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兄さんなんて大嫌いです! 朝乃宮千春SIDE

1/31 後編

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「はぁ……うまくいかへん……」

 夜、シュナイダーはんに晩ご飯を与えながら、ウチはどうしたらあの石頭と咲が仲直りできるか、考えていた。
 本当は強はんの当番なんやけど、今強はんはおばさまから料理の手ほどきを受けている。
 強はんが家族に積極的に関わるのはいい傾向やし、今日はウチがシュナイダーはんのご飯役を買って出ることにした。

 強はんを変えたのは、間違いなく藤堂はん。
 最初はお互いぎこちなくて、口数が少なかったけど、シュナイダーはんを機にお互いぶつかりあい、喧嘩して、それでも、お互い信じ合って、今では強い絆で結ばれている。
 信吾はんや咲でも強はんの心を開くことが出来なかったのに……いや、二人の貢献と土台があったからこそ、強はんは藤堂はんに心を開いたんやけど……。
 あの優しさを少しでも咲に……ウチに向けてくれたらええのに……。
 ウチに振り向いて欲しい……ウチだけを見て欲しい……。
 あかんあかん! 今は咲の事を考えなぁ!

 藤堂はんも道理が通っていれば、咲に謝る。けど、間が悪いというか、何というか……。
 兄妹喧嘩って難しい。

 そういえば、ウチ、兄様と喧嘩したことがない。立場上、意見することすら許されなかったとはいえ、一度くらいは喧嘩しておくべきだったかも……。
 けど、兄様はウチなんかを相手にしてくれるわけがない……。
 はぁ……。

「くぅん~」

 シュナイダーはん?
 いつの間にか、シュナイダーはんがウチの指を舐めていた。くすぐったい。
 もしかして、慰めてくれている?

「おおきに……」

 心が少しだけ軽くなるのを感じつつ、シュナイダーはんの頭を撫でると……。

「くぅん……」

 シュナイダーはんはコロリと地面に転がり、お腹を見せた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 確か、犬がお腹を見せるのは愛情表現。
 可愛いとこあるやないの。ウチは猫派やけど、犬も悪く……。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 ん? なんで震えてるん?
 何かおかしい……鼻をずっと舐めてるし……気を許しているというよりは、怯えて……。

 チロチロチロ……。

 おしっこ!
 これはもうまごうことなく、降参のサインやん!
 シュナイダーはんってウチのこと、失禁して降伏するほど怖がってたの! 何もしてないのに!

「朝乃宮?」

 どきぃ!

 ふ、藤堂はん!
 なんで?
 いや、シュナイダーはんを溺愛している藤堂はんのことや、ご飯を持ってきた可能性が高い。
 ウチは明鏡止水の心境で尋ねる。

「……何か?」
「いや、シュナイダーに晩ご飯を持ってきたんだ」

 やっぱり! これはマズイ!

「シュナイダーにご飯、持ってきてくれたのか?」

 今のシュナイダーはんを見られたらドン引きされる! 別にウチのせいやないと思うけど、こんなところ、見られたくない!
 何がなんでも隠し通さないと……。

「そうです。だから、戻ってください」
「?」

 この寒空の下、冷や汗が止まらない……。
 このままやと、ウチがシュナイダーはんにひどいことしてるみたいに見られてまう。
 そうなれば、ウチと藤堂はんの仲は……考えただけでも恐ろしい……。

「さっさと戻った方がええんとちゃいます?」
「……」

 はよ! はよ帰って!
 お願いやから!
 あかん! もう限界!
 息苦しくて平静でいられへん!

「まだ、何か?」
「……なんでもない」

 ふぅ~、なんとかなった……。
 後ろを振り返ると、シュナイダーはんが捨てられた子犬のような目で藤堂はんに……。

 ふん!

「!」

 なんとか、シュナイダーはんの口を塞ぐことに成功!
 危なぁ!
 藤堂はんはウチらのことに気づかずに、肩を落としてその場を去って行った。
 さて……。

「シュナイダーはん……」
「くぅん! くぅん!」

 いや、涙目になって必死に首をふらんでも……。
 別に折檻するわけでもないし、何もせえへんねんけど……いや、これから先、また同じような場面になると厄介やし、少し調教を……。

「くひぃん!」
「シュナイダーはん……分かってますよね?」
「くぅん! くぅん! くぅん!」
「ちぃ……ちぃーちゃん……」
「!」

 見られた!
 咲がいつのまにか庭に出ていて、呆然とこちらを見ている。
 ウチはシュナイダーはんを解放する。
 シュナイダーはんは我先に小屋に戻っていく。
 ウチはゆっくりと立ち上がる。

「咲」
「……」
「分かってますよね?」



「ほんと、可愛くないガキよね、あんた。そういえば古都音もそうだったわ……いや、今もそ
うなんだけどさ、昔ね……」

 アンタもか~~~~~~~~~~い!
 はぁ……まさか、澪はんが雅はんと同じ過ちを繰り返すとは……。

 どん!

「なによ、うっさいわね」
「ま、待て! 危険だ!」
「危険? アンタ、まさか本当に怪奇現象だと思っているわけ? 笑える」

 ……。

「何よ、何も……」

 ガッ!

 CQC完了。

「み、澪さん! しっかりして!」



 この手だけは使いたくなかった……。
 けど……。
 ウチは長尾はんからの秘策……であろう愚策を試してみる。
 長尾はんから受け取った袋に入っていた本を部屋の前に並べる。

 こんなんで、ほんまに藤堂はんは咲と仲直りするんやろうか?
 それでもし、藤堂はんと咲が仲直りしたら、別の意味で心配になるわ。
 はぁ……長尾はん……信じてますえ……。
 藤堂はんが部屋に戻ってきて、その本を……。

「ああっ!」

 蹴り飛ばした! いや、ええんやけど!
 藤堂はんが部屋に戻ったのを確認した後、本を回収する。

「……ほんま、よかったわ……」

 藤堂はんが正常な認識の持ち主でほんまよかったわ……。
 けど、ほんま、どうしよう……。
 咲と藤堂はん、どうしたら仲直りできるんやろうか……。
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