郷に従えって言葉もあるし。

「けど、顔はどうするんだ? 腫れてきてるぞ?」
「それなら、これがあるじゃない」



 それで、おかめの仮面ってわけ。
 はぁ……

「今日限定の女将か……大将も早く結婚すりゃあいいのに」
「この人、いざってなると臆するチキンだからな」
「そうそう。レディースの三隅さんが大将に告白してきたときも……」
「おお~い、そこの客共。生きて帰りたかったら、黙って食え」

 女将……結婚……。
 な、なんで藤堂はんの顔が……いやいや、違います!
 ウチが藤堂はんと結婚とか……。
 けど、好きな人と一緒にお店をもつとか……ええわ~そういうの……。
 小さい店やけど、アットホーム感ある落ち着いた店で、隣には愛しの旦那様がいて、ウチはその人と一緒に……。


 妄想中
「千春、このおひたしを頼む」
「はい、旦那様」
「おい、千春。今は仕事中だぞ。営業中は店長と呼べ」
「ごめんなさい」
「……いつもありがとな、千春」
「えっ?」
「すごく感謝しているんだ、千春には。俺、千春と結婚できたことが、人生最大の幸福だと実感している。ふがいない俺だけど、ずっとついてきてくれないか? 俺のそばにいてくれないか?」
「はい、旦那様。ウチはずっと正道の隣にいます」
 妄想完了


「それなら、俺がアタックしていいっすか?」
「おいおい、仮面をしてるんだぞ? 顔も見ないで口説く気かよ?」
「俺には分かる! このおかめの女性は間違いなく和服美人、ヤマトナデシーだ! それにあのデカい胸と安産型のケツ! 絶対にいい女だぜ!」
「俺は手つきや姿勢が好みだな。あれほど綺麗な仕草をするヤツを見たことがねえ! 絶対いい女だぜ!」
「こら、ヤス! セクハラだぞ。悪いな、おかめ……」

 トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン!

「「「うぉおおおおおおおおおおお!」」」

 いやややわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
 あかんあかんあかんあかんあかんあかん! 背中がかゆい! テレるわぁあああああああああああああ!
 千春とか呼び捨てで呼ばれるん、恥ずかしいぃいいいいいいいいいいいいいいわぁあああああああああああ!
 それに正道とか! 呼び捨てとか!
 けど、ええわぁああああああああああああああああ!
 夫婦二人、仲良うお店をしたいわぁあああああああああああああああああ!

「ちょ、ちょっと! 千春ちゃん! 鶏肉が! 鶏肉をミンチにするつもりか!」
「こええええ! おまめ、こええええええ! 金○一少年の事件簿みたいな怪人だよ!」
「あ、謝れよ! お前が胸がデカいとか言うからだろ!」

 ええわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!
 ええわぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!

「……」



 -To Be Continued-

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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
 小説家になろう様で投稿しています藤堂正道SIDEの2/1が終わっていないため、一度、投稿をとめます
 藤堂正道SIDEの2/1の物語が終わり次第、再開します
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